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異世界に来たけど義母が5人もいた上に結構ハードモードだった。  作者: 雨露口 小梅
第二章 戦勝記念式典(ヴィクトリー・セレモニー)
72/212

◇28 【マム】と【冒険者】(エルフ)

 【城壁外街 路地】

 【戦勝記念式典翌日 午前】



 俺は改めてリンヴェッカーとシュール、ヌワを連れてノイシェーハウの上屋敷へ向かった。

 相談はここでは出来ない。

 兵の事は信用している。

 しかし宿場ホテルで働いているものは信用できない。

 何よりここは首都ゴールドキャッスルなのだ。

 そして首都ゴールドキャッスルはマリーエンロッゲンの領地に囲まれている。

 実質マリーエンロッゲンの勢力下だ。


 足早に城壁外街を歩く。


 「宿場ホテルでの会議はどうなったのですか?」


 シュールが俺に直接聞いてくる。


 「俺とモニオム、コルネスティに暗殺の危険が迫っている」


 リンヴェッカーとシュールが途端に表情を引き締める。

 その気配にヌワも毛を逆立たせる。


 「宿場ホテルで働いているものは信用できない」

 「歩きながらの方が危険が少ない」

 「教えてくれ」

 「俺はあの丘以前からの記憶がない」


 副路地を歩んでいると前方から、荷運びの集団が向かってくる。

 貴族を先頭に鎧っている騎士と亜人デミヒューマンが剣の柄に手をかけている様を見て、慌てて道を開ける。


 俺達は無言でその集団を通り抜ける。

 少年の声がする。そして直ぐに大人の声に制止される。


 「ノイシェーハウ様だ。貴族様は馬車に乗らないのか?」

 「馬鹿。あれはヴァシュリンガー様だ」

 「王国を守った英雄だ」

 「しっ。黙ってろ」


 立膝を付く集団に変わり、俺は変わらず歩いて抜けた。

 この内誰かが短剣を突き出してくるとも思えない。

 そして荷運びの集団が十分に離れてから続ける。


 「だから、自分の使用人メイドの事も自分の母達の事も知らない」

 「母達の居場所、使用人の信用度、領民を守る為の俺の財産、改めて情報が欲しい」


 俺は立ち止まって護衛騎士ガーズを振り返る。


 「ノイシェーハウ(本国)にも俺の家があるんだろう?」

 「この地は政治的過ぎる、こんな所にいつまでも領民と兵をおいておけない」

 「ノイシェーハウ(本国)が安全なのかどうか。それを知りたい」

 「協力してくれ」


 「当然ご主人様マイロードに全てをお教えますが……」


 「いっその事、母君達と従僕メイドに記憶を失われている事を話してしまったらどうですか?」

 「家族なんですし」


 固いリンヴェッカーと遠慮のないシュールが俺に問いを発する。

 俺はリンヴェッカーとシュールを見る事なく歩み続ける。

 会話してもお互いの顔を見ないのは護衛騎士ガーズも同じだ。


 「戦場を共に過ごしたお前たちは信用できる」

 「しかし、母達と使用人メイドと出会ったのは昨晩だ」

 「俺にとって重ねた時間が短すぎる」


 「相手は傷つきますよ」


 シュールは遠慮なく切り込んでくる。


 「これから歴史を重ねていく事は希望してる」

 「ただそれはこの地ではないと考えている」

 「俺はノイシェーハウ(本国)が安全の地であるのかどうか知る必要がある」

 「ここに長居してはいずれ衝突が起きる」


 「かしこまりました」


 リンヴェッカーが俺の方針を飲み込む。

 そして全てを吐き出して、最後に残った疑問を口にする。


 「ところで、俺の母達の一人の【マム】は俺達と違うようだが?」

 「耳の先が尖っていて、目が銀色だ」

 「そういう人間を俺は見た事がない」


 リンヴェッカーが俺の隣に並ぶ。

 城壁の内側に入って、通り過ぎる人間も貴族の使用人か雇われた人間ばかりになる。


 「ご主人様マイロードが【マム】と呼ぶ、バリミーナ・パーク・ダンキブン様は【ダークエルフ】と呼ばれるいわゆる亜人デミヒューマンです」


 俺はこの世界の広さを認識した。


 「亜人デミヒューマンの中でも【うたうもの(シンガー)】という様に種族名がついているのは、【人間】に保護されているか、【人間】より勝っている部分があるからです」


 「なるほど。【うたうもの(シンガー)】は俺に保護されて、種族名がついた」

 「なら【ダークエルフ】はどうして種族名が付いたのだろう?」


 リンヴェッカーは言いづらそうにする。


 「長命です」

 「だから見つかると【ダークエルフ】は【人間】に狩られます」

 「長命を求める【人間】に食べられたり、血を飲まれたり、愛玩奴隷ペットにされたり……します」


 リンヴェッカーが僅かに半歩下がる。

 俺の母親【マム】について述べているから、気おくれしているのだろう。

 しかし俺はそれを咎める事はしない。

 むしろ、言いづらい事を言ってくれるリンヴェッカーに更に信頼を深める。


 「そんな【マム】がどうして【人間】のノイシェーハウに無事にいられるんだ?」


 「一言で言えばアイヒェン様のお仲間だからです」

 「大貴族に守られているからです」

 「そしてノイシェーハウ本国でご主人様マイロードも通っている、高等魔法技術学院の院長もしているからです」


 「もう少し詳しく頼む」


 やはり【マム】も俺の人生と深い所縁がある。


 「はい」

 「アイヒェン様が10代の初めに家出をしまして、冒険者アッダーとして、王国のみならず帝国……今では共和国ですが、方々旅をしました」

 「ご主人様マイロードの母君は全てその時の仲間パーティです」


 俺の中で合点がいく。

 ノイシェーハウ上屋敷にあった離れにある俺の別邸。

 そしてそこの俺の部屋にあった肖像画を思い出す。


 【お母様】のアイヒェン・ノイシェーハウと【マム】のバリミーナ・パーク・ダンキブンは、あの魔法医と同じチカラを持つ者。

 【母上】のプレンツェン・バイ・パッサイル大佐は剣士。

 あの赤髪の……。


 「あの赤髪の、会社カンパニーの母親の名前を教えてくれ」


 「ヘールデ・レメレ様ですね」

 「ご主人様マイロードと共にアクティム・アンド・ヘールデ・トレーディング・カンパニーを経営しています」


 あの【母さん】は弓士か。

 細かい情報は後回しにしよう。


 「冒険者アッダーとは?」


 リンヴェッカーが逡巡するが、意を決して言葉を告げる。

 それだけ言いづらいという事か。


 「社会のはぐれものです」

 「定職に就かない者。就けないもの。社会に反発するもの」

 「軍から脱柵するもの。主に農家の次男三男等がなります」

 「彼らには何もないですから」


 そして、取り繕うように努めて明るく言葉を継ぐ。


 「今では野生動物モンスターの狩りを専門とする職業です」

 「食料の肉の半分は冒険者アッダーが仕入れています」

 「そしてそれ以外の仕事を行う、社会の雑用係です」


 リンヴェッカーが油断なく、辺りに目を配る。

 俺が使用したガンを使うものがいるとも限らない。

 暗殺を警戒するというのは、日常を戦場にしてしまう。


 「しかし母君達が冒険者アッダーをされていた頃は、もうちょっと違っていて、強大な怪物モンスターから【人間】を守るのが仕事でした」

 「後、怪物モンスターの貴重な素材を市場に供給する仕事でした」


 「それがどうして、この短期間にそれだけの変化を起こしたんだ?」


 「それはご主人様マイロードの母君達が、あらかた野生動物モンスターを狩ってしまったからです」


 「ちょっと待て。どういう事だ?」

 「リンヴェッカーもそうだが、俺はあの森の中でレベル2に遭遇したし、損害を受けた」

 「更に森の奥ではそれどころではない野生動物モンスターと遭遇したぞ」


 リンヴェッカーに向かって俺はムキになる。

 あのレベル2に兵を殺されたんだ。

 あいつは足しか帰って来なかった。


 「ご主人様マイロードの母君達はそんなものではありません」

 「聞いた話ですが、レベルでいうと100は超えています」

 「街1つを滅ぼせるような存在です」


 俺は信じられず足を止めた。

 冗談も程ほどにして欲しい。


 「そんな野生動物モンスターを? あの若さで? あの人数で? どこの軍隊が手助けしたんだ?」


 答えによっては、俺の今までの努力が全て些細な無能のあがきになってしまう。


 「軍は【人間】同士戦う為に訓練されていますし、戦術も組まれていますから野生動物モンスターは別物です」

 「しかしながらご主人様マイロードの母君達は間違いなく天才です」


 「しかしそんなチカラがあるのなら、他の領家が放っておかないだろう?」


 「ご主人様マイロードと同じように余りに突飛すぎて信じられないからだと思います」

 「だから最後の冒険者(ラストアッダー)と呼ばれていたりします」


 「信じられない」


 「でしょうね」

 「しかしながら、母君達の冒険は【人間】世界に安全が訪れたのは確かです」

 「母君達は世界を変えました」

 「それは今のお立場を見れば、伝説ではない事がわかります」

 「世界の先を行っています」

 「祖父シュラーが生きていれば、その頃のお話を詳しく聞くことが出来るのですが……」


 「いや、リンヴェッカー。十分に助かる」

 「シュラーの様にお前を信頼している」

 「もしあるなら続きを教えてくれ」


 「はい」

 「そしてその冒険の途中で、ご主人様マイロードを拾われました」


 再び俺の足が止まる。

 俺の出生の秘密が?


 「ご主人様マイロードが【ママ】と呼ぶ女騎士と共に、長い家出生活を終えて、ノイシェーハウに戻ってきました」

 「母君達を引きつれて」


 「なるほど」


 俺のこの生活を握っているのは【お母様】。

 アイヒェン・ノイシェーハウだという事か。


 「長い話になりそうだな」


 「はい。私たちが知っているだけでも」


 俺達は城壁内の貴族街にあるノイシェーハウ上屋敷前に着いていた。



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 次回 従僕


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