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異世界に来たけど義母が5人もいた上に結構ハードモードだった。  作者: 雨露口 小梅
第二章 戦勝記念式典(ヴィクトリー・セレモニー)
65/212

◇21 上屋敷 母達(マザーズ)

 【王都城壁内・ノイシェーハウ上屋敷】

 【戦勝記念式典当日 夕】


 「ん。じゃあ私は終わりだ」

 「後は母親にでも挨拶するんだね」


 大お婆様が俺を促す。


 俺は大お婆様の右側に立つ女に挨拶をするべきか。

 それともパッサイル大佐に挨拶をするべきか。


 大お婆様に視線を向けたまま、俺は口を開いた。


 「母さん。ただ今帰りました」


 目を合わせない失礼は承知の上だ。

 しばらく無言の時が流れる。

 もう一度、同じ言葉を繰り返そうとした時、反応があった。


 「アタシが一番か。まあいいよ。おかえり小僧」

 「よく無事に帰ってきたね」


 実に意外な反応があり、俺を混乱させる。

 声の主を見ると右壁に立っているベリーショートの赤髪で、シャツとパンツの女が崩れた態度で俺に笑顔を向けた。


 どういう事だ?

 ()()()()()()()()()()()()

 どうしてこの女が反応する。

 パッサイル大佐でもなく、上座にいる女でもなく。

 なぜこの女が……。


 戸惑いを隠せない俺に、その赤髪の女は続けた。


 「どうだい。会社カンパニーの人間は役に立っただろ?」


 脳内に、俺を若旦那、と呼んだ砲術長と掌砲長が浮かぶ。

 お礼は【母】に甘えた時にしろ。と言っていた。


 まさかこの女が俺の母?


 「何度も命を救われました」

 「本当に感謝しています」


 パッサイル大佐が会社経営とは。と違和感を感じたが、別な人間を指していた。

 ではパッサイル大佐とドレスを着た上座の女は。


 「いいよ。それよりほら。まだ挨拶済んでないぞ」


 まだ挨拶が済んでいない。

 この事実が示すのは、信じられないが、俺には複数の母親がいるという事か。

 信じられない事態だが、そうすると少しづつ辻褄が合ってくる。

 しかしまさか……。


 上座の女が一生懸命自分を指さしている。

 俺はこの女をなんと呼んでいるんだ?

 【母さん】は既に使った。


 「母上。ただ今帰りました」


 芸もなく、同じ挨拶を使いまわす。


 「任務ご苦労だった。ティム」

 「休むのも任務の内だ。それを忘れるなよ」


 今度はプレンツェン・パッサイル大佐が反応した。

 やはり母だったのか。


 「ありがとうございます」

 「本当に心が救われました」


 「母の役目だ。気にするな」


 「はい」


 視界の隅に上座の女が肩を落としているのが見える。

 この女も、本当に俺の母親なんだろう。

 今までと違って見える。


 これほどまでに親密な距離を保っているのなら、もっと砕けた呼び方だったのではないか。


 「マム。ただ今帰りました」


 しかし反応したのは、更に別の女だった。

 黒に近い褐色の肌と銀の髪を持つ黒装束の女。

 この壁に並んでいる女性がみんな俺の母親だと?


 「うん。母としてお前の命があっただけでも、それだけでいい」

 「本当にそれだけでいい。おかえりアクティム」


 俺がマムと呼んだ母は、姿は魅力的な女性と変わりがないが、耳の先が長く尖っていた。

 【うたうもの(シンガー)】と同じ亜人デミヒューマンなのか?


 「はい」


 謎の女性に挨拶を済ませて、いよいよ最後の一人になった。

 もっと距離の近い呼び方。


 「ママ……」


 「【ママ】は今はここにいない」

 「後で挨拶に行こう」


 すかさず【母上】のパッサイル大佐が助け船を出してくれる。

 一体俺には何人の母親がいるんだ。

 混乱の極みにあって叫びたいが、ぐっと我慢する。

 後残っている呼び名は……。


 もう距離の近い呼び方は思いつかなかった。


 「お母様。ただ今帰りました」


 「おかえり。アクティム(マイボーイ)!」


 ドレスの裾を噛んでいた光輝く金の髪を持つ女の顔が晴れる。

 まさかの最も距離感のある呼び方が、その女の呼び方だった。


 俺には5人の母親が存在するという衝撃の情報に晒された。

 過去の俺を良く知る人間が5人も。

 場合によってはもっといる。


 多重に包囲された俺は、素早くこの包囲を突破しなければならない。

 俺には情報が必要だ。


 俺の秘密を知っているリンヴェッカー、シュール、ヴェークと作戦を練らなければならない。


 「では大お婆様。私は残りを指揮しなければなりません」

 「お許しを頂けるなら、宿場ホテルに戻りたいのですが」


 「ダメだね」


 大お婆様が真面目な顔で不許可を出す。


 「お前は軍を見ていればそれでいい訳ではないよ」


 どういう事だ。

 俺は軍人ではないのか?


 「お前は無事戦地から帰ってきた」

 「ノイシェーハウの孤児だなんだと言われても、ノイシェーハウと王国の為に英雄的な行為を成し遂げた」

 「もう、完全にノイシェーハウの一族だよ」

 「ノイシェーハウの族名ファミリーネームをやるにはまだ早いけれどね」


 ガルテンという叔父が体を乗り出して反応する。

 それをビルゲン大叔父が手で制する。


 「まだお前には汚名があったね」


 「それは……なんでしょうか……」


 「とぼけるんじゃないよ。出征前に私に約束したじゃないか」


 まずい……。

 俺はこの最高実力者を前に一体何を約束したんだ。


 しかも、【お母様】の上座の女性は目を輝かせている。そして【母上】のパッサイル大佐は顔を固くして俺と目を合わせない。

 【マム】の黒装束は呆れたような顔をしている。

 【母さん】の会社カンパニーの母はにやついている。


 なんだそれは。

 なんだそれは。

 なんだそれは。


 俺は沈黙を守る。


 わからない。


 「童貞を捨てるんだろ? 今度は逃がさないよ」


 …………。

 …………。

 …………。


 「は?」


 全く想像もつかなかった言葉に、俺の思考は一瞬麻痺した。


 そして次に脳が動き始めた時、最初に思ったのが「俺は童貞だったのか」。

 少しの安心感が沸き上がる。


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 次回 上屋敷 道程


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ご感想を頂戴いたしました。一気にエネルギーが充てんされました。

ありがとうございました。

皆さまのご感想やご指摘、たくさんお待ちしております。

これからもお付き合いの程、宜しくお願いいたします。

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