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異世界に来たけど義母が5人もいた上に結構ハードモードだった。  作者: 雨露口 小梅
第二章 戦勝記念式典(ヴィクトリー・セレモニー)
54/212

◇10 戦勝記念式典 入場(アドミッション)

【王国 首都ゴールドキャッスル 歓喜の広場】

【戦勝記念式典当日 朝】



 歓喜の広場と、一段高い選ばれたものしか立つことの出来ない一等席である貴賓席。

 そこに主催の王と貴賓の貴族たちが立っていた。


 王国でもっとも経済力のあるノイシェーハウが一番の末席を宛がわれていた。

 その理由は簡単。

 王国の中で最も新参者の貴族だからだった。

 たとえそれが強大な軍事力を持っていても、強大な経済力を持っていても、貴族の歴史と体面が末席に座る事を要求していた。

 ただノイシェーハウがいかに強大であっても、王国全ての貴族を相手に戦争をしていては、国そのものの衰退は避けられない。

 そうした現実的な理由を持って、ノイシェーハウは王にかしずく事になった。


 同じ王国にあって、大河で切り離された最も南の国。

 その国を治めるノイシェーハウが王国に下ったのは僅か30年前だった。

 東と南は海に囲まれ、北は大河、西は山脈に囲まれた多様な土地と気候を有する国。

 食料や特産物も多様で豊富なら、亜人デミヒューマン野生動物モンスターも多様で豊富だった。

 冬になればその食料を求めて西から帝国の民が略奪に侵入する。

 豊富な物資は自然と北にある王国に安価に流れて、王国との摩擦を引き起こす。

 いうなれば合法的な市場を求めて、王国にかしずいた現実的な選択が出来る貴族だった。


 しかし末席だからこその利点もあった。

 王や有力貴族に気遣う事もなく、一段高い貴賓席にはひっきりなしに報告の人間が出入りしていた。

 中心に立つのは老齢のドロッセル・ノイシェーハウ。現当主のロストッカー・ノイシェーハウは領地にいて王都を不在にしている。

 その右側に立つのはアイヒェン・ノイシェーハウ。左側に立つのは軍服を来たガルテン・ノイシェーハウ。

 報告を受けていたのはアイヒェン・ノイシェーハウだった。


 「ありがとう」


 アイヒェンは心配そうな表情を隠すことなく、市街地に通じる王の街道のはるか彼方に視線を送る。


 ガンメリンが頭を下げて下がる。


 「ビルゲンとヴァシュリンガーはどこまで来たって?」


 歓喜の広場に入場する受閲部隊へから視線を逃さず、ドロッセルは孫娘のアイヒェンに問いかける。


 「間もなく王都ゴールドキャッスルに入都するそうです。お婆様」」


 「そうかい」

 「何をしてくれるのか楽しみだね」


 アイヒェンは答えなかった。

 

 心にあったのは、やっと息子マイボーイに会える。死んでいない事を確かめられる。

 それだけだった。





【王国 首都ゴールドキャッスル 駐屯地】

【戦勝記念式典当日 朝】


 王都ゴールドキャッスルの外に広がる広大な牧草地帯には、各領家の駐屯地が設けられている。

 演習以外空き地になる軍用地は、酪農家との取り決めで放牧地帯になるが、いつの間にか王都ゴールドキャッスルからはみ出したスラムによって、占領されつつある。

 しかしこの日は本来の主の為に解放されていた。


 戦勝記念式典に参加しない兵達が、各領家の縄張られた区域内で思い思いくつろいでいる。

 しかしどことなく落ち着きがないのは、ある噂が流れているからだった。

 興味のないフリをしても、チラチラと王城キャッスルから伸びる王の道を伺う。

 共和国侵攻の後、叩きだされた王国軍で捨て兵にされて共和国軍に当たった部隊。

 公式には共和国から叩きだされた訳でもなければ、共和国軍を蹴散らしたのはマリーエンロッゲン王国軍総裁だという事になっている。


 しかし受閲部隊に参加できない平民は、そんな公式発表を信じるものはいない。

 ましてや緘口令が敷かれていても、貴族が見ていない場所で染みの様に噂は広がる。

 何しろ自分達は共和国軍に蹂躙されそうになったのだから。


 そして仲間を呼ぶ声がさざ波の様に伝わる。


 平民にとって、今日の一番の見世物が街道の奥にぽつりと見えた。

 そして興味がないという装いは捨てて、街道の周りに野次馬の列が出来始める。


 3本の旗が見え、それが次第に馬車列だという事がわかる。

 そして細かいところまで認識できるようになると、野次馬の目が丸く開かれる。


 まず第一に目につくのが亜人デミヒューマンの群れだった。

 殆どが内陸部の平原にある領家の民は、亜人デミヒューマンを見た事がなかった。

 人型をしていて雌雄の区別はつくが、体を覆う羽毛と言い飾り羽といい、直接衣服を体に縫い付けてあるような姿は驚き以外の何物でもなかった。

 そしてもう少し注意を払えば、車上の弓兵は今すぐにも矢を番えるようにしてあり、一部の兵は剣を鞘から抜いてすらある。

 まるで同じ王国軍の中を進むのではなく、敵対地域の住民の中を進むかのような緊張感だ。


 そして全て有蓋馬車の為、運んでいるものを直接視認する事は出来ないが、後尾の幌から見える無数の木箱。

 緊張感を湛えたその捨て兵部隊は、まるで首都ゴールドキャッスルで戦闘を起こしそうな厳しい目をしていた。


 「まるでまだ戦争をしているみたいじゃないか……」


 誰かの呟きに同意の頷きが繰り返される。


 捨て兵、ヴァシュリンガー中隊より遅れてやってくるノイシェーハウ軍。

 1個中隊と1個大隊。


 戦場でのノイシェーハウ軍の強勢を目の当たりにした領家の軍は息を呑む。

 正直共和国と互角に渡り合えた唯一の軍。

 その自信にあふれた軍の姿に、自然と称賛の歓声があがる。

 自分の指揮官。貴族がいないからこそ上げられる声だった。





【王国 首都ゴールドキャッスル 服従の関】

【戦勝記念式典当日 朝】



 旗衛隊の一人が片手を高く挙げると、車列が順次止まる。

 城壁の外に広がる市街地の入り口にたどり着いた。


 「ご主人様マイロード首都ゴールドキャッスルに到着しました」


 リンヴェッカーが止まった馬車の上で俺に報告する。


 「そうか。ならここで会社カンパニーはお別れだな」

 「挨拶しておこう」


 俺はリンヴェッカーとヌワを伴って会社カンパニーの馬車まで歩く。

 会社カンパニーの人間の犠牲は掌砲長の腕だけで済んだ。


 「若旦那ぁ」


 馬車の上から両手を失った掌砲長が俺に声をかける。

 なんと失った腕に器具を取り付けて酒を呑んでいた。


 「若旦那」


 砲術長が馬車から降りてくる。


 「掌砲長は元気なようだな」


 「まあ、酒があればあんな調子ですよ。砲を勝手にいじらなければ機嫌は悪くなりません」


 「気を付けよう」

 「腕を切り落とした事を詫びたいと思ったんだが」


 「そんな事気にしてませんよ」

 「酒と砲があれば幸せですから」


 「そうか」

 「しかしお前たちのボスにも挨拶とお詫びをしなければならないだろうな」

 「大切な掌砲長を傷つけてしまった」


 「まあ、それは自分の母親ですから、ボスに甘える時に言えばいいんじゃないですか?」


 「ん……ん??」


 俺の母親がボスだと?

 パッサイル大佐の会社という事になるのか?

 軍人をしていて会社経営者? しかも海の?

 俺の頭の中でつながらなかった。

 人は見かけによらないものだ。

 それで俺が若旦那という訳か。


 丁度ホリオン大尉が駆け寄って来て俺の思考を遮る。


 「ヴァシュリンガー様」


 「どうしましたホリオン大尉」


 馬車の上から報告を聞く。


 「では若旦那。私たちは俺達は王都ゴールドキャッスルの支社にいきます」

 「馬車は借りていきますよ」


 「ああ。後日必ず訪問させて頂く」


 砲術長が額に手の平を付けて、色気のある海の男の挨拶をすると馬車に乗り込んだ。


 ホリオン大尉も敬礼を返す。

 俺は向き直ると車列の先頭に向かった。


 「何がありました?」


 「王都ゴールドキャッスルの入り口を警備している兵が立ちふさがっております」

 「我々を式典参加部隊とは思っていないようです」


 「まあ、そうだな。俺達は招待状を貰っている訳じゃないからな」


 「ここからはご主人様マイロードが指揮を執られた方が……」


 さりげなくリンヴェッカーが旅の終わりを告げる。

 俺は頷いた。

 揺れる馬車旅で些か体は凝ってるが、すり減った神経以外は十分に休息出来て充実していた。


 俺はホリオン大尉に敬礼する。


 「ホリオン・モアーゼン大尉。道中の指揮ありがとうございました」

 「これよりアクティム・ヴァシュリンガーが指揮を執ります」


 ホリオン大尉も敬礼を返してくる。


 「ありがとうございます。ヴァシュリンガー様」

 「無事任務が果たせて満足していています」

 「それではこれよりノイシェーハウ派遣軍第2師団第4大隊第2中隊は、正式にヴァシュリンガー中隊の指揮下に入ります」


 「宜しくお願いいたします」

 「第2中隊はホリオン中隊とします。ヴァシュリンガー中隊の20名はシュール小隊として私直轄の予備隊にします」

 「これより部隊の呼称はヴァシュリンガー増強中隊とします」


 「私に中隊を残して頂き、感謝します」


 お互い敬礼している腕を下ろす。


 「リンヴェッカー。シュールと小隊を連れてついてこい」

 「完全武装だ」

 「コルネスティはモニオムとチカラを合わせて【うたうもの(シンガー)】を守らせろ。いざとなったら叔父を頼る様に伝えてくれ」

 「ホリオン。ホリオン中隊がすぐにでも戦闘に入れるようにしておいてくれ」

 「すまないが1個小隊はソチェニとジアルマタを守って貰う」

 「相手が頑固な奴らだったら蹴散らす」

 「ヌワ。お前は俺についていろ」


 俺の馬車に乗り込んでいるリンヴェッカーとシュールが頷く。

 ヌワは言葉をわかっていないようだが、雰囲気は察した様だ。


 「はじめ」


 俺の号令と共に各員が弾かれた様に動き出した。

 俺は準備が揃う前に、前方に展開している邪魔者に向かって歩き出した。





 「なるほど。邪魔だな」


 旗衛隊の隣で目の前に整列する守備兵を見る。

 道の中央には指揮官らしき、着飾った鎧姿の音が立ってこちらを見ている。

 並ぶ兵隊は剣を抜いていないものの、盾を構えていた。


 俺はそれを確認すると、ヌワと共に更に進む。


 「止まれ」


 相手の騎士が片手を上げて俺を制止した。

 かすかにヌワに目を向けるが、直ぐに俺をまっすぐに見てくる。


 「俺達はマリーエンロッゲン王国軍総裁の命令による作戦行動中である」

 「敵対的行為はやめて道を開けろ」


 騎士が鼻で笑う。


 「こちらは戦勝記念式典の為、受閲部隊以外の侵入を止めるようにマリーエンロッゲン様より命令されている」

 「お前たちの入場を許すわけにはいかない」


 「相反する命令に俺達はしたがっている訳だ」

 「ならば共にマリーエンロッゲン王国軍総裁の元に言って、それぞれの命令を確かめよう」


 俺の提案に対して、騎士が呆れたような顔をする。


 「マリーエンロッゲン様は閲兵中である。些細な事で煩わせるわけにはいかない」

 「式典が終われば通す事も出来る。それまで待つんだな」


 全く取りつく島もなかった。


 「重ねて言うが、こちらは作戦行動中だ」

 「マリーエンロッゲン総裁に戦闘報告をする筈になっている。誰か人をやって確認してくれ」


 騎士は面倒くさそうにしている。

 楽な仕事で終わるはずが、俺みたいなトラブルメーカーがやってきて、いかにも迷惑だと言わんばかりだった。


 「戦争は終わった」

 「これ以上戯言を続けると逮捕するぞ」

 「まあ、いない筈の人間は逮捕できないが……」


 そういう事か……。

 叔父達の警告が腑に落ちる。

 ここからは本当に敵地になる。


 「俺達の事を知っているんだな?」


 「存在しない奴の事など知らない」


 コルネスティかモニオムを呼んで交渉しようかとも思ったが、それも無駄になると俺は悟った。

 こいつは敵だ。


 ちょうどその時、俺の後ろにシュール率いる20名の完全武装兵がやって来て展開した。

 警備中の兵に比べれば鎖帷子も破れ、鎧も傷つき、みすぼらしい事この上ない。

 しかし同数程度の警備の兵を威圧するには十分だった。

 こっちはオシャレで鎧っている訳ではない。

 警備兵も明らかに動揺と緊張を高めていた。

 一人笑みを浮かべているシュール以外は。


 俺は腰につけてある銃を取り出すと、いつかヴェークが教えてくれた様に火薬を詰め、弾丸を詰め、棒で押し固めた。

 撃鉄を上げ、火薬のキャップを詰める。


 俺が始めた奇妙な行動に、騎士と警備兵が注目する。

 逆に俺の行動を見たヴァシュリンガー中隊は、これから起こるであろう事に対して心構えを始める。


 弾丸の装填具合を確かめながら、目を合わさずに最後通告をする。


 「この警告が最後だ」

 「これ以上作戦行動を邪魔すると敵として排除する」


 騎士も不気味なものを感じているのだろうが、気丈に返してくる。


 「いい加減に貴族でもない分際で偉そうな口を叩くな」

 「死人は墓地にいるのが礼儀だ」


 俺は半身になって銃を持った右腕を肩の位置まで持ち上げて、指揮官に狙いを付ける。


 「何を……」


 肘を支点に折れ曲がる衝撃と硝煙の臭い。そして轟音が響き渡った。

 騎士は腹を抑えるとそのまま崩れ落ちる。


 「増強中隊進め」


 「前へ!」


 俺は旗衛隊に命令すると前進を始めた。

 リンヴェッカーも号令を出して増強中隊の車列が進み始める。

 まだ地面でもがいている騎士を踏みつけて進むと警備兵も剣を抜こうとするが、俺が銃を向けると道を開けた。

 更にヌワも騎士を踏みつけていく。

 流石にリンヴェッカーはそんな行儀の悪い事はしなかった。


 「やめろ、やめろ」


 倒れている騎士の掠れた声が聞こえる。

 先頭の馬車を引く馬の蹄の音が一瞬聞こえなくなり、馬車が何かに乗り上げ、乗り越える大きな音がした。


 俺は満足の笑みを浮かべる。

 道を開けた警備兵の前にシュールが率いる小隊の兵が壁を作る。

 2台目の馬車も何かに乗り上げ、乗り越えた音をあげた。


 もう騎士の声は聞こえない。

 俺達は遮るもののない王都ゴールドキャッスルへ入場を始めた。


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 次回 戦勝記念式典 受閲部隊


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