◇41 戦後(アフター・ザ・ウォー)
【共和国・王国側森の出口】
「連隊長! 連隊長! おやめください! 既に師団から後退命令は出ています!」
「ここまで来て下がれというのか!」
「見ろ! ここは王国の領土だぞ!」
「このままおめおめと引き下がれるか!」
師団から増援としてやってきた大隊長達が連隊長を羽交い絞めにして引きずる。
あの男がまだそこにいる!
「離せ!」
この私と連隊を弄んだあの男が!
「私は連隊長だぞ!」
もう少しであの男の死に顔が見られたのだ!
「この連隊が負けた訳ではない! 負けたのはあの男だ!」
既に増援の2個大隊は陣を敷いて、騎兵に急襲されて後退する直轄の大隊の収容を始めている。
屹立していた砲は、積まれた弾薬と共に遺棄されていた。
「ここまで来たんだぞ!」
「ここまで来たんだぞ!!!」
「やめろー!!」
伸ばした手がどんどん王国から離れていく。
おぼろげに見えるあの男のシルエットも、後2歩も下がれば区別がつかなくなってしまう。
あの男を殺すのは私なのだ!
あの男は私のものだ!!
大隊長の一人が連隊長の腹部に拳をめり込ませる。
連隊長が嘔吐するとそのまま頭を垂れた。
「おい」
羽交い絞めにしている大隊長が咎めるような声を出す。
「仕方ないだろ。こうするしかないんだ」
もう一人の大隊長が手首を撫でながら返す。
「俺だってここで引くのは悔しいさ」
「しかしもう師団から命令は来た」
「ここで抗命すればどうなるかお前でもわかるだろ」
「そうだな」
羽交い絞めにしている連隊長を見ると、軍服のボタンは弾け、大きく膨らんだシャツがはみ出していた。
「衛生兵! 衛生兵! 連隊長を師団まで運べ」
大隊長の呼びかけに応じて、さっそく屈強な体をした衛生兵が担架を運んでくる。
そこに寝かされた連隊長の胸の上に、羽交い絞めにしていた大隊長は自分の軍服の上着を被せた。
顎で共和国の方向を示すと、衛生兵はまるで荷物を持っていないような速さで谷へ向けて駆けていった。
「連隊長にそこまでしなくていいだろう」
「俺達の大隊を磨り潰して負けた指揮官だぞ?」
「女だ。それに元帥の娘でもある」
「恩を売っておいて損はないだろ?」
「昨晩連隊本部を急襲された後、損害確認していて身元のわからない兵が一人いたのを知ってるだろ?」
「ああ」
「師団の伝令兵だったらどうする?」
「急襲に巻き込まれて殺されたか……」
「連隊長が殺したのなら、既に後退の命令は出されていたのに揉みつぶした事になる」
「……そんな事したら……しかし証明できない」
「元帥の敵には関係ないだろうよ」
「連隊長は間違いなく政治に巻き込まれる」
「運が悪ければ絞首刑か断頭台だ」
「お前の上着を通して、お前も巻き込まれるぞ」
「お前が連隊長に手を上げた事も兵に見られている」
「そうだな……」
「お互い無知な軍人のままでいた方がいいな」
「そうだな」
「なら、俺達はこの森を街道を後退し、谷を抜ける必要があるな」
「損害を最小限に抑えて」
「あの王国の指揮官の様に」
「嫌な役割だ」
大隊長二人が手庇をして顔にかかる陽光を遮り、王国領の平原を見る。
地平線に整然と行進する大部隊が見える。
もうあの殿の指揮官はどこにいるのかわからなかった。
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第一章 撤退支援戦闘 完
次回 第二章 戦勝記念式典 敵か味方か
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ここまで読んでくださった方。ブックマークをしてくださった方。評価をしてくださった方。感想を下さった方。ありがとうございました。
皆様のおかげで第一章完結まで持ってくる事が出来ました。
第一章は男臭くなってしまいました。
皆さまを糧に第二章以降も書いて参りたいと思います。
これからも宜しくお願いいたします。
雨露口 小梅




