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異世界に来たけど義母が5人もいた上に結構ハードモードだった。  作者: 雨露口 小梅
第二章 戦勝記念式典(ヴィクトリー・セレモニー)
74/212

◇30 脱出 危険な情報(デンジャラス・インフォメーション)

 【城壁内 ノイシェーハウ上屋敷】

 【戦勝記念式典翌日 午前】


 邸宅に入ってきた時と違って、渡り廊下を進み、そのままノイシェーハウの上屋敷に入ると、ノイシェーハウの使用人メイドが出てきた。

 上屋敷の扉の内側には警備兵ワッチが立っている。


 俺の後ろに従っていた家令ハウスキーパーのヴァルクミューレ・フィルヴィースが用件を告げると、そのまま俺達の前を進んで案内をしてくれる。


 ヴァルクミューレとはここでお別れだった。

 屋敷には足を踏み入れずに、頭を下げて俺を見送っている。


 流石にノイシェエーハウ上屋敷の作りは、俺の家と違ってどこまでも金がかかっていた。

 壁紙・天井・柱・床・調度品。

 そして使用人メイド達の一歩以上あけた距離感の応対。


 俺の従僕メイドの距離感にも驚いたが、このノイシェーハウの使用人メイド達に比べれば本当に家族に近いのだろう。

 そして3階まで先導されて昇っていく。


 先ほど1階の廊下で、俺を先導する使用人メイドが、廊下の壁沿いに立って俺に道を譲り、頭を下げていた使用人メイドに何かを素早く耳打ちした。

 少ししてからその使用人メイドはどうするのだろうかと思って振り返ったが、この1本道の廊下のどこにもいなかった。


 そして3階に上がるとなんとその使用人メイドが既に先回りしていて、先導する使用人メイドに俺を案内するべき方向をさりげなく手で示す。

 恐らく使用人たちが使う通路が別にあるのだろう。


 階段から奥へ延びる通路の両脇にいる警備兵ワッチは、渡り廊下の警備兵ワッチとは違い煌びやかな軍装をして立っている。

 リンヴェッカーとシュールはそこで足を止める、それに気づかず進もうとするヌワの前で槍が交叉されて進行を阻止される。


 「ヌワ。すまない。そこで少し待っていてくれ」


 俺が言葉を告げると、槍を掴んでいたヌワの両肩が、リンヴェッカーとシュールに叩かれる。

 ヌワが気を落としたように背中を丸めた。


 あの警備兵ワッチからこっちは、男は入れないのだろうと推測する。

 息子の俺以外は。


 彫刻の施された白い扉の前で、先導する使用人メイドがノックする。

 ここにも警備兵ワッチがいる。

 すぐに内側から扉が開けられる。


 「ようこそおいで下さいました。アクティム・ヴァシュリンガー様」


 扉を開けた使用人メイドとはまた違う、若い使用人メイドが俺に頭を下げる。


 「おはようございます」

 「【お母様】に会いたいのですが」


 「こちらへどうぞ」


 また先導された。

 一体どこまで行くのだろうか。

 俺の広間サルーンなどただの空間に見える程の、広間サルーンを横切り応接間チャンバーへと出る。


 「アクティム(マイボーイ)!」


 これは恒例なのだろうか?

 やはり物陰から抱き着かれて、俺は一瞬たじろぐ。

 何しろ今度は鎧を着ていない。


 服越しに直接【お母様】の柔らかさを全身に感じて、困惑を感じる。

 しかも甘い香りに今朝の隠さない体。

 警戒値が限界を超える前に、母の体を少し抱きしめた。


 それに満足した【お母様】がようやく体を離す。


 「待っていたわ。どんな相談?」

 「童貞の話なら寝室でしましょ?」


 いきなり赤面の話題を振って来る。

 どうにも調子が乱れる。

 しかも応接間チャンバーには5人からの使用人メイドがいる。


 「その相談はまた今度でお願いいたします」


 「あらそう? 期待しちゃうわよ」


 再び抱きしめられて、俺の頬にキスされる。


 「本日は私が領民とした【うたうもの(シンガー)】のこれからと、傷ついた部下のこれからの相談に参りました」


 「モーア」


 俺をこの部屋まで先導した使用人メイドに声をかけると、そのモーアという使用人メイドを残して全員退出していった。

 母と息子の童貞の話は聞かれても良くて、この話は人払いする。

 基準がわからない。


 そして俺は残った使用人メイドにも目を向ける。


 「モーアは私の侍女レディースメイドよ。大丈夫」


 【お母様】に勧められた一人掛けのソファに座ると、途端に体が沈み込む。

 適度に体が包み込まれて、このまま寝てしまいそうだった。


 対面にゆったりと座る【お母様】は、やはりドレス姿で腰から下は大きく裾が広がっている。

 大輪の花を逆に地面に置いたようなシルエットだが、その茎にあたる【お母様】は、精密な刺繍で縁を飾ったゆったりとした姿だった。


 これが日常服だとはいえ、身軽に動くことは出来そうにない。

 しかも腹部は締め上げられ、ことさら胸の膨らみが強調されている。

 そして頭には白銀に輝く粒が連なったコサージュを付けている。

 まさに上流階級の姫で、とても野山を駆け巡る冒険者アッダーには見えない。


 「アクティム(マイボーイ)。さ、どうぞ」


 「はい。【お母様】」

 「まず第一に、戦場で協力してくれた亜人デミヒューマン

 「私は【うたうもの(シンガー)】と名付けました」

 「そしてその者たちに、ヴァシュリンガーの領民である事を宣言して保護する事にしました」


 俺が飲もうが飲むまいが、非常に香りの良いお茶が置かれる。


 「更には【人間】で私の領民になる事を望むものがいます」

 「私は彼らを引き続き保護したいのですが、軍に編入しては命令で引き抜かれる恐れもありますし、使用人にするには人数が多すぎます」


 「ん。おいしいわモーア」


 【お母様】がお茶を褒めるとモーアが一礼する。


 「本国ノイシェーハウに戻ったら、ノイシェーハウが持つ土地を割譲してヴァシュリンガーの土地が与えられるでしょう」

 「余り良い土地ではないかもしれないけれど、根無し草になるよりマシだと思うわ」

 「でも法はノイシェーハウの法が及ぶから注意してね」


 俺は情報の速さに舌を巻いた。

 この人の情報網はどこまで広がっているんだ?


 「ありがとうございます」

 「しかし戦場での宣言までもう既にご存知だとは」


 「貴方の事は隅から隅まで知っているのよ。ふふふ」


 俺は赤面して黙り込む。

 赤子の頃から育てられていればそれもそうかもしれない。


 「嘘よ」

 「政治よ政治。貴方ならそうするだろうと予想した事が一つ」

 「それと様々な領家の動きの情報が一つ」

 「どんな情報かは教えられないけれども、ノイシェーハウとしてアクティム(マイボーイ)に領地が必要と判断しただけ」


 【お母様】が遠くを見て嘆息する。


 「残念ながら戦場での情報は皆無。私の限界ね」

 「戦地での情報も掴んでいたら、アクティム(マイボーイ)を一人置き去りになんかさせなかったわ」

 「生きて帰って来てくれてありがとう」


 【お母様】が頭を下げる。


 「その心配だけで救われました」


 「いい子ねアクティム(マイボーイ)


 目を細めて笑う。

 本当に母親のような笑みだった。


 「次の相談ですが、部隊はほぼ全滅といって差支えありません」

 「戦傷したもの、戦死したものの遺族の生活をどうにかしたいと考えております」


 【お母様】が身を乗り出して俺の両手を掴む。


 「貴方はそんなにたくさんの心配をして、あなた自身が潰れてしまわないか、私はそれが心配よ」


 「彼らの犠牲があって、私は【お母様】のところに帰る事が出来ました」

 「恩を返せられる相手がいなくなっても、出来る事はしたいのです」


 「戦死した者の遺族、戦傷したものには議会から年金が出るわ」

 「それでその後の生活は出来る筈よ」


 「現実はどうでしょうか?」


 「苦しいでしょうね。直ぐにお金は無くなるわ」

 「最低限だから」


 そしてまた遠い目をする。


 「領民の不満は出るでしょうね」

 「特に今回はノイシェーハウから遠く離れた地での戦争で、実感がないから」

 「まだアクティム(マイボーイ)の活躍があったし、戦死者も領家では少ない方だったからまだいいでしょうけれど」

 「貴方は議会に利用されるわよ」

 「領民の不満を反らす為に、昨日とは違って英雄にされるわよ」


 【お母様】が額に手を当てる。

 俺をからかう【お母様】と違って、苦悩がありありと見てとれる。


 「しかしそうするとマリーエンロッゲン家との軋轢が生じるのではないでしょうか?」


 豊かな髪をかき上げて、更に頭脳を回転させている。


 「内政と外交の違いね」

 「外交では英雄なんて一言も言わないわ」


 その髪をかき上げたまま、俺の目をまっすぐに見る。


 「ノイシェーハウの民は情報を持っているから、内政的にはただ英雄と祭り上げる訳にはいかない」

 「今回のノイシェーハウ派遣軍での最大の損害は貴方が率いた部隊になるでしょうね」


 悲し気な目をした後、そっと視線をずらす。

 まるで自責の念で俺をまっすぐ見られないかのような姿。


 「ノイシェーハウの家としても、民に自分の家族を失っただけの価値はある戦いだったと主張せざるを得ない」

 「その価値ある勝利をもたらしたアクティム(マイボーイ)を最大限に利用しなければならない」


 両手で顔を覆い、肘を太ももに付けて続ける。


 「豊かになる実利をもたらした勝利」

 「それってなに?」

 「私にとっては貴方が生きて帰ってきた。それだけでいい」

 「でも家族を失ったものや、財産を税として供出したものにとっては、必ず見返りを求める」


 「俺にそんなものはありません」


 顔を上げる母の顔は少し傷ついていた。

 本当は何か俺は持っているのだろう。


 「わかってるわ」

 「いや、あるのだけれど、貴方がそれに気づいていないのならば、私から敢えて教える事はしない」

 「領家であり、外交を司るノイシェーハウ家が用意するわ」


 「私の息子マイボーイを政治の道具なんかにしたくわないわ」

 「でも貴方の道を考えればこれが最善の策なのよ」

 「悔しいけれどね。これも私の限界」


 「では遺族と戦傷したものに仕事を与えるのはどうでしょうか」


 「例えばどんな?」


 「軍関係の仕事を宛がうとか」


 「議会に相談してみましょう」

 「でも貴方の会社カンパニーで新事業を起こすのもいいんじゃない?」


 「なるほど……」


 とてもいいアイデアを貰った事に感謝する。

 これも一つの道だ。


 一つの区切りを付けた俺は、置かれていたお茶を飲んだ。

 まだ温かい……。

 いや、俺が相談している内に取り換えていたのか。


 俺は【お母様】付きの侍女レディースメイドに軽く頭を下げる。

 モーアと呼ばれているその従僕メイドも軽く膝を折った。


 「ではアクティム(マイボーイ)

 「今度は私からお話をいくつかいい?」


 「はい」


 俺はティーカップを置くと、【お母様】に意識を集中させる。


 「まずはプレブ家の事」


 「ソチェニですか。はい」


 「お婆様はその彼と会ってから、同盟の感触を確かめると言ってたわ」

 「王国の東側で唯一交易がない領家だから、値踏みするんでしょうね」

 「領地も小さいし、特産品もないから放っておいたけれど、マリーエンロッゲン包囲網が出来るかもって算段みたい」


 俺は身を乗り出す。


 「その包囲している領家それぞれが各個撃破されたらどうするのです?」


 【お母様】は弾かれた様に笑い出す。


 「んもう。単純おバカさん」

 「そんな貴方だからいいのだけれど」

 「軍事じゃなくて経済。ノイシェーハウの物産をこの王国中で売る為のね」

 「ノイシェーハウは軍事の領家ではなくて、経済の領家なのよ」


 「なるほど。勉強になりました」


 俺はこの母の住んでいる世界を理解した。

 俺の中隊なんかよりずっと多くの物に注意を払っている。

 【お母様】がとても大きく見えた。


 「次は深刻なお話」

 「貴方にとってのね」


 それは暗にノイシェーハウ家にとっては関係のない情報だという事を教えていた。


 「モニオムとコルネスティ、そしてジアルマタの事なんだけれど」


 ジアルマタの事を掴んでいるのか!?


 「はい」


 「モニオムとコルネスティの家族に危険が迫っているわ」

 「ジアルマタはマリーエンロッゲンの係累だから大丈夫でしょうけど、モニオムとコルネスティの家族を処刑するつもりみたい」


 意味がわからない。

 俺達の暗殺ではなく、何故無関係の人間を殺すんだ?


 「どうして」


 「貴方への嫌がらせでしょう」


 「助けなければ」


 俺がソファから立ち上がるのを制する。


 「どうやって?」


 俺は一瞬止まる。

 まだ考えていない。

 しかし早急に考える。


 「今は貴方の部隊の所属なんでしょ。逮捕しちゃいなさい」


 俺は【お母様】の顔を見る。


 「理由をでっちあげて家族ごと逮捕しちゃいなさい」

 「軍務として」


 【お母様】は細部までは示してくれない。

 きっと自分で考えろという事なんだろう。

 そして何がいいたいのかは直ぐにわかった。

 やっぱり俺は息子なんだろう。


 「なるほど。ありがとうございます。使わせて頂きます」

 「それとジアルマタが逃亡しました。私ではなくノイシェーハウの領民になりたがっていたのに、理由がわかりません」


 「探しておきましょう」

 「でもねアクティム(マイボーイ)。人間には意思があります」

 「そこまで責任を取らなくていいのよ」


 立ち上がった母の柔らかい手が俺の頬に触れた。

 そうかもしれない。

 でも俺は仲間だと思っている。

 俺は話題を変える事にした。


 「そういえばお母様。森で出会った細長くて足が何本もあるモンスター」

 「腹から子虫を吐き出す奴なのですが」

 「あれは、レベル幾つですか?」


 「そんなのもいたわね。雑魚だから名前も知らない」

 「レベル8よ」


 俺は思わず唸ってしまう。

 あれが雑魚なのか?

 シュラーと必死に逃げた記憶がよみがえる。

 母達の底が知れなかった。


 「ん……」


 考えにふける俺に【お母様】が何かをいい、見ると目を閉じて唇を突き出していた。


 「え?……と……」


 「ん! ん!」


 目を閉じて唇を突き出したまま、一歩づつ俺に寄って来る。


 「親愛のキスよ」


 そう言われて俺は決心して、その桃色の唇にキスした。

 俺……多分初めてのキスだ。

 しかしそれを表には出さない。


 「【お母様】今晩、家に来てくれますか?」

 「出来れば母達全員で」


 「ま♪ みんなを相手にする事にしたの?」

 「やらし♪」


 俺の胸を人差し指で突いてくる。

 俺はただ、使用人メイドと一緒に脱出して欲しいとだけ考えていた。


 「違います」


 俺は【お母様】の応接間チャンバーを後にした。


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 次回 脱出 計画策定


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