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異世界に来たけど義母が5人もいた上に結構ハードモードだった。  作者: 雨露口 小梅
第二章 戦勝記念式典(ヴィクトリー・セレモニー)
49/212

◇05 転戦 墓穴(グレイブ)

 【王国・双子城の平原 ノイシェーハウ派遣軍 夜】

 【戦勝記念式典まで1週間と4日】


 あのたき火を囲んだノイシェーハウ関係者会談の後、母のパッサイル大佐は俺に何も言わずこの宿営地を後にした。

 そしてウプレンゲナー大尉もパッサイル大佐麾下の近衛騎兵連隊キングスガーズファースト・ウイングと共に発った。


 俺は母との間にしこりを残したままの別れとなった。

 いずれ母と俺の記憶との対決をしなければならない。

 俺を強烈に抱きしめたあのチカラ。

 俺を見つめたあのチカラ。

 俺に記憶はないが、あの夢の中で見る不思議な世界。

 あの世界の母親に似た強制感があった。


 「くっ……。ふふふ」


 どうにかしている。

 夢の中の母を基準に、現実の母の見定めをしている。


 俺は双子城(メットナウ軍)の守備兵の呼び出しで、ノイシェーハウ派遣軍の宿営地へ向かっていた。


 俺の隣を歩くリンヴェッカーが不思議そうな顔を向ける。

 その左右対称の整った顔にも疲れが見える。

 早く護衛隊ガーズを休ませなければならない。

 

 正直、双子城(メットナウ軍)の呼び出しは明日にでもしたい。

 しかし挨拶も済ませていなかった為、無下に断る事も出来なかった。

 重傷者に対してこれからも便宜を図って貰わなければならない。


 そして案内の兵が止まる。


 「アクティム・バシュリンガー様をお連れしました」


 俺を先導した兵が目の前の騎士に敬礼する。

 かがり火に照らされて黄金色に輝く騎士が俺に向き直る。


 「バシュリンガー様。ご足労頂きましてありがとうございます」


 兜を小脇に抱え、晒している顔は細面の中年の男だった。

 まあそうか。一介の中隊長ごときに双子城の貴族が会う訳ないか。

 少し挨拶について固く考えていた俺は、肩のチカラを抜いた。


 「ご所望されていた墓地の整備が終わりました」

 「宜しければ、明日にでも戦死者を運ぶ許可を頂きたいと思います」


 どうみても死者の世話をするのを嫌がっているような態度だった。

 この短時間で墓地の整備が出来る位だから、有能なのではないかと思った。


 「ありがとうございます。ご厚意に感謝します」


 俺はじっと我慢して感謝を述べる。

 そして差し出された手の先にリンヴェッカーがかがり火を掲げる。


 それは巨大なただ1つの穴だった。

 かがり火でも奥が見えない程の幅広い穴だった。


 「これが……。墓ですか……」


 「墓ですが何か?」


 「これが墓だと……」

 「これが墓だと!」


 俺の中に怒りがこみ上げる。


 「俺の部下達をごみの様にひと固まりで埋めるのか?」


 俺の視線を受けてその騎士が一歩下がる。


 「領民をどのように葬れと? まさか一人一人墓を掘るのですか?」

 「1100もの穴を?」


 「リンヴェッカー。領民の村ではどのように死者を葬る?」


 「はいご主人様マイロード。一人一人丁重に埋葬されます」

 「家族によって、故人の尊厳を尊重して埋葬されます」


 俺の怒りを察したのか、声が固い。

 俺は記憶がある3日前からこれほどの怒りを覚えた事はなかった。


 「リンヴェッカー。俺がこの男を斬り殺さないか心配しているのか?」


 目の前の騎士が息を飲む。


 「はいご主人様マイロード


 「お前の懸念は当たりだ」

 「シュラーをこの穴に埋める訳にはいかない」

 「絶対にだ!」


 俺は剣の柄に手を添えて一歩進む。


 「このただの穴に埋葬されるのは、まずこの男だ」


 俺は剣を抜く。


 「ご主人様マイロード!」


 リンヴェッカーは俺が動くより早くその男を穴に突き落とした。


 「リンヴェッカー。叔父に会いに行くぞ」

 「双子城にある薪を全て出させろ」

 「叔父を徹底的に利用するぞ」


 「ご主人様マイロード。ヴェークを走らせます」

 「ご主人様マイロードは戦死者の前でお待ちください」


 「……すぅー……わかった……」


 俺が頭を冷やすようにしたんだろう。

 普通に考えれば双子城に喧嘩を売るのはバカ以外の何物でもない。

 俺は穴を上る騎士を再び蹴落としてから、俺の戦死者へ向かって歩き始めた。





 かがり火で照らされた横たわる人間は、縦横全てきっちりと揃えられて寝かされていた。

 まるで夜の草原に並べられている人形の様に。

 かがり火で照らされる僅かな範囲を超えて1100の遺体はどこまでも続いていく。

 これが俺の成した事だ。

 自分がした事に対して吐き気を催しそうだったが、もう疲れ切って体の感覚はなかった。


 俺はこの3日間でわかった事がある。

 俺は基本的な馬鹿で卑怯だ。

 目の前の事しか考えられない。そしてこの世界の常識をなんとも思わない。

 リンヴェッカーは全てのものに目が届いて、頭の回転が速い。

 そう。祖父であるあのシュラーの様に。

 ヴェーク。

 あの丸刈りで傷がある顔に似合わず交渉が上手だった。

 いつでも外との連絡役を務めてくれる。

 手際が良く、その軽い態度も鼻につかないシュール。

 その気軽な姿は兵に人気があるのが良く分かった。

 無口だがあの力強い握手は雄弁だった。

 そのクライナーの腕が失われようとしている。

 そうだ。クライナーは魔法医によって治療されたのだろうか。

 確認しなければ……。

 

 みな俺より優れている。

 俺以外が指揮をすればもっと犠牲者は少なくて済んだのではないか。

 そう思うほどに俺を打ちのめす光景だった。


 「ご主人様マイロード。お待たせしました」


 振り返ると薪を満載した馬車を率いる兵が並んでいた。


 「ご苦労だった」


 リンヴェッカーの隣には先ほど穴に突き落とされた騎士が並んでいた。

 俺は一瞥するだけで何も言わない。


 「ここの手前からとその真ん中の列から火葬する」


 「私の主人(マイロード)と教会は火葬に反対しております」


 「だから?」


 俺は相手にもしない。

 俺の叔父を恐れろ。

 どうせ俺の事はなんとも思っていないだろう?


 「俺に強制徴募された兵は故郷に帰らなければならない」


 「失礼ですがヴァシュリンガー様。それは貴族の発想ではありません」


 「そうだろうな。俺はノイシェーハウの義子だからな」

 「元は平民かもしれないぞ?」

 「叔父のビルゲンが怖いなら俺の指示に従え」


 俺はその騎士を正面から見据える。


 「丁重に火葬に付すんだ」

 「俺の護衛騎士ガーズに従え」

 「齟齬があってみろ」

 「俺がお前を生きながら焼いてやる」


 俺は鼻と鼻が付くほど間近に寄った。


 「メットナウ家の護衛騎士ガーズである私が、お前の護衛騎士ガーズに従えと!?」

 「平民の貴様を護衛している者に貴族の私が従えというのか?」

 「調子に乗るのもいい加減にするんだな」


 騎士が怒りを露わにする。


 「大変結構だ」

 「まずお前から焼くことにしよう」


 俺は剣を抜いた。

 今度はリンヴェッカーも剣を抜く。


 「お前も抜け」

 「それだけは待ってやる」

 「決闘などしないぞ」

 「これは戦闘の続きだ」


 怒りに震える騎士は剣を鞘に納めた。





 目の前では盛大に火が焚かれていた。

 いや、天に昇る魂を助ける炎だった。

 炎によって生まれた上昇気流は、複雑に風の向きを変えさせ、煙が俺を襲ってきてはまた離れていく。

 時折脂に引火するように炎が爆ぜる。


 リンヴェッカーは采配に周り、騎士は俺の隣から動くことを禁じた。

 まるで悪魔の儀式を見るような恐怖の目で目の前の光景を見ている。


 「焼かれては魂が戻る事はない……」


 つぶやきを漏らす。


 「そうなのか?」

 「骨は家族の元へ帰るぞ?」


 騎士は何も答えなかった。


 「それにしてもなんとも腹が減る匂いだな」

 「夜食でも手配するか?」


 騎士は俺の気づかいに信じられないような顔をして、見つめ返していた。


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 次回 転戦 願い


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