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異世界に来たけど義母が5人もいた上に結構ハードモードだった。  作者: 雨露口 小梅
第二章 戦勝記念式典(ヴィクトリー・セレモニー)
56/212

◇12 戦勝記念式典 戦闘報告(バトルリポート)

【王国 首都ゴールドキャッスル 歓喜の広場】

【戦勝記念式典当日 朝】


 壇上にいる王太子は並み居る王族貴族から一歩前に出て、いかに邪悪な共和国に一撃を与えたか自信満々に語っていた。

 演説で声を張り上げる王太子の声は上ずって甲高く、その声は受閲部隊の全てに届く前に空気の中に掻き消える。

 ましてや、歓喜の広場の外にいる群衆には、人間一人の肉声などは届く訳もない。


 歓喜の広場での演説は、まだ受閲部隊が終わらない内に始まっていた。。

 どちらにせよ軍靴が奏でる音、群衆の歓声やざわめきでかき消される。


 しかし演説の内容は聞き取れた兵士が合わせた歓声に、更に周りが合わせて波の様に広場の外へと伝わっていく。


 演説の内容は口伝えで流れるうちに簡略化されてねじ曲がり、正しく伝わる事はなかった。

 それでも伝わった事がある。

 それは王国が共和国に勝ち、その勝利をもたらしたものは、ここに居並ぶ貴族の軍隊である事。

 壇上に並ぶ貴族と演説する王太子は人生の絶頂にある事を隠さず、興奮し紅潮し背骨を震わせていた。


 広場から伝わってくる今までで最高の歓声で群衆の興奮も最高潮に達する。

 マリーエンロッゲンの兵の入場が始まったのだ。

 壇上に立つ王太子もマリーエンロッゲンその人も歓声の圧力に満足げな表情を浮かべていた。

 王太子は誰一人聞いていない演説に酔いながら、更に声を張り上げる。

 壇上の貴族すべてが満足に打ち震える中、沈黙を守る集団があった。

 その貴族の族名ファミリーネームはノイシェーハウ。

 全員が王の街道を注視し、待ち人が現れるのを待った。

 もっともその待ち人はヴァシュリンガー中隊であり、ビルゲン受閲中隊とバラバラではあったが、ビルゲン受閲中隊遅刻の触れでコケにされている事には変わりはなかった。


 「アクティム(マイボーイ)アクティム(マイボーイ)


 ドレスに身を包んだアイヒェンは豊かな胸を両腕で押しつぶし、祈る様にひたすら我が子の名前を呼んでいた。

 そしてその人生でも最も奇妙な部類に入る光景を目にする。

 内城街にまで押し寄せた群衆は、その街道の奥から歓声が消えて、順々に後ろを振り返る。

 そして皆一歩づつ後ろに下がった。

 何か異常な事態が起きたという人の気が波の様に伝わってくる。


 アイヒェンは期待に胸を膨らませた。

 ハイヒールにも関わらず更に背伸びをして頭を巡らせる。


 壇上に並ぶ王太子とマリーエンロッゲンが群衆の異変に気付いたのは、それから少し遅れてからだった。



 ※



 もう既に俺達が歩いた道に歓喜の声がなくなる事に慣れていた。

 人々の困惑の表情と囁き声。

 前方の広場から聞こえてくる圧倒的な音波は、俺が一歩を進めば発生源が一歩遠くなる。


 そして群衆の波が切れ、ひときわ輝く広場に出た。

 目の前には煌びやかな鎧に身をまとった軍隊。

 一段高いところに居並ぶその軍隊の主人たち。


 俺は行進を続けながら貴族の中に見知った顔を見出した。

 中央寄りに立っている軍装の男。

 マリーエンロッゲン王国軍総裁だった。


 マリーエンロッゲン総裁の前には俺達を救ってくれた王国近衛軍キングスガーズ第1騎兵大隊ファーストウィングが整列していた。

 馬上で微動だにしないのは俺の母親。プレンツェン・バイ・パッサイル大佐。そして1馬身後ろに控えるのはアペン・ウプレンゲナー騎兵大尉だ。

 俺はそれをちらりと眺めただけで躊躇なく、整列する軍隊を迂回すると壇上に並行する形で部隊を進めた。

 下手に挨拶をすれば近衛キングスガーズも巻き込む事になる。

 結果的に縦列で並ぶ貴族軍と壇上とを断絶する事になるが、俺は気にしなかった。


 「増強中隊止まれ」


 「全体。止まれ!」


 俺の命令をリンヴェッカーが裂帛の声で復唱する。

 さて、俺は今の今までどうやって報告するか全然考えていなかった。

 何やってるんだ俺。

 さぁ。どうするか。


 「周れ右!」

 「王並びに王家、諸家、王国軍総裁に対して敬礼!」


 リンヴェッカーが号令を出して、増強中隊がバラバラと敬礼する。

 剣と盾を持つものは片膝をつき、鞘に納めている者は右手を胸に当てた。

 重傷者はも出来る限り敬礼をしていた。

 一番最後に敬礼をしたのは何を隠そう号令に驚いていた俺だった。


 壇上の王は玉座に座ったまま、その右側にいる若造は突き出た顎を俺に向けて睨んでいた。

 そして俺の狙いである当のマリーエンロッゲン王国軍総裁は、表情を消して俺を冷たく見下ろしていた。

 誰も何も言わない沈黙が支配する。


 俺達に阻まれている貴族の軍隊が、直立不動の姿勢を崩すのが気配でわかる。

 恐らく戦死者の腐臭が風に流れて漂い始めたのだろう。

 もう俺達の鼻はバカになっているからわからないが、いい匂いではないのは確かだろう。


 「ご主人様マイロード。報告を」


 リンヴェッカーの小声が聞こえる。

 そうだ。俺達はこの為にはるばる行軍してきたのだ。

 その間に命を失った者もいる。

 俺の脳が冷え始める。


 「王国軍総帥閣下に申し上げます」

 「王国ノイシェーハウ派遣軍軍アクティム・バシュリンガー増強中隊、共和国軍増強1個連隊4000の王国侵入を阻止せしめ、3日間の遅滞防御任務を完遂」

 「戦死1200。重傷200。協力者500。残存剣士20。総勢1900」

 「報告に当たりノイシェーハウ派遣軍より1個中隊を編入。現在員2100名」

 「ただいま王都ゴールドキャッスルに帰還した事を報告申し上げます」

 「終わり」


 更に無言の時が流れる。

 この3日間の戦闘と更に1週間の間に起きた事。

 傷つき死んでいった者たちの事が思い出されて、思わず目頭が熱くなる。

 俺は敬礼を終わらせようとしたが、リンヴェッカーに注意される。


 「ご主人様マイロード。上官の答礼なく敬礼を終わらせるのは礼を失します」


 「そうか。重傷者にはきついだろうな」


 俺はゆっくりと右手を元あった胸の位置に戻す。

 まっすぐマリーエンロッゲンを見据える。


 もういい加減、部下の為に答礼して欲しいと言いかけたところで、右手の壇上にある貴族が一斉に口と鼻を抑え始めた。


 「ふん」


 俺は心の中で笑う。

 風向きが変わり、腐臭が貴族席まで流れていったのだろう。

 お前たちの為に戦った者の臭いだ。

 良く嗅いでおけ。


 変わらず冷たく見下ろしているマリーエンロッゲンにさっきのアゴ青年が何かを囁く。

 ようやくマリーエンロッゲンの右腕が動いて答礼が返ってきた。

 その右腕が下ろされて、リンヴェッカーの「直れ」の号令がかかる。


 「ご苦労だった。下がっていいぞ」


 短く俺達に解散が言い放たれる。

 だが、これで終わりではないんだな。

 傍に王や貴族がいるなら、この勢いを借りて言質を取らなければならない。


 「ありがとうございます。確認いたしますが、お借りした兵も原隊に帰して宜しいという事でしょうか」


 「どこにいる!?」


 声に苛立ちが含まれている。

 俺の嫌がらせは効いている訳か。

 腐臭がそっちに流れて王共々嘔吐したら恰好がつかないもんな。


 「リンヴェッカー」


 俺の頷きと共にモニオムとジアルマタ、動ける数人の兵が進み出る。

 更に馬車の上では重傷者が手を上げていた。

 そして木箱が馬車から降ろされる。


 「その箱はなんだ」


 「戦死された英雄であり、元は閣下の領民の骨です。全て回収できたものもいれば、一部の骨しかないものもあります」


 壇上から悲鳴があがる。

 その悲鳴を上げていたのは主に貴族の女性陣だったが、あのアゴ青年も甲高い声で悲鳴を上げていた。


 マリーエンロッゲンもたまりかねた様に口元を抑える。


 「全ていらん! 貴様が責任もって処分しろ!」


 「では、全てアクティム・バシュリンガーの領民としても宜しいという事でしょうか」

 手の平をひらひらさせるマリーエンロッゲン。


 「閣下。明快なご回答をお願いいたします」


 「して宜しい!」


 「後一つあるのですが……」


 「なんだ!」


 「王都の門で閣下への報告という任務完遂を妨げた将校がおりましたので、射殺いたしました。作戦行動中の妨害行為という事で問題はないかと小官は考えますが、咎めはございますでしょうか」


 「ない!」


 たまりかねてアゴ青年が嘔吐する。

 それにつられて向かって貴賓席の上でも失神する夫人と嘔吐するものが相次いだ。


 リンヴェッカーに頷く。


 「王並びに王家、諸家、王国軍総帥に対して敬礼」


 俺はすかさず、「増強中隊前進」と号令を出した。


 「ヴァシュリンガー増強中隊前へ!」


 俺は努めてゆっくり歩いた。広場を右手から進入して貴賓席全てを周り、左手から出る。

 ホリオンに車列を率いらせる。

 リンヴェッカーと俺は馬車列に追い越されながらゆっくり、この世界を見回していた。

 嫌がらせの効果の確認もあるが、スラムから平民の街。城壁の内側にある貴族の街。そして王城。

 その身分格差を肌で感じようとしていた。

 これが俺のいる世界。

 アクティム・ヴァシュリンガーのいる世界。

 ミヤサキ トウヤの世界とは全然違う。


 更に俺にはこの貴族軍を脅威に感じていた。なんといっても武装している。

 俺が最後に退場しないと部隊の安全を守れない気がした。


 しかし見れば一部の人間を除いて俺たちに敵意はなさそうだった。

 俺は最高の笑顔でその広場を後にした。


 後で知った事だが、壇上から俺達に拍手を送り続けた貴族の一団があったそうだ。




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 次回 戦勝記念式典 群衆


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ご感想を頂きました。ありがとうございます。

応援や指摘を頂く事で小説が磨かれていきます。

これからも是非様々なご感想をお待ちしております。

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