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異世界に来たけど義母が5人もいた上に結構ハードモードだった。  作者: 雨露口 小梅
第二章 戦勝記念式典(ヴィクトリー・セレモニー)
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◇03 転戦 戦場の夜(ナイト・オブ・ザ・バトルフィールド)

 【王国・双子城の平原 ノイシェーハウ派遣軍 夜】


 日が暮れる前にノイシェーハウ派遣軍の内、1個師団は更に前方まで展開して俺達と谷に陣取る共和国軍との壁になった。

 完全に派遣軍の中に飲み込まれた中隊は、その中で派遣軍の後方支援連隊によって手当てを受け、食事を貰い、剣を手放して鎧を脱ぐことが出来た。

 しかし俺はまだ鎧を身に着けたままだった。


 応急の天幕が建ち、夜の涼気から重傷者を守っている。

 護衛騎士ガーズは戦死者や重傷者の名簿を作り、遺品や遺体の整理をしていた。

 出来るなら故郷へ返してやりたい。


 噂に聞いた魔法医も頼んだが、ビルゲン大将の侍医の2名と双子城(メットナウ軍)の4名だけで300の重傷者を診る事は出来なかった。

 生き残りそうなものだけ優先して魔法をかけて貰い、生き残る見込みのないものは双子城の教会から来たものによって慈悲を与えられる。

 魔法医と協会の慈悲を見てみたい。しかし好奇心を満足させる事は出来なかった。


 俺ですら座り込んで眠りたい。

 疲労しきっている兵をまだ働かす事に抵抗はあったが、他の部隊の兵にやらせれば誤魔化しや遺品の盗難もあるかもしれない。

 それでも台帳や木箱など、派遣軍の補給隊には色々と協力はして貰っている。

 俺達は物資という物資を失って、もう体1つになっていた。


 モニオムと【うたうもの(シンガー)】の協力を得て作業は交代で順調に進んでいた。


 これが終われば本当に休める。

 天幕の中で眠れるという事を確約して、作業を進ませている。

 もう夜に行動する事もなければ、歩哨に立つこともない。

 それを支えに兵は、最後の気力を振り絞って仲間の遺体を確認していっていた。


 そして俺は大きなたき火を前に立っている。

 炎の周りには母であるパッサイル大佐、副官のウプレンゲナー大尉。そしてビルゲン大将と参謀達、俺とリンヴェッカーとヌワが囲んでいた。


 俺は俺自身が記憶を持っていない事を打ち明けるのか。打ち明けないのか。

 圧倒的な情報不足でどう動いたらいいかわからない。

 ひとまず俺からは動かず、相手の出方を見る事にした。


 「甥よ。まだ緊張が解けてないのか?」

 「何をそんなに警戒している」


 「いえ。特には」


 「ふむ。ならいいか」

 「では甥よ。改めてご苦労だった。原隊への復帰を命じる」

 「まずは軍団本部直轄とする。直ぐに本国へ返してやる」

 「それ位も褒美は出してもいいだろ?」


 後ろに控える参謀団に顔を向けると、「手配します」と短い返事が返ってきた。


 「王室近衛ロイヤルガーズは今晩中に出発します」


 パッサイル大佐も短く告げる。


 「そうか。王都ゴールドキャッスルで戦勝記念式典があるんだったな」


 バカにするような叔父の発現に周りは一斉に苦笑する。


 「プレンツェンも参加するのか」


 「私が指揮して閲兵を受けるようにと、総長から命令を受けています」


 俺の母……。

 全く実感が沸かない。

 その几帳面な性格を映し出すように丁寧に目鼻を配置をした、まるで芸術品として刻まれた女神のような顔が、たき火の炎に照らされる。


 「俺達も急いで王都ゴールドキャッスルへ向かわないとな」

 「……そういう事だ」

 「偶然こんなところで、ノイシェーハウの人間が偶然出会うとはな」

 「全員で食卓を囲みたいところだが、そうもいかない」

 「ここでお別れだ」

 「また王都ゴールドキャッスルで会おう」


 叔父が母に握手を求め、二人は軽く手を握り合う。

 次にウプレンゲナー大尉としっかりした握手をした。

 そして俺に手を差し出して来た。

 俺も手を握る。


 「我々を救って下さってありがとうございました」


 手を離そうとする叔父の手を更に握りこむ。

 怪訝そうに俺の顔を見る。

 恐らく俺の母も同じような顔で俺を見ているのだろう。


 「ビルゲン閣下。まだ閣下の原隊復帰命令に従う訳にはいかないのです」


 そのたき火を囲む全員の注目が集まるのがわかる。


 「マリーエンロッゲンにまだ何か言われているのか?」


 「はい。直接報告に来いと」


 「お前は捨て駒にされたんだぞ。報告を待っていると思うか?」


 「軍人であるならば命令には服従しなければなりません」


 「時と場合によるだろ? 真面目すぎないか?」


 俺は手を握りしめたまま叔父の目をまっすぐ見た。


 「軍人であるならば命令には服従しなければなりません」

 「私の部下は私の命令に従い、その貴重な人生を私に捧げました」

 「ならば、私は軍の上位者である総裁の命令に従わなければ、彼らの死を踏みにじる事になります」

 「私は任務達成を直接報告し、彼らの死に報いなければなりません」


 叔父が握手するチカラを強くする。


 「王都ゴールドキャッスルへ行くんだな」


 「行きます」


 俺は確固たる信念で答えた。

 俺は記憶がない。

 しかし、意識を手に入れてから果てた仲間を意味のない死にしてならない。

 俺が人間である証だった。

 ()()()()()()()()()()

 自己満足でもいい。俺はそう信じた。


 「政治問題になるぞ」


 「すみません閣下。私に政治はわかりません」


 「馬鹿を装うと嫌われるぞ」

 「いいか。マリーエンロッゲンはノイシェーハウに犠牲を求めた」

 「わかるか」


 「取りあえずは」


 「しかし共和国侵攻の最大兵力を集めたノイシェーハウは最も損害がなかった」

 「更に犠牲を求めたのに、お前は撤退支援戦闘をやり切って見せた。いや遅滞防御戦闘と言い直そうか」


 叔父が俺の胸甲を人差し指で突く。


 「偶然ノイシェーハウ派遣軍と王室近衛ロイヤルガーズが近くにいたとしてもだ」

 「更にお前が死ぬ事を見越して、王都ゴールドキャッスルで戦勝記念式典を用意した」

 「お前は死んで存在していなかった事になり、共和国が王国に侵攻した事実もなくなる」

 「あるのは、共和国に一撃を食らわせた王国軍総帥のマリーエンロッゲンだ」


 更に俺の胸甲が押し込まれる。


 「王国を守り切ったお前がそこに出向いてみろ」

 「マリーエンロッゲンの顔は丸つぶれだぞ」


 叔父は滔々と俺に言い含める。

 心底俺を心配しているのが伝わってくる。


 「ならばその時は俺を切り捨ててください」

 「そうすれば、戦勝記念式典は存在しない筈の、酔狂な中隊長で邪魔された事になる」

 「閣下にご迷惑をおかけする事にはなりません」


 「お前な……」


 叔父が最後まで語る事はなかった。

 俺は突然肩を掴まれ、強制的に周れ右をさせられる。

 そして顔に衝撃が走った。


 「アクティム! 自分の命を粗末にするな!」


 俺の母である近衛騎士団ロイヤルガーズのプレンツェン大佐が俺をまっすぐに見つめる。

 大佐になるには若すぎる。母になるにも若すぎる。

 どう見ても親族にほど遠い、美人すぎる軍人。

 その女性が怒りをあらわにして俺を見ていた。


 「お前が保護した他家の貴族やその配下の者。それに亜人はどうなる」

 「お前の信条につき合わせて心中させるのか?」


 視界の外から叔父の説得が聞こえる。

 俺はこの母をなんと呼んだらいいかわからなかった。

 自分の母親だという実感はまるでわかない。

 普段なんと呼んでいるのかもわからない。


 「プレンツェン大佐。ノイシェーハウ将軍。ならば私はどうしたら良いのでしょうか」


 俺は今までの会話に出てきた名前を使って呼びかける。

 全てを見渡せたあの丘の戦場と違って、これからの行動には全く情報が無さすぎる。

 俺は心から救いを求めて、そして自分から落とし穴に落ちないように、考えられる限りの慎重な言葉を漏らした。


 目の前の女性の目が大きく見開かれ、酷く傷ついたような表情を見せた。

 俺は何かを間違ったのか?


 ウプレンゲナー大尉がプレンツェン大佐の後ろで咳ばらいをする。


 「ヴァシュリンガー様。階級をつけるならばパッサイル大佐でお願いいたします」


 俺は落とし穴に落ちた事を自覚した。

 プレンツェンは名前でパッサイルが族名ファミリーネームだったのか。

 俺は激しく動揺しながらも無視する。

 そうだウプレンゲナー大尉にフルネームを教えて貰っていたじゃないか……。

 それで、この女性が傷ついているのか。

 俺との歴史を元に接しているのに、俺はその歴史を元にして発言していない。

 酷く追い詰められた感じがした。そしてそれは事実だ。

 どう取り戻す? どう取り繕う?

 俺の脳はフル回転を始める。


 「ノイシェーハウを使い倒せ。少なくとも俺を使い倒せ」


 救いの様に叔父であるビルゲン大将の言葉が俺の思考に割り込んでくる。


 「我々を見殺しにした贖罪のつもりですか?」


 俺は救われた思いで、挑戦的な言葉を返す。

 これで目の前の女性の思考が切り替われば誤魔化せるのではないか。

 そんな希望を乗せて。


 「違う」


 「どういう事でしょうか」


 「お前はノイシェーハウ派遣軍の一翼であり、王国の英雄であり、俺の一族だからだ」


 また問題を引き戻された。

 軍の一翼であれば、軍人のふりをすればいい。

 王国の英雄ならばそのように振る舞えばいい。

 しかし一族で親しいもの。

 記憶のない俺に対して、ナイフを突きつけられたような危険な距離感だった。


 「とことんまで利用しますよ」


 毒を食らわば皿までだ。

 後悔するなよ。

 俺はまっすぐ叔父を見返す。


 「ティム」

 「やられたらやり返しなさい」


 俺が振り返った女性は涙をうっすら浮かべていた。

 そして俺は問いを発した。


 「ミサキ トウヤという人物を知っていますか?」


 このたき火を囲む全ての人間は、その人物を知らなかった。

 俺はこの世界での孤独を確信した。


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 次回 ミク 死者


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