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異世界に来たけど義母が5人もいた上に結構ハードモードだった。  作者: 雨露口 小梅
第二章 戦勝記念式典(ヴィクトリー・セレモニー)
70/212

◇26 トラブル(ト・ラブ・ル)

 【城壁内街・城壁外街】

 【戦勝記念式典翌日 朝】


 結局服は貰えずに、部屋に入ってきた従僕メイドに素っ裸で世話をされた。

 前後の挟み撃ちに会い、俺はなす術もなかった。

 せめて剣があれば討ち死にも出来たろうが、相手が自分の母親と自分が選んだ平民の従僕メイドとあっては、切っ先を向ける訳にはいかない。


 そして俺は剣を持っていなかった。


 俺の裸を気にしない従僕メイドの態度に、少し何かが傷ついたような感じがして逃げるように屋敷を出た。

 食事を済ませずに宿場ホテルへと向かう。


 この世界で始まった記憶以来、初めて鎧以外の衣服を身に着けた。

 体を優しく撫でる肌理の細かい布。

 手首を締め付ける固い布。

 更に襟は波打つ弾力のある布で作られていた。

 下半身は鎧の様に常時締め付ける物でもなく、平民の様に緩やかな物でもなく、伸縮性のあるぴたりと体に沿うものだった。


 この軽さが不安を誘う。

 剣も弓も防げない。

 しかし動きやすかった。


 昨日歩いた夜とは違って、貴族街も城壁外街も人が溢れて活気がある。

 裏路地ですら生活感があり、人がいないところは無いのでは無いかとすら思えた。


 そして宿場ホテルの裏口から広間ホールへと入った。


 「ヴァシュリンガー中隊長入室! 気を付けぇ!」


 俺に気づいた誰かが号令をかける。

 広間ホールにいた全員が直立する。

 俺はそれが嬉しかった。


 何故ならば。


 昨日までこの広間ホールは死にゆく重傷者が横たわる場所だった。

 それが今では兵がくつろぐ場所になっている。

 俺は敬礼を解くと、広間ホールを歩いて兵を見て回った。


 皆笑顔で、兵によっては家族の元へ帰る事が出来ると言って涙していた。

 俺も目頭が熱くなる。

 本当によかった。


 直ぐにリンヴェッカーとシュール、コルネスティ、モニオム、ホリオンが迎えてくる。


 「民衆はどうだ?」


 俺はリンヴェッカーに聞く。


 「まだまだいますが大分引いてきました」

 「名簿の参照位はしたら如何でしょうか」


 「ダメだ」

 「どんな希望も聞いてはならない」

 「ノイシェーハウ領についてからだ」

 「混乱が拡大する。近づけてはならない」


 「わかりました」

 「それとおめでとうございます」


 「ん?」


 みんなが自分の右手を額に持ってきて、被ってもいない帽子を持ち上げるフリをする。

 見ると広間ホールにいる兵全員が同じ仕草をする。

 これは何だ?


 「なんの事だ?」


 「男になられたんですよね」

 「相手は誰だったんですか?」


 シュールがにやついている。

 そういう事か。


 「何もしてないよ。疲れ切って鎧のままベッドで眠りこんでしまった」


 広間ホール中から落胆のため息が聞こえてくる。


 「勿体ない。母親も従僕メイドも美人揃いなのに」


 「シュールには間違ってもやらないぞ」

 「それに手を出すなよ。お前なら自分で探せるだろ」


 あからさまに落胆するシュール。


 「実はヴァシュリンガー様が童貞を捨てるか、賭けていたのですよ」


 「お前はどっちに賭けたんだ?」


 「捨てる方です。モニオムの一人勝ちですよ」


 ホリオンがモニオムの肩を叩いている。

 仲いいんだな。

 しかしモニオムは無表情のままだった。


 「食事を採りたい」

 「その後、リンヴェッカーとシュールには相談がある」

 「コルネスティとホリオンとモニオムは引き続き頼む」


 「我々は相談に入れて貰えないのですか?」


 コルネスティが傷ついた表情をしている。


 「リンヴェッカーとシュールはノイシェーハウからの護衛騎士ガーズだ」

 「今回の相談はノイシェーハウ本家についてだ」

 「お前とヌワは俺の護衛騎士ガーズだ。だから俺の領民を頼む」

 「誤解しないで欲しい」

 「ホリオン、モニオム。お前達も含めて俺は全員を信用している」


 「ありがとうございます」


 全員が頭を下げた。





 【城壁外街 宿場】

 【戦勝記念式典翌日 朝】


 俺は教えて貰った部屋へ行く。

 シュールとリンヴェッカーも同じ3階に部屋があるらしく、共に昇った。

 この宿場ホテルはまさしく俺達に占領されていて、廊下もどこも全て【うたうもの(シンガー)】と兵に占領されていた。


 兵と【うたうもの(シンガー)】が同室なのを見ると、差別の撤廃に関してリンヴェッカーとホリオンは徹底しているようで頼もしい。


 「宿場ホテルはキツキツですからね」

 「食事の時間を遅らせますか?」


 「必要ないよ」


 シュールの軽口で、配食は俺の望んだとおりに来る事を確認する。

 リンヴェッカーとシュールと別れて一人で廊下の奥へ進んだ。

 レンガ造りの階段を昇って3階の運河に面した一番奥の部屋だった。

 恐らく一番いい部屋を宛がわれたと確信する。


 何気なく扉を開けると、そこにレディ=マホとイルチがいた。


 「ん?」


 レディ=マホとイルチは着替えの最中だった。

 イルチは胸帯を解いていて腰帯を解く途中だった。

 そしてレディ=マホは既に全裸で窓を背に立っていた。


 イルチは体の毛を逆立てて、盛んに何かを叫んでいる。

 単切音が甲高く鳴り響く。

 俺は慌てて扉を閉めた。


 同室者がいるとは聞いていたが、まさか女性だとは思わなかった。

 扉を背にため息をつく。

 これが奴隷という意味か。


 廊下に【うたうもの(シンガー)】が出てくる。

 まるで敵襲を食らったかの様な慌ただしさだった。

 それに釣られてホリオンの兵もシュールも剣を掴んで廊下に飛び出してきた。


 そして俺の困った姿を見て、シュールがニヒルな笑みを浮かべると、部屋に戻って行った。

 そして兵も苦笑を浮かべて部屋に戻る。

 更にその動きを察して【うたうもの(シンガー)】達も部屋に戻っていった。


 なんだか昨日から調子が狂う。

 戦場から遠く離れて日常に戻りつつあるという事か……。

 確かに戦勝記念式典も無事に終えて、俺のこの戦争における戦闘は終わった。

 後は戦後の後始末だけだ。


 そう考えると戦闘を引きづっているのは俺だけとなる。

 気持ちを切り替えなければ。


 振り向いて扉をノックする。

 返事を待っている内に扉が開かれた。


 扉を開けたのはイルチでその顔は明らかに怒っていた。

 その向こうで簡素なドレスを身にまとっていたレディ=マホが微笑んでいた。

 見るとイルチも白いワンピースを着ている。

 そういえば廊下に飛び出してきた【うたうもの(シンガー)】も皆、腰布を止めて人間の服を身にまとっていた。


 部下達の手配の良さに感嘆する。


 「レディ=マホ。イルチ。すまなかった」

 「扉をノックするべきだった」

 「これから気を付ける」


 それでもイルチは俺を部屋に入れてくれなかった。


 「レディ=マホはずっと待っていたんですよ」

 「それなのに、ご主人様マイマスターは他の女と寝てくるなんて」

 「かわいそうと思わないのですか?」


 なんだって?

 あの賭けの話は女性陣まで及んでいるのか?


 「いや、それは誤解だ」

 「自分の家族と会っていただけだ」

 「【うたうもの(シンガー)】や兵のこれからの為に一泊する事になった」


 いつの間にかイルチは短剣を握っていた。

 今は鎧すら着ていない。

 刺されたら確実に死ぬ。


 「イルチ。お腹はすいていないか?」


 しばらく無言の時間が流れる。


 「すきました」


 「食べてないのか?」


 「レディ=マホがご主人様マイマスターより先に食べる訳にはいかないって」

 「それに夜以外は軍務だからいずれ来るからって言って」

 「我慢していました」


 「それは済まなかった。直ぐに食事にしよう」


 俺は扉を叩いた給食兵にレディ=マホとイルチの食事の手配を頼んだ。

 俺も朝食をそれまで待つ。


 「イルチ。レディ=マホ。良く似合っている」

 「綺麗だ」


 イルチは体を隠して顔を険しくし、レディ=マホは微笑みを強くした。


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 次回 平時など存在しない


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