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異世界に来たけど義母が5人もいた上に結構ハードモードだった。  作者: 雨露口 小梅
第二章 戦勝記念式典(ヴィクトリー・セレモニー)
73/212

◇29 従僕(メイド)

 【城壁内 ノイシェーハウ上屋敷・ヴァシュリンガー邸】

 【戦勝記念式典翌日 午前】



 門を守る警備兵ワッチを抜けて、上屋敷の庭園ガーデンを抜ける。

 上屋敷と庭園ガーデンの周りには自然広場パークが広がる。

 自然広場パークは起伏に富ませてあるが、屋敷に面した斜面は緩やかな坂で、外側に向かう斜面は急になっている。

 明らかに防御を意識していた。


 俺の屋敷は上屋敷と屋根付きの渡り廊下でつながっているとはいえ、自然広場パークと庭園を切り分ける様に配置されており、上屋敷防衛の為に建てられたのを感じる。


 昨日、服を切り裂いたドアマンに挨拶をしようと上屋敷の車寄せまで行くが、そこには別な男が立っていた。


 「おはようございます。ヴァシュリンガー様」


 「おはよう」

 「昨夕にいたドアマンに会いたいのだが、今の時間は外しているのだろうか」


 男はまったく表情を変えずに答える。


 「ドロッセル様のお言いつけで解雇されました」


 「なぜ? 俺と争ったからか?」


 「はい」


 「なるほど」

 「ならば執事バトラーのフェヒター・バークマーに伝えてくれ」

 「あの男をヴァシュリンガーが雇いたいと」


 男の表情が狼狽に変わる。


 「しかしそれは……」


 「大お婆様が解雇したのにか?」

 「お前とフェヒターが動かなければ、俺が直接大お婆様にねじ込みに行くぞ」

 「俺が大お婆様の顔を潰すのに、お前たちが手助けしてくれる訳か」


 「す、すぐに伝えてまいります」


 「宜しく頼む」

 「見つけたら俺の屋敷に案内してくれ」


 扉の中に消えていくのを確認すると、俺は踵を返して自分の邸宅へ向かった。


 「相変わらず無茶をしますね。ご主人様マイロード


 リンヴェッカーとシュールが呆れている。


 「あの男は留守を任せるに足る男だ」

 「さてと、俺には6人の使用人がいるらしい」


 「正確には8人です。ご主人様マイロード


 直ぐにリンヴェッカーが訂正してくる。


 「ん?」


 俺は足を止めて自分の邸宅を見る。

 2階建ての壁に足をかける場所がないフラットな長方形の建物。

 庭園ガーデンでは庭師が手入れをしていた。


 「家宰スチュワードのイム・アスベルン 下男グルームのウンター・ドルフ は本国ノイシェーハウにいます」


 「じゃあ、どうして首都ゴールドキャッスルにいるのは女性ばかりなんだ?」


 「ご主人様マイロード首都ゴールドキャッスルに行くからと、従僕メイド全員が志願しました」


 「それでアルスベン様とドルフが居残りになりました」


 シュールが皮肉る。


 「我々が戦争をしている時に、大片この街で買い物や観光をしていたのではないでしょうか?」


 俺もリンヴェッカーも苦笑が漏れる。


 「女の子は強いな」


 「全くです」


 「しかし覚えきれるかな」


 俺が不安げにしていると、リンヴェッカーが新事実を告げる。


 「我々護衛騎士ガーズもご主人様マイロードの使用人になりますので、それとなくフォローいたします」

 「それにヌワの紹介もしなければなりませんから、自然に従僕メイドの紹介にもなります」


 俺はヌワに笑顔を向けると、面白くなさそうにそっぽを向いた。


 リンヴェッカーが扉を開けると俺はいよいよ自分の邸宅に入る。

 そこは2階まで吹き抜けたちょっとした広間ホールになっていた。

 直ぐに奥より従僕メイドが出てくる。

 スカートの裾を両手で少し持ち上げながら、縦揺れを起こさず音も立てずに滑る様に歩いてくる。

 昨晩俺の前に整列した従僕メイドの1人だ。

 そしてその従僕メイドは、夢の世界で言う「鳥」に似た【うたうもの(シンガー)】とも、【マム】の【ダークエルフ】とも違ういわゆる亜人デミヒューマンだった。


 「お帰りなさいませアクティム様」

 「リンヴェッカー様もシュール様も」


 茶色の髪を後ろで束ねて結び、団子になった髪を白いキャップで囲み、それを結んだ白いリボンが2本体の動きに合わせて揺れる。

 顔を始め、見える肌は【うたうもの(シンガー)】の羽毛とも違う短い毛で覆われている。

 【人間】の耳があるべき場所より高い位置に、髪を掻き分けて短い毛で覆われた大きな耳があり、前後左右にクルクルと良く動く。

 鼻は低く潰れているし、山型の口に唇は見当たらない、そしてその小さな口とは不釣り合いな程の大き目。

 3色の縦縞の体毛に覆われた丸い顔は妙に愛らしかった。


 「ただ今帰りました」


 俺の帰宅の挨拶をわずかな笑顔で微笑み返すと、颯爽と俺の背後に回って、俺の上着を脱がす。

 弾けそうな元気を訓練で隠しているような感じだった。


 「そちらのお方は、昨晩謁見にご同席されましたお方と存じます」

 「お客様でいらっしゃいますでしょうか」


 「名前はヌワ・シイ」

 「亜人デミヒューマンではなく、【うたうもの(シンガー)】」

 「俺の護衛騎士ガードとなって貰った」


 「まあ、それは喜ばしい事です」

 「テューレルツ・マネです」

 「私も【ブバスティス】です。昔は【媚びる者】なんて言われていたりします】

 「共にアクティム様にお仕え出来るんなんて、嬉しいです」

 「宜しくお願いいたしますね」


 ヌワに気おくれする事もなく、ヌワの両手を取って今度は満面の笑みを浮かべる。

 テューレルツなどはヌワの胸位にしか高さがない。


 滑舌のはっきりしない、鼻の上から出ているような声。

 ヌワ達の金属質な声とはまた違った種類の声だった。

 そしてその声のお陰で幼く見える。


 「みゃあ」


 しかし、ヌワを圧していた。


 「ヌワ。マネ」


 とヌワが短く返す。


 「おお。ヌワが自分から話した」


 シュールが大げさに驚くとヌワが黙り込む。

 シュールは両肩をすくませて両手を広げる。


 「少しづつ仲良くなりましょ」

 「さぁアクティム様。こちらへどうぞ」

 「温かい飲み物が宜しいでしょうか。それとも冷たいものをご所望でしょうか」


 ノイシェーハウ上屋敷に比べれば簡素な廊下を進む。

 そしてやはり簡素な扉を開けて貰い、居間パーラーへと入る。


 「温かい物をお願いします」

 「あと、今いる全員を集めて来て欲しい」

 「ヌワを紹介します」

 「飲み物はそれからでも構いません」


 「お帰りなさいませアクティム様」

 「あ、お客様も」


 仕事服(メイド服)を着た小さい子供が頭を下げてくる。

 テーブルを拭いていたようだった。

 こんな子供すら童貞を捨てる対象にするなんて……。

 イルチより小さいじゃないか。

 大お婆様への恨み節を心で唱えて、軽く手を挙げる。

 俺は非常に気まずかった。


 「リンヴェッカー様。シュール様。」


 「ただ今。ルイチャー」


 リンヴェッカーとシュールは目じりが垂れていた。


 手ごろな椅子に座る。

 リンヴェッカーとシュールが立っているのを見ると、手で示す。

 2人はソファに座り、ヌワは体が大きすぎる事を察すると、床に座った。


 テューレルツが居間パーラーで掃除していた子供に声をかけると、軽い足取りで出ていく。

 それを見送って、テューレルツがお茶の用意を始める。


 「テューレルツ。私の母達にはどこで会えるだろうか?」


 「はい。アイヒェン様は本日お屋敷におられると聞いております」

 「アクティム様とのお時間の為に何も予定にいれられておられないようです」


 それは都合が良かった。

 この首都ゴールドキャッスルから出る相談が出来る。

 テューレルツはカップの音一つ立てずに優雅に俺の手元にティーセットを用意する。


 「プレンツェン様は王室近衛ロイヤルガーズの司令本部に行かれました」

 「戦争の後ですので、お忙しいかと存じます」

 「お会いを希望される時にはお申しつけ頂ければメッセンジャーを走らせます」


 俺のティーセットを用意したテューレルツはそのまま俺の横に控える。


 護衛騎士ガーズの飲み物は用意していない。

 本当に護衛騎士ガーズは使用人なんだと実感する。

 そういえばいつも軍の命令系統からは外れていた。

 俺が混同して部隊の指揮を執らせていたが、それは本来の使い方ではないのだろう。


 「ヘールデ様は会社カンパニーの支社におられます」

 「今晩にはこのお屋敷に戻られる予定です」

 「バリミーナ様は中々行方はわかりませんが、今晩は珍しくお屋敷に戻られると聞いております」


 「そうか。ありがとう」


 俺が礼を言い終わると、俺達が入ってきた扉とはまた違う扉から従僕メイドが入ってくる。

 あの大お婆様での謁見の時の様に、俺の前へ一列に並ぶ。

 テューレルツも俺に一礼すると、開いている空間スペースに立つ。


 俺も立ち上がると、リンヴェッカーもシュラーもヌワも立ち上がった。


 「集まってくれてありがとう」


 「新しい護衛騎士ガードの紹介をしたい」


 揃った6人の従僕メイドを見渡して始める。


 「ヌワ・シイ」

 「亜人デミヒューマンではなく、【うたうもの(シンガー)】だ」

 「俺が種族名を付けた」

 「後、今日はここにはいないが、コルネスティ・ピシュキアも新しく護衛騎士ガードになった」

 「ヴェークは俺の残りの部下と共に、派遣軍と一緒に本国ノイシェーハウへ戻る予定だ」

 「残念ながらシュラー・オスターヴィーカー、ツム・ドアーレン、クライナー・シュタインはもうここに戻る事は出来ない」

 「皆の仕事仲間を失ってしまった事を詫びる。俺のチカラ不足だった」


 彼らがこの従僕メイドとどのような掛け合いをしたのか見てみたかったが、既に失われた命を取り戻す事は出来ない。

 俺自身もケジメを付けなければならない。


 「シュラー・オスターヴィーカー、ツム・ドアーレン、クライナー・シュタインを偲んで黙祷を捧げたいがいいだろうか」


 俺の問いに従僕メイド達が一斉に困惑する。

 俺は変な事を言ったのか?

 護衛騎士ガーズも困惑していた。


 「アクティム様。浅学にしてお言いつけがわからぬ私たちをお許しください」

 「黙祷とはいかなる事でしょうか」


 俺の母達と同じ位の年齢に見える一番年嵩の従僕メイドが発言する。

 俺は絶句する。


 俺は黙祷という知識を持っている。

 使用人たちは黙祷を知らない。

 とするとこの知識は夢の中で見る世界の習慣なのだろうか。


 そして更に考える。

 俺は夢の中の世界の習慣や知識をそれとなく使ってしまっているのだろうか?

 これは、記憶の喪失とは別次元の話になる。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 環境と肉体の歴史は、この世界で作られた。

 そしてまだ推測だが、習慣と知識は夢の中の世界で作られている事になる。

 俺はこの重大過ぎる疑問に飲まれそうになるが、問題を先送りした。

 誰がこの問いに答えられるというのだろうか。

 話せば狂人になってしまう。


 「すまなかった」

 「死者の為に、少しの間目を閉じて、頭を下げる追悼の儀式だ」

 「戦場で知った。知らなくて当然だ」


 俺は嘘をついた。

 しかし護衛騎士ガーズといつも行動している訳ではない。

 誤魔化せると踏んだ。


 「ありがとうございます」


 従僕メイドは軽く頭を下げると元の列に戻る。


 「それではシュラー・オスターヴィーカー、ツム・ドアーレン、クライナー・シュタインと死んでいった将兵に捧げる」

 「黙祷」


 部屋の中が静かになる。

 ヌワが慌てて真似をする気配がする。

 僅かな間だったが、彼らには本当に助けられた。

 そしてこの黙祷という儀式が新しく生まれぬよう、決意を固める。


 「やめ」


 従僕メイドを始め、ヌワを除く護衛騎士ガーズの鼻も赤くなっていた。

 あのシュールでさえそうだった。


 「では新しい護衛騎士ガードのヌワに自己紹介して欲しい」


 従僕メイド達が気持ちを切り替える。

 そして先ほど俺に質問してきた、俺から見て一番右手の年嵩のメイドが一歩前に出る。

 「家令ハウスキーパーのヴァルクミューレ・フィルヴィースです。お見知りおきを」


 仕事服(メイド服)のデザインは変わらないが、エプロンをしていない。

 目は細められて鋭く、厳しそうな印象を与える女性だった。

 しかし声が柔らかいところを見ると眼が悪いのかもしれない。


 「家令室給仕ハウスキーパー・ルーム・メイドのルイチャー・ケーラーです」

 「まだ見習いとしてヴァルクミューレ・フィルヴィースにお仕えしております」

 「先ほどはお客様と勘違いし申し訳ございませんでした」


 まだ10代にもならない幼さが残る、そのままの声で挨拶する。

 シュールに肘で小突かれたヌワが「ヌワ」と頭を少し下げる。

 言われた事を勘違いしている様だが、俺は流す。

 ここいる誰も【うたうもの(シンガー)】の言葉を話す事が出来ない。


 「料理人シェフパン職人(ベイカー)のブルンス・ペルレスハイマーです」

 「新しい仲間を歓迎します。後で食事について相談いたします」


 全身を覆うエプロンをした従僕メイドはそれだけ言うと元の列に戻った。

 顔にそばかすの残る家庭的な感じで、なぜかほっとする雰囲気を出していた。


 「応接従僕パーラーメイドテューレルツ・マネです」

 「これから宜しくね」


 ヌワにウィンクして見せると、そのまま列に戻った。


 「皿洗い従僕スカラリー・メイドのフロリアン・ウムガッセです」

 「一緒に精いっぱいお仕えいたしましょう」


 細身の従僕メイドが挨拶をすると、次に比較的ふっくらした従僕メイドが進み出る。


 「洗濯従僕ランドリー・メイドのマイェナー・クルフタ―です」

 「どんなものでもピシッと致しますよ」


 穏やかな顔立ちをしているのに、腕を曲げて力こぶを叩く。

 年齢はヴァルクミューレ位だろうか。

 家庭的なおっかさんという感じだった。


 「しかし全員がハウスメイドとして働いていますので、従僕メイド階級ランクはお気になさらないでください」


 最後の言葉はヴァルクミューレが俺に向けた言葉の様な気がしていた。

 そのヴァルクミューレがヌワを見て微笑む。


 「ヴァシュリンガーファミリーへようこそ」


 ヌワが慌てて頭を下げる。

 巨体が従僕メイドに気おされる様は見ていて少し面白かった。

 つれない態度を取るのは俺だけだという事になる。

 まあいい。


 「まず今日は最優先でして貰いたい仕事がある」

 「俺や母達のもてなしより優先だ」


 従僕メイド護衛騎士ガーズの注目が集まる。


 「全員私物をまとめてここを出発する準備をしてくれ」

 「俺から連絡があったら今日にでも本国ノイシェーハウへ向けて出発する」


 ヴァルクミューレが口を挟んでくる。


 「それでは私たちの荷物はまとめられますが、お屋敷の荷物をまとめ切る事が出来ません」


 「物など幾らでも買える」

 「それに邸宅はノイシェーハウの使用人に管理して貰えばいい」

 「しかし君たちの命を買う事は出来ない」

 「これは俺の至上命令だ」


 「かしこまりました」


 ヴァルクミューレが頭を下げる。


 「ひょっとしたらこのまま腰を据えるかもしれないが、状況が不明だ」

 「少なくとも俺とコルネスティには暗殺の危険がある」

 「いつ君たちに危険が及ぶともわからない」

 「とにかく直ぐに動けるようにしておいてくれ」


 従僕メイド全員が頭を下げる。


 「それとノイシェーハウの解雇されたドアマンが来るはずだ」

 「俺が改めて雇う。何か仕事を宛がってやってくれ」

 「間に合わなかったらそれでいい」


 「お名前は?」


 「すまないが知らない」

 「ノイシェーハウの使用人から聞きだしておいてくれ」

 「執事バトラーのフェヒターに頼んである」


 「かしこまりました」

 「では前職と同じポーター(荷物運び)といたします」


 「宜しく頼む」

 「【お母様】のところへ行ってくる」


 「はい。行ってらっしゃいませ」


 リンヴェッカーが扉を開け、従僕メイドが一斉に頭を下げる中、俺は慌ただしく上屋敷へ向かった。


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 次回 危険な情報


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