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異世界に来たけど義母が5人もいた上に結構ハードモードだった。  作者: 雨露口 小梅
第二章 戦勝記念式典(ヴィクトリー・セレモニー)
58/212

◇14 戦勝記念式典 市街戦(アーバン・ウォーアフェア)

首都ゴールドキャッスル 外壁街】

【戦勝記念式典当日 昼】


 「ご主人様マイロード


 群衆の異変を受けてリンヴェッカーが俺に走り寄ってくる。

 俺はすぐにリンヴェッカーの頭に口を寄せて指示を送る。


 「伝達しろ。刺激するな。リンヴェッカーは車列の先頭に立て」

 「場合によっては全速力で逃げながらの戦闘になるぞ」

 「今のところ、宿営地にまっすぐ向かう。しかし車列が乱れた時は俺が後方から命令した場合だ。その時は車列の動きに従え」


 「わかりました」


 リンヴェッカーがゆっくりと先頭に向かう。

 その歩きは硬直していた。

 俺と同じように緊張しているのだ。


 「ソチェニ。すまないが副官として俺に手を貸してくれ」


 「構わない」


 どこか防御に適した場所は。

 大通りとはいえ、ここでは四方に対処しなければならない。

 叔父に救出をお願いするとして、それまで持ちこたえられる場所。

 考えろ。

 途中に運河があった。その川を背にして行き止まりの道。

 宿営地と歓喜の広場の距離が往路に比べて復路がとても長く感じる。

 前方と後方を埋める群衆。

 これでは宿営地に全速で向かっても途中で揉みつぶされるだろう。


 「ソチェニ。手配してくれ」

 「途中で川がある。橋を渡る前に左手に折れて、袋小路を探す」

 「橋へ到達したら、ホリオン中隊の馬車は残して、その他の馬車を先頭に集める」

 「後方と側方を固めながら進むぞ」

 「川と袋小路を利用して2方の陣を構築する」

 「側方を固めるのはA陣地。後方はB陣地だ」

 「シュラー小隊は【うたうもの(シンガー)】直衛にする」


 「わかった」


 ソチェニも前方に向けて歩みを早める。


 俺は頭を動かさず視線だけで周りを見渡す。

 この群衆の壁、見れば建物の2階や屋上からも俺達を見る者がいる。

 全員が一言も発せず、無表情の視線を投げかける。


 全ての兵は異様な空気に当たってピリピリした空気を発散する。

 そのお陰なのか、群衆はほんの少しだけ俺達から距離をとってそれ以上は近づいて来なかった。


 だからと言って離れた訳じゃない。


 群衆も無表情で車列と同じ速さで付いてくる。

 手に何も持たず、安い普段着に身を包んだ老若男女。子供までいる。

 そのすべてが表情を殺し、瞬きをせずに俺達を見つめている。

 俺はこれほどの恐怖を感じたのは初めてだった。


 俺の傍にいるヌワも毛を逆立てている。

 【うたうもの(シンガー)】も生きた心地はしないだろう。

 群衆が暴発してもまずい。

 中隊の誰かや【うたうもの(シンガー)】が暴発してもまずい。


 俺は馬車の上に駆けあがった。

 身長の倍以上の高さと視界を手に入れた俺は、目指すべき宿営地の方角を見る。

 まだ道は空いているが、観衆がこちらの騒ぎを察知して王の街道の中に踏み込み始めている。

 5街区位の奥に橋が見える。

 遠い。とても遠い……。


 馬達も雰囲気を察知して、体の動きが荒くなってきている。

 今のところホリオン中隊の兵が何とか宥めている状態だ。


 これはいずれ何か事故が起きる。

 俺は路上を歩くソチェニに声をかける。


 「ソチェニ。ホリオンとシュールに盾以外の武器を全てしまうように伝えろ」

 「間違っても武器で民衆を散らそうとさせるな」

 「モニオムいるか?」


 「ここにいます。中隊長殿」


 やはりいつの間にか馬車に立っている俺の足元にいた。


 「【うたうもの(シンガー)】を守り抜くと伝えてくれ。だからどんなに怖くてもこちらから手を出してはいけない。と」


 「大丈夫です。もう既に伝えてあります。中隊長殿の名前で」


 「ありがとう。感謝する」


 モニオムから目を離して、再び前方の王の街道の観察を続ける。

 次第に王の街道のスペースが詰まってくる。

 これでは立ち往生だ。

 ……。どうする? やってみるか……。


 「お前たちは……。いや、貴方たちは王国軍ノイシェーハウ派遣隊の行軍の……」


 違う。

 邪魔していると言ってはいけない……。


 「道をあけてください!」

 「我々の目的地は首都ゴールドキャッスルの宿営地です!」

 

 俺は体を巡らせて、四方の群衆に呼びかける。


 「危険ですからそれ以上近づかないでください!」

 「馬車の車輪に服が絡まったり、馬に蹴られたりします!」

 「貴方たちの安全の為に申し上げています!」


 両手で口元に筒を作って、なるべく遠くの群衆まで俺の声が届くようにする。

 くそ、あのどこからともなく流れてくる魔法の音楽の代わりに注意を発する事が出来たら……。


 「危険ですからこれ以上我々に近づかないでください!」

 「もう一度お願いします。貴方たちの安全を確保する為に申し上げます!」

 「危険ですから近づかないでください!」


 俺は両手を広げて、こちらに来るなと示し続ける。

 それでも圧力はひしひしと高まってきている。


 俺だけではなく、他の兵も声を上げ始めた。


 「危険ですからこれ以上我々に近づかないでください!!」

 「馬も興奮してきています!!」

 「危険ですから道を開けてください!!」

 「我々の目的地は郊外の宿営地です!!」


 それでも止まらない群衆に向かって、声は次第に絶叫に近くなっていく。

 何人かの人間が俺達に向かって両手を差し出す。

 それは連鎖反応を生み。更にスペースを埋めていく。


 もはや中隊を囲む群衆は全て、両手を中隊に向けていた。

 手の平の海で人間の頭が見えない。


 「ソチェニ。モニオム。絶対にこちらから手を出すな!」

 「兵と【うたうもの(シンガー)】に徹底させろ!」


 なぜ俺達に近づく?

 意味不明の恐怖は馬にまで伝染して、限界以上に張り詰めていた。


 「馬が興奮しています!! 危険ですから近づかないで下さい!!」


 何万の人間が両手を俺達に向けながら詰め寄って来る。

 ホリオン中隊の兵も次第に構える盾が乱暴になり始め、群衆を外側へ押しやる。

 しかし押しやられた群衆は勢いを付けてまた盾に押し付けられる。


 「絶対にこっちから手を出すな!!」

 「危険ですから離れてください!!」


 押し合い圧し合いの波は、打ち寄せるたびに威力を増し、波の様に人の頭が動くのが見て取れる。

 波は俺達の隊列から遠く離れたところでも起きている。

 関係があるようには思えない距離だが、俺達を発生源とする波は遠くの群衆にまで伝わっていた。


 橋は……?

 後2街区分だ。目と鼻の先まで来ている。

 幾万の視線に晒され、神経がねじ切れるような緊張感の中で、やっとこの短い距離を進む事が出来た。


 そして異変が起きた事を知る。

 馬車上から見ても離れた場所で、悲鳴が幾つも重なったと当時に人が次々と倒れていく。

 群衆が狭い場所に集まりすぎた。

 誰も体の均衡が保てない結果。波の様に倒れていく。


 「まずいぞ」


 事態は制御不能に至る臨界点へ到達した。



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 次回 戦勝記念式典 暴動


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この回のお話で連載を開始してから遂に2万PVを越えました。

都合2万回も読んで頂いているという事です。

数字を目標にしている訳ではありませんが、毎日毎日読んで頂いているという手応えは、モチベーションとなって消化させて貰っています。

ご感想を下さった方、ご評価を下さった方、ブックマークをして下さっている方、読んで下さっている全ての方、ありがとうございます。


雨露口小梅

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