表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に来たけど義母が5人もいた上に結構ハードモードだった。  作者: 雨露口 小梅
第二章 戦勝記念式典(ヴィクトリー・セレモニー)
71/212

◇27 平時など存在しない(ザア・イズ・ノーアブセンス)

 【城壁外街 宿場】

 【戦勝記念式典翌日 朝】



 【うたうもの(シンガー)】の食事を初めて見た。

 レディ=マホとイルチの食事は俺達と殆ど変わらなかった。

 パンも食べるし、野菜も食べる。果物も食べる。虫も食べる。

 そして肉や魚はヌワのような一部の【うたうもの(シンガー)】しか食べないそうだ。


 俺達と何ら変わらない食事。

 違いと言えば火を通したものは食べない。

 聞けばパンも出来れば原料の麦のままで食べたいそうだ。


 虫は出来れば火を通してもらいたいと思う。

 俺がフォークに刺した足と頭はもがれた煮つけの昆虫を見て思う。

 魚も肉も虫も動いている姿で食べたくはないな。と。


 戦地と違って朝食の種類は豊富だった。

 俺は温かく、味付けの豊かな食事を楽しんだ。

 イルチなどは、どこに入るんだというような量をかき込んでいる。


 「私の体はいかがでしたでしょうか?」


 いつもは微笑むか悲しみの顔しか見せないレディ=マホが突然の会話を始める。


 「ゲホッ。ゲホッ。ゴホッ」

 「……すまない」

 「なんだって?」


 「役目を果たして貰えないので、私の体がお気に召さないのかと思いました」


 「い、いや……」

 「軍務で忙しいだけだ」


 誤魔化しで食事をかき込もうとするするが手を止める。


 「ただ……」


 「はい」


 レディ=マホが真剣なまなざしを俺に向けてくる。

 イルチなどは机の上に身を乗り出している。


 「【うたうもの(シンガー)】は卵で生まれるとレディ=マホに教えて貰った」

 「卵から孵れば自力で動けると思うのだが、その……胸があるんだなって」


 レディ=マホが目を輝かせる。


 「触ってみますか?」


 「え?」

 「あ、いや、いい……」


 思わず胸の谷間を晒すドレスに目が落ちる。

 それに気づいて姿勢を正す。

 どうしてイルチが嬉しそうなんだ。


 「人間とは違いますが、母乳ピジョンミルクが出ます」

 「確かに生まれた子供は大人と同じものを食べられますが、それでは足りない栄養を補充してあげる為です」

 「人間と同じです」


 「なるほど……」

 「勉強になった」


 「人間の様に柔らかくはありませんが、この砂が詰まったような感触を好むご主人様マスターもいました」


 俺はレディ=マホの過去に話が及んで止めた。


 「そ、そうか。すまない。変な話を聞いた」


 イルチが何故か俺を睨んでいる。

 レディ=マホが初めて声を上げて笑う。


 「ご主人様マイマスターは何だか柔らかくなりました」


 俺もレディ=マホの笑顔を見て破顔した。


 「それは嬉しいな」


 朝食は和やかに終わった。

 今朝から戦争はどこか遠のいたように感じる一瞬だった。

 そしてそう感じた事を直ぐに後悔した。





 リンヴェッカーとシュールに相談する前に、宿場ホテル前の群衆を見ようと思って階下に降りた。

 そして広間ホールの隅に一人座るソチェニを見つけた。


 俺はソチェニに声をかけようと一歩を踏み出す。

 そして肩に手をかけられる。

 振り向くとホリオンだった。


 「やめられた方が良いかと思います。ヴァシュリンガー様」


 「なぜだ?」


 「あのプレブ家の者で、息子の消息を尋ねてきた男が死にました」


 そうだ。

 俺が突き放して失神した中年の男。

 男手一つで赤子から育てた息子を徴発された父親。

 ソチェニが介抱していた筈だが、見当たらない。


 「なぜ?」

 「死ぬような要因はないだろう」

 「病か?」


 「首を吊りました」


 なんだって?

 俺は言葉を失った。


 「今は自分で克服できるようにそっとしおく方が宜しいかと思います」

 「恋人でもいれば別かもしれませんが」


 俺も納得する。


 「そうだな」


 「ジアルマタも姿を消しました」

 「昨晩から見当たりません」


 ノイシェーハウの領民になるんじゃなかったのか?

 俺は更に打ちのめされた。


 「群衆に混じって我々を伺うものがいます」


 俺は戦場から離していた心を取り戻す。

 窓から片目で群衆を伺う。


 「突き止められるか?」


 「難しいです」

 「こういう仕事は薄暗い仕事をしている本職ではないと無理です」


 「そうか……」


 俺は背中に短剣を突きつけられたように身震いする。

 ここも戦場だ。

 ただ形が違うだけだった。


 「ご主人様マイマスター


 俺の上着の裾が引かれる。

 イルチが俺の裾を引いてくる。

 窓から身を隠すと広間ホールの奥にいるモニオムを見る。


 「どうした?」


 モニオムに声をかける。


 「恐らくマリーエンロッゲンの裏方と思われます」

 「他家の裏方も何人か見た覚えがあります」


 「なるほど」

 「狙いは何だろうか」

 「俺か?」


 ホリオンが興味を掻き立たれている。


 「狙いは私とコルネスティ。そしてご主人様マイロードと思われます」


 「マリーエンロッゲンの秘密が漏れやしないか。という事か」

 「隙があれば俺達を殺そうとするかもしれないな」


 「はい」


 「俺にはヌワがいる。イルチ。レディ=マホに伝えてくれ」

 「【うたうもの(シンガー)】でモニオムを守るんだ」

 「意味は分かるな」


 イルチは真剣な眼差しで頷く。

 そうだ。

 俺は間接的に【うたうもの(シンガー)】を支援しているに過ぎない。

 直接守り抜いたのはモニオムだからだ。


 「コルネスティはホリオンが守ってくれ」


 「ヴァシュリンガー様の護衛騎士ガードですからね」


 「宜しく頼む」


 人の醜い部分を曝け出す殺し合いは、本当に醜い部分を曝け出した。

 今度は暗殺に怯えなければならなくなった。



----------------------------------------------------------------


 次回 【マム】と【冒険者】


----------------------------------------------------------------

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ