表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界に来たけど義母が5人もいた上に結構ハードモードだった。  作者: 雨露口 小梅
第二章 戦勝記念式典(ヴィクトリー・セレモニー)
61/212

◇17 宿場(ザ・ホテル)

 【首都ゴールドキャッスル 外壁街・宿場】

 【戦勝記念式典当日 夕】


 遺骨の引き渡しはその老夫婦だけで終わらせた。


 そして告知をする。

 それ以上遺骨の引き渡は行わない、遺骨の引き渡しは本国ノイシェーハウ領にて行う。

 兵への面会は後日行う。

 中隊には重傷者がいる。

 かれらの手当てを急がなければ、悲しむ家族が増える事になる。

 更に生きている兵も戦闘から約2週間。休んでいない。

 貴方たちの望みはアクティム・ヴァシュリンガーが引き受けた。

 だから今は負傷者の手当てをさせてほしい。


 そうお願いしたところで、人垣がなくなる事はなかった。

 しかし、もう剣を持ちいる必要が無い事だけは幸いだった。


 袋小路を封鎖する任務をホリオンに任せて、俺は宿場ホテルへと向かう。

 入り口には宿場ホテルの支配人が立っていた。


 「協力感謝する」


 「協力も何も無理やり……」


 「そうだったな。協力感謝する」


 俺は支配人の肩を叩いて玄関の奥へと進む。

 広間ホールは広く天井が高い。

 その広間ホールに死者と重傷者が寝かされていた。

 俺に気づいたコルネスティが駆け寄って来る。


 「ヴァシュリンガー様」


 「コルネスティ。お湯も清潔な布も不足していないようだな」


 「ええ。宿泊客は殆ど戦勝記念式典に出払っていて、宿場ホテルには残っておりませんでした」


 「そうか。コルネスティ。モニオムとジアルマタを集めてくれ」

 「これからどうするか聞きたい」


 「そうですね……」


 コルネスティ、モニオム、ジアルマタは元々マリーエンロッゲンの部下だった。

 それが俺と行動を共にしたが故に、マリーエンロッゲンからいらないと言われてしまった者たち。

 仕方がないとはいえ、出来る事はしたかった。


 そこにソチェニが先ほどの中年に肩を貸して、宿場ホテルに入ってきた。

 放心している男の体重をもう一人の兵が分け持っている。

 ソチェニが俺に視線をよこすと、俺も頷いた。

 そのまま広間ホールの隅に中年の男と共に座り込む。


 「中隊長殿。お待たせしました」


 モニオムを先頭にジアルマタとコルネスティがやってくる。


 「戦勝記念式典での総裁の話を聞いていたと思うが……」

 「そうだな。これからどうする?」

 「一応俺の領民になるんだが、選択して欲しい」


 「ご主人様マイロードと呼ばせて頂けるのでしたら、中隊長殿の元に残りたいと思います」


 モニオムがまっすぐ俺を見返してくる。


 「軍人としてか? 市民としてか?」


 「適うのでしたら、【うたうもの(シンガー)】の世話係として」


 「頼りにしている」


 俺とモニオムは握手した。


 「それで、ジアルマタはどうする?」


 俺はマリーエンロッゲンへの忠誠を失わなかった男に向き直る。

 ある意味この戦勝記念式典では最も過酷な現実を見せつけられた男。


 「私はもう戦争はしたくはありません」

 「正確には貴方の下で戦争はしたくはありません」

 「これからも生きていられるとは思えません。過酷すぎます」


 その表情は疲れ切った老人を思わせた。

 この戦争で若さを失った青年。


 「マリーエンロッゲンの元へ戻るか?」


 「幾ら係累と言っても戻れません」

 「出来るならば、ノイシェーハウの領民で構いません」

 「貴族とは付き合いたくありません」


 その気持ちは良く分かった。

 自分の思いは必ず相手に届く訳ではない。


 「わかった手配しよう」

 「今までの協力を感謝する」

 「ただ、まだしばらくは鎧を着ていてくれ」


 「はい」


 ジアルマタと握手をする。


 「コルネスティはどうする? 軍人か? 市民か?」


 「私は貴方といて楽しいですよ」

 「確かに厳しすぎますが」


 カラカラとコルネスティが笑う。


 「そうか。ではこれからも護衛騎士ガードとして。俺を援けてくれ」


 「ご主人様マイロード……」


 一転して顔を引き締めたコルネスティが今までの呼び方を変える。

 俺とコルネスティは握手をした。

 そしてほどなくしてシュールとその小隊が、マリーエンロッゲンの本隊を引きつれて戻ってきた。


 「ご主人様マイロード


 いつも飄々とした楽観主義者の仮面をかぶった現実主義者が、それすらも剥ぎ捨てて感情を表している。

 すなわち俺への心配だ。


 「シュール。ありがとう助かった」


 「途中で噂を聞きました。暴動にならなくて良かったですね」


 「本当に」


 俺はすぐにその赤毛のシュールとの話題を変える。


 「警備をホリオンと変わって貰ってくれ」

 「それから重傷者の看病も変わって貰ってくれ」

 「死者も……ここで火葬する訳にはいかない」

 「誠につらいが、郊外で火葬してもらおう」


 この気持ちの回転の速さはコルネスティと並ぶ。

 そしてその明るさも。


 「そうですね。私が監督します」


 「頼む」


 シュールが広間ホールを出ていく。

 見事に小隊の兵がついていく。

 完全に小隊を把握している。


 「そろそろくる筈だがな」


 俺は何となくそんな予感がした。

 タイミングよくリンヴェッカーが執事バトラーのフェヒター・バークマーを連れて入ってきた。


 「アクティム様。皆さまも無事で何よりでした」

 「ドロッセル様を始め、ノイシェーハウの皆様も使用人皆も心配しておりました。


 汗を拭くと頭を下げる。

 俺の無茶な要求をなんとかこなした風情だ。

 しかし俺は戦場での無理を無情で通すをここでも実行した。


 「ありがとう」

 「まずは魔法医だ。重傷者を早く楽にさせてやりたい」


 「はい」


 俺の言葉を聞いて、フェヒターの代わりにリンヴェッカーが外から人を呼ぶ。

 入ってきたのは、黒いローブに身を包んで顔を隠している8人の人間だった。

 この総天然色の世界にあって、その8人だけ色をなくしたかの様に光を飲み込んでいた。


 「来てくれてありがとう」

 「心から感謝する」


 すると一人が前に進み出て、フードを下ろした。

 老人を予想していたが、その魔法医は10代の若者だった。


 「ドロッセル様より命じられて参りました」

 「感謝はドロッセル様へお願いいたします」


 魔法を使える選ばれた者だからだろうか。

 ノイシェーハウの末席の俺にも動じない。


 「わかった」


 「では、治療に取り掛かって宜しいでしょうか」


 先から何をおいても事務的な対応だ。

 目的を果たせるのならば、それも気にならない。


 「頼む」


 俺に先導されて重傷者が寝かされている場所までくると、8人の魔法医はそれぞれ4組に分かれる。

 二人一組の魔法医は前後に並ぶと、後ろにいる者が杖を床に突き立てる。

 床に光で出来た水の波紋の様なものが広がる。

 そして前に立つ魔法医が持っている短い杖を重傷者の体に当てると、その波紋は向きを作って重傷者の体の上に流れる。

 次第に重傷者の顔色が良くなり、苦悶が安らかな寝息に変わった。


 「これが魔法医のチカラか……」


 見ると4組とも同じ動作をして、重傷者を癒していく。

 もう少し……もう少しクライナーもあの兵も生きていたら助かったのに……。

 この魔法医が戦場にいたのならば、どれだけの命が救えたのか。

 そう思わずにはいられない程のチカラだった。


 貴族が独占しているという事は、魔法使いの数は圧倒的に少ないのだろう。


 連れてきた重傷者は100人を数えたが、この王都ゴールドキャッスルに着く頃には殆ど生き残っていなかった。


 しかし、これほどの効果があるのなら。

 この人数がいるのなら、何とかなりそうだと安心する。


 自分が下さなければならない慈悲から解放されて、心から安堵する。


 「それで中隊分の宿はどうなった?」


 俺の横で一緒に見ているフェヒターに聞く。

 フェヒターが用意した宿というのはなんと、俺達が勝手に占拠したこの宿場ホテルだった。

 どうやら宿場ホテルの持ちオーナーは支配人とは別にいるらしく、借り上げを取り付けた時には、騒ぎと共に俺達に占拠されていたそうだ。


 「では遠慮はいらないな」

 「リンヴェッカー。全員分の部屋を割り振ってくれ」


 全員の顔が明るくなる。

 久しぶりの屋根付きの部屋でしかも鎧が脱げる。

 体を拭くことも出来る。

 戦塵の垢が落とせると思うと、気も楽になってくる。

 何しろ俺がそうなのだから、皆を咎められない。


 「【うたうもの(シンガー)が500人もいますからね」

 「部屋が足りないので、ご主人様マイロードも同室になりますよ」

 「キツキツです」


 珍しくリンヴェッカーがいたずらな笑みを浮かべる。

 それは後で聞くとしよう。

 俺が忘れていなければ。


 「文句は言わないよ」

 「あと、遺骨を安置する場所も宿場ホテルの中に用意してもらおうか」


 一瞬でいたずらな笑みを消すと、模範的な護衛騎士ガードの顔に戻る。

 さっきは本当に珍しい一瞬だったと知覚する。


 「ご主人様マイロード。指示に背いて申し訳ないのですが、とても部屋が足りません」

 「馬車に積んだまま、ノイシェーハウの本隊に常に警護してもらうしかないと思います」


 「残念だな……。仕方ない」

 「そうしてくれ」


 俺はフェヒターに向き直った。


 「待たせたな」

 「護衛騎士ガーズ全員を連れていく事は出来ないが、上屋敷へ行こう」


 フェヒターの安堵する表情が面白かった。

 緊張の時間がやってきた。


 相手は俺の事を知っていて、俺は知らない。

 次なる戦場だ。



 ※



 「どうしますか?」


 「どうも出来ないだろう」


 王都の治安維持を担当している騎士が、目の前の群衆を見て呆れている。

 どうにかすると言っても、群衆は万の数を超えており、警邏する騎士は10人程度に過ぎない。

 文字通り何も出来ない。


 おいこら。で道を塞いでいる領民をどかす事も出来るが、手荒な事をすれば恨まれる。

 更に、この騒ぎの中心にはあのノイシェーハウの義子がいる。

 警備兵の隊長を殺して、式典へ強硬入場を果たした狂犬みたいなやつと聞いている。


 宿営地にはノイシェーハウ軍も駐屯している。

 先ほど武装した兵が、この群衆の中に入って行ったのも見ている。

 関われば、自分の身分を越えて面倒臭い事になる。


 「さぁ行くぞ」


 警邏の騎士の一人が号令を出す。

 見なかった事にしよう。

 それが全員の一致した意見だった。


----------------------------------------------------------------


 次回 上屋敷


----------------------------------------------------------------

ご評価100ポイント頂きました。誠にありがとうございます。

続ければここまで来るのですね。これをチカラに書き続けていきたいと思います。

これからも宜しくお願いいたします。    雨露口小梅

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ