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異世界に来たけど義母が5人もいた上に結構ハードモードだった。  作者: 雨露口 小梅
第二章 戦勝記念式典(ヴィクトリー・セレモニー)
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◇31 脱出 計画策定(プランニング)

 【城壁内 ノイシェーハウ上屋敷・ヴァシュリンガー邸】

 【戦勝記念式典翌日 昼】


 慌ただしく俺の家に戻ると、護衛騎士ガーズ家令ハウスキーパーのヴァルクミューレを呼び出して、寝室に籠った。

 そこには地図がある事を確認していたからだった。


 家令室給仕ハウスキーパー・ルーム・メイドのルイチャーには、呼ばれた全員の昼食を寝室に運んでくる事をお願いする。

 主人の寝室でしかも主人と昼食を共にするなど、とヴァルクミューレの穏やかな拒否の言葉があったが、俺はそれを一言で打ち消した。


 「俺にはそんな余裕が無い」


 そして作法も何もなく、寝室で昼食を取りながらみんなの知恵を借りる事になった。


 「今晩、母達が全員この家に集まる」

 「その母を連れて、使用人全員郊外のノイシェーハウ派遣軍の宿営地にいく事」


 急な展開にヴァルクミューレも護衛騎士ガーズも慌てる。

 しかし俺は細かい説明をするつもりはなかった。

 主人と使用人の立場の違いを最大限に利用する。


 「明日朝、本国ノイシェーハウまで出発して貰う」

 「その経路ルートについて皆の知恵を借りたい」


 全く返事を待たない俺に対して護衛騎士ガーズは戦場の感覚を取り戻し、ヴァルクミューレは固まった後、気持ちを切り替えた。


 「単純に考えれば陸路で帰るか海路で帰るかです」

 「いずれにしても、急ぐのであれば会社カンパニーのヘールデ様のおチカラを借りる必要があります」


 リンヴェッカーがまずは最初のきっかけをくれる。

 俺は地図を見ながら更に促す。


 「もっと詳しく頼む」


 「ノイシェーハウから王都ゴールドキャッスルへつながる道は3本あります」


 ヴァルクミューレの声が俺の背中にかかる。


 「一つは、王国の中心に位置するこの王都ゴールドキャッスルから、最短で南下する中部の王の街道を進む事」

 「そしてもう一つは東部に出て海路を南下する事」

 「最後は西部に出て陸路を南下する事」


 シュールが続ける。


 「中部は全てマリーエンロッゲンと同盟を組んでいて、敵対的です」

 「東部はまだましですが、暗殺と妨害の危険は幾らでもあります」

 「西部を南下するのでしたら、ノイシェーハウに協力的なので危険は少ないと思われます」


 【お母様】で話したマリーエンロッゲン包囲網を思い出す。

 東部はまだノイシェーハウに与していないという事だろう。


 「早いのはどれだろうか」


 リンヴェッカーが後を受ける。


 「東部の海路でしょう」

 「そして中部の陸路」

 「最後は西部の鉄道です」


 ここで初めて聞いた「鉄道」とは何か?

 それを口にする事は出来なかった。

 余りにも当然な口調で話していたからだ。


 俺は記憶を失っている。

 しかしある程度の社会常識は兼ね備えていた……と思う。

 黙祷の一件から、俺は知識や社会常識に慎重にならざるを得なかった。


 「鉄道」というのは、「馬車」もしくは「徒歩」より遅い。

 そういう理解で済ませた。


 「どうして共和国との国境沿いにある西部の領家はノイシェーハウに友好的なんだろうか」


 素朴な疑問を口にする。

 そしてそれは危険な問いだった事を直ぐにリンヴェッカーが教えてくれる。


 「我々を試されているのだと思いますが、お答えいたします」

 「西部の領家は石炭や鉄鉱石の産出輸出と共和国と国境を兼ねている関係で、ノイシェーハウを頼りにしています」

 「会社カンパニーのお陰で鉄道と海路が開かれつつあるので、陸路の中部は面白くないという訳です」


 俺は地図を睨んで考える。


 「このノイシェーハウの前に横たわる川の事を考えたら、危険を冒しても海路の方が早そうだな」


 「しかし安全を考えるなら、戦闘を回避するなら西部を南下する事だと思います」


 リンヴェッカーが食い下がる。


 「ローヤッハ川の下流は川幅が大き過ぎて橋が架けられません」

 「ローヤッハ川の最も下流にあるブランデナウ家はノイシェーハウと同盟を結んでいますが、川の共同管理水軍を持っているほどです」

 「それに対して川上のトリグラウ家とは何本も橋が架かっています」

 「たとえ一本が通れなくても、別な橋を通る事が出来ます」


 要するに、リンヴェッカーは軍事的にも最も安全な西部の道を進めていた。

 今回の俺の目的が安全の確保とわかっているからだった。

 しかしこの世界の知識を持たない俺は、時間をかける事も不安材料の一つだった。


 俺はノイシェーハウから北へ延びる線をなぞって、ラリウス家で切れる部分を確認する。


 「ですが、アクティム様をお世話するとなると、西部はお勧めできません」


 リンヴェッカーの案に対してヴァルクミューレが異を唱える。


 「西部ではお食事が耐えられない程みすぼらしくなります」


 俺は黙る事でヴァルクミューレの発言を許す。


 「東部でしたら海産物から小麦まで、ノイシェーハウ程とは言いませんが、ほぼ全ての食材が手に入ります」

 「中部なら小麦に変わってイモと酪農産物でどうにかなります」

 「しかし西部になると穀物すら育ちません」

 「精々酪農産物となると、長い間アクティム様を我慢させる事になります」


 実に従僕メイドらしい価値観で俺の事を考えてくれている。

 しかし俺はこの間まで戦場にいた。

 正直食事の良し悪しはわからない。

 塩スープの一口が生死を分けるチカラの源になるというだけだ。


 俺は決心する。


 「西部の鉄道を使って南下する」

 「安全が第一だ」


 俺の決心に参加した全員は異論がないようだった。


 「詳細を確認する」

 「この首都ゴールドキャッスルからマリーエンロッゲン家の領地を抜けて南下、パジン家に入る」

 「パジン家で西進し、ツァジン家へと出る」

 「ツァジン家で鉄道で南下し、グロースプリェ家、モトプン家、トリグラウ家を経て、ローヤッハ川を橋で渡り、ノイシェーハウへと至る」

 「これで宜しいな」


 ここにいるヌワを除く全員が首肯する。


 ヴァルクミューレが下準備を教えてくれる。


 「実際に運んでくれる会社カンパニーの協力と、軍を率いて領地の通過を認めてくれるかノイシェーハウ家の協力が欠かせませんね」

 「明日の朝出るのであれば、今すぐにでも人を放たないと」


 そう。

 破たんする位時間が無い事をヴァルクミューレは教えてくれた。

 俺はそれをやり遂げなければならない。


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 次回 脱出 支社


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