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異世界に来たけど義母が5人もいた上に結構ハードモードだった。  作者: 雨露口 小梅
第二章 戦勝記念式典(ヴィクトリー・セレモニー)
46/212

◇02 残存兵力20(レヂデュアル・フォース・テゥウェンティ)

 【王国・双子城の平原 アクティム・ヴァシュリンガー中隊 夕】


 この部隊の戦力は20名まで減っていた。

 潜在的な戦力を考えれば重傷者の300は除いて、【うたうもの(シンガー)】500は期待できるが、俺は【うたうもの(シンガー)】を守ると誓った。

 俺から戦えという事は出来ない。

 既にレディ=マホとイルチは下がらせた。

 報告が正しければ、俺が指揮して死んだ者は1100に上る。


 この死者の絨毯を更に広げる決断は出来なかった。

 俺の道につき合わせるのは、この1個小隊にも満たない20名で限界だった。


 「しかしマリーエンロッゲン総帥の命令を遂行中だからと、一介の中隊長が将軍の命令を拒否するなど聞いた事がありませんな」


 ウプレンゲナー大尉が呆れる。


 「それだけ俺は任務に忠実な軍人だという事だ」

 「評価して頂けるとありがたい」


 俺は不機嫌極まりなかった。

 どこまでも傲慢な相手に、剣を抜きそうな心理状態なのがわかる。

 まるで空中から自分を見ているようだった。

 自分が暴走を始めているような気がしてならない。

 しかし俺に忠実な護衛騎士ガーズを始め、部下たちは誰も俺を止める事はなかった。


 前面に展開する軍団から3種類のを掲げた一団がやってくる。


 「あれは?」


 リンヴェッカーに問う。


 「黒地に金の城に絡みつく竜は王国軍の証です」

 「青地に白丸はノイシェーハウ軍の旗、赤地に金縁山形が5つ重なっているのは将軍がいる事を知らせています」

 「つまりはご主人様マイロードの叔父であるビルゲン様自らやって来られるという事です」


 「ありがとう」

 「部隊、剣を抜け」


 俺は剣を構える。


 それを見て、ウプレンゲナー大尉が慌てる。


 「ヴァシュリンガー様。まさか本当に剣を向ける気ですか?」


 庶民出身の騎兵大尉は貴族に敬語を使わざるを得ない。


 「巻き添えを食いたくなければ下がっていた方が良いぞ」


 剣を抜きながらソチェニが笑う。

 助けを求めるようにウプレンゲナー大尉は周りを見渡すが、リンヴェッカーもヴェークも剣を構える。


 「馬鹿な……」


 俺はただ単にこの左手がいう事を聞かないだけだ。

 既に剣を握る左手の感覚はない。

 脳が命令をしても剣を掴む左手が、剣を離すことはなかった。


 そして旗を立てた一団は止まった。

 あれが叔父のビルゲンか……。


 左手を軽く上げて一団を停止させている。

 その気軽さは生まれながらにして、人の上に立つ風格を見せていた。


 いかにも武人といった風情の大きな体。傷一つない実用性のなさそうな装飾を付けた鎧。

 四角い顔は茶色の濃い髭に覆われ、笑みを湛えている。

 歳は40過ぎか。髭があると年齢が読めない。


 「叔父上です」


 ウプレンゲナー大尉が敬礼……右手を胸に当てて直立不動になる。


 「だからどうした」


 俺は敬礼する事もなければ、剣を納める事もしなかった。


 敵意をむき出しにしている俺達に対して、叔父の一団は戸惑っていたが、次第に反感が生まれ始め、空気が張り詰めだす。

 叔父のビルゲンは、笑みを浮かべたまま俺から目を離さなかった。

 正直、その眼力には気おされるものがあったが、俺も死ぬわけにはいかなかった。


 その緊張が頂点に達した頃、駆ける馬の音が響いた。


 「アクティム!!」


 俺の名を呼ぶ女の声がする。

 俺の中隊と叔父の一団の間を無人の馬が駆ける。


 声がした方向を見ると、女が空を飛んでいた。

 陽光を背に浴び、光の輪郭をまとった軍服の女が俺に覆いかぶさってきた。


 「ぐっ!」


 剣を持ち上げる前に、その女が俺を捕まえ勢いのまま地面に引き倒した。


 全身が衝撃を受け、事態の把握が遅れる。

 俺の頭が腕に巻き取られてその女の胸に押し付けられる。


 首の骨を折られる!

 命の危険が全身を貫き、頭を引き抜きにかかるがビクともしない。

 女と地面に転がり、俺の頭が固定されたまま組み伏される。


 「ティム! ティム! ティム!」

 「私の息子マイボーイ、私の息子マイボーイ


 俺の頭がくしゃくしゃにされる。


 「母に顔を見せてくれ」


 俺の頭が開放され、両手で固定されて正面を強制的に向かされる。

 俺は否応なしに覆いかぶさる女の顔を見る。


 青みがかった髪は後ろで束ねられ、陽光に透ける。

 日陰になり色味は濃さを増しているが、良く焼けた浅い茶色の肌。

 意思の強そうな跳ね上がった眉。

 決して大きいとは言えない、目じりの切れた細い目。

 厳しく結んだ唇。

 全身から厳しさを滲ませる女にあって、目頭に溜めた涙が優しさを象徴していた。


 これが……。

 この人が俺の母親なのか……?

 俺は何も思い出す事なく、実感も沸かなかった。

 俺の記憶とこの世界と、見知らぬ縁者に対して戸惑いが広がる。

 俺が義子だとするならば、この女は何歳の時に俺を拾ったんだ?


 「あぁ……アクティム。こんなに傷ついて……」

 「こんなに心を痛めて……」


 今度は強い力で抱きしめられる。

 鎧を通してでさえ、万力に締め上げられるような強固さで、身動き一つ出来なかった。


 「アクティム。よく生きてました」

 「本当によく生きてました」


 俺の両頬にキスの雨が降る。

 続けて奇襲を受けて俺はなす術もなかった。

 辛うじて出来た反撃が……。


 「汚いですよ」


 「汚いものですか!」


 あっさりと潰される。

 母の後ろには、満面の笑みを浮かべるビルゲンの顔が見えた。


 「もういいだろ?」

 「本当にご苦労だった」

 「少尉。貴官の任務は終了した」


 少尉?少尉……。俺の事……だろうな……。

 俺の階級はそんなに低かったんだ……。

 俺の左手は、自然と剣を離した。


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 次回 転戦 戦場の夜


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