◇40 戦闘終結(コンピレーション オブ バトル)
【王国・王国側森の出口】
【3日目 昼 固守残り半日】
肩と頭に衝撃を受けて、俺は濡れた地面に叩きつけられる。
実際はどこを斬られたかもわからない衝撃だった。
俺は記憶が戻らぬまま死ぬ。
力なく大地に横たわり、とどめを刺された時はどうなるのか、いつ意識を失うのかなどを考えていた。
横倒しになった地面には敵兵の軍靴が無数に映っている。
体は弛緩しているのに、剣を握った左手は強張っているためか、少しも指が動かない。
待っていた一撃はまだやってこない。
俺は痛む首を動かして、敵兵を見上げる。
頭部と太陽が重なって影になり表情が見えない。
敵兵の頭部が動くたびに、日の光が俺の目を射り眩しい。
もう少しだけ体を動かす。
敵兵は剣を構えたまま俺を見ていなかった。
急いで他の敵兵も見る。
俺を囲む他の敵兵も、俺を見ていなかった。
何が起きた?
まあいい。
まだ生きられる。
俺は渾身のチカラを籠めて片膝をついて、剣を杖にして起き上がる。
視界の隅に泥に顔を突っ込んだシュラーの背中が見える。
いや、シュラーは死んだ。
その証拠に地面に落ちた、面のようにシュラーの顔が太陽を見上げていた。
俺が立ち上がっても敵兵は俺を見ない。
他の敵兵は正面を向いたまま後ろ向きに後退を始めている。
あらかた味方は殺しつくされ、騎兵が出て来て殲滅戦に移行するのか?
間もなく俺を囲んだ敵兵も同じように後ずさり始める。
両足を踏ん張り、初めて持つような重さの剣を歯を食いしばりながら持ち上げる。
ようやく俺が剣を構えたところで、俺を囲む兵も俺に気づき俺に向かって剣を構えなおした。
「さぁ……」
ようやく揺れる剣先が止まったところで、風が俺の脇を駆け抜けた。
俺の左側で剣を構える敵兵の頭が割られる。
血しぶきが俺にかかり、目に染みる。
次から次へと風は俺の背後から前方へと駆け抜けていく。
その度に肉が散り、血煙が舞った。
そして俺を囲んでいた敵兵は、俺の正面にいる1人だけとなった。
その敵兵も剣を捨て、背中を見せて逃げだす。
しかし背中を槍に貫かれ、一瞬宙に浮いた敵兵は足をばたつかせた後、地面に落ちた。
思わず後ろを見る。
俺をかすめて次から次へと騎兵が駆け抜けていく。
「何が起きたんだ?」
しばらく呆然として駆け抜ける騎兵を見送る。
そして騎兵が去った後……。
平原をこちらに駆けてくる人の粒が見えた。
それは次第に子細がわかる位近づいてくる。
武器を手にしたうたうものだ。
「なぜ? 後退を命じた筈なのに……」
※
【王国・双子城平原】
【3日目 昼 固守残り半日】
--------馬が壊れてもいい。
とにかく駆けた。
地平線に立つ兵達が見える。
それは急速に大きくなり、詳細が見て取れる。
一人の男が複数の敵に囲まれながらも剣を持ち、立っていた。
「アクティム!」
生きていた!
私の息子は生きていた!
爆発的な歓喜が身を包む。
しかし息子は敵に囲まれ、今にも殺される寸前だった。
「もっと駆けろ! もっと早く!」
跨る巨大な生物は主人の思いに応えるように、草原を抉り、更に速度を上げる。
サーベルを抜く。肩に構える
「間に合え!」
指揮官としての立場もない。
息子を守るんだ!
「我に続け!」
サーベルを突き出し、突撃の合図を下した。
近衛軍第1騎兵大隊が大地を駆ける巨大な質量と共に戦場に加わった。
部下の突撃を確認し、そして息子の横を駆け抜ける時サーベルを振り下ろした。
※
【王国・王国側森の出口】
【3日目 昼 固守残り半日】
「味方……なのか?」
「増援が……救援が来たの……か?」
膝のチカラが抜けてよろめく。
草原の向こうには陽光を反射する鎧の軍団。
そして屹立する王国軍の旗をはためかせてこちらの向かって前進していた。
倒れそうになる俺を誰かが両脇から支えた。
誰だ?
見ると俺を支えていたのはイルチとレディ=マホだった。
見るとヌワ、ウイチ、ア・レが周りを警戒している。
「安心してください。助けにきました」
落ちそうになる頭を何とか保持してレディ=マホに告げる。
うたうものも泣くのか?
目が濡れている様に見えた。
レディ=マホを押しのけようとする。
「だめだ。早く後退しろ」
「ご主人様が後ろ盾になって下さらねば、私たちは奴隷に戻ってしまいます」
「前にも申し上げました」
イルチも目が濡れている様に見えた。
「なるほど。そうだったな」
イルチとレディ=マホの助けを借りて立ち直す。
頭を巡らせると、駆け寄ってくるリンヴェッカーが見える。
俺はイルチとレディ=マホから体を離すと、リンヴェッカーえ向かって歩いた。
「ご主人様」
「近衛が救援に来ました。今の内に後退しましょう」
「うたうものには戦死者を運んで貰いましょう」
「…………」
俺はこの男を前にして、どういうべきか少しの間考えた。
そしてリンヴェッカーに先を越される。
「祖父は……」
「祖父は最後までご主人様の護衛騎士でしたか?」
目に涙が浮かびそうになる。
「ああ……。ああ……」
「護衛騎士として死んだ」
「ならば本望であり名誉を心に抱いて死んだ事でしょう」
「ご主人様。中隊にご命令を」
そこに蹄の音を響かせながら一頭と一人の騎兵が近寄ってきた。
軽やかな身のこなしで馬を降りると俺に向かって頭を下げる。
「近衛軍第1騎兵大隊副長 アペン・ウプレンゲナー騎兵大尉」
「ノイシェーハウ軍バシュリンガー隊 アクティム・ヴァシュリンガー様とお見受けします」
俺は軽く手を上げる。
まだ剣を握った左手が動かない。
「メットナウ軍が双子城を出て陣を張りました」
「更にはヴァシュリンガー様の叔父上であらせられれるビルゲン大将率いるノイシェーハウ軍がこの陣に向かって前進を始めました」
「そうか……それは良かった」
「本当によかった……」
「しかしマリーエンロッゲン王国軍総帥が命令した期日まで後半日あるようだが?」
俺が素直に疑問を呈すると、ウプレンゲナー騎兵大尉はいたずらな笑みを浮かべた。
「近衛軍第1騎兵大隊が演習中、孤立する味方を発見、演習を中断、戦闘に巻き込まれました」
「双子城から眺めていたメットナウ軍とノイシェーハウ軍は近衛軍が戦闘に巻き込まれるのを見て、近衛軍の救援の為に出動……」
「と言ったところでしょうか」
「都合のいい解釈だ」
「だがしかし救われた。ありがとう」
俺は素直に礼を述べる。
「感謝でしたら、大隊長にお願いいたします」
「ヴァシュリンガー様の母上、プレンツェン・バイ・パッサイル大佐は先頭に立って戦っておられます」
「ヴァシュリンガー様の左手にいた敵兵を倒したのはお母様でらっしゃいます」
俺の……母おや?
森の街道を見るが、その母親の姿はどこにも見えなかった。
そして敵の姿も消えていた。
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次回 第一章完結 戦後
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≪旧:〈フォア・ブライド〉 ─異世界における6人の母達─≫
突然ですが、改題いたしました。
以降新タイトルでお付き合い下さい。
雨露口 小梅




