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異世界に来たけど義母が5人もいた上に結構ハードモードだった。  作者: 雨露口 小梅
第一章 撤退支援戦闘(ウィズドロワル・サポート・バトル)
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◇38 3日目 殺したい人(コイ)

 【王国・王国側森の出口】

 【3日目 昼 固守残り半日】


 質量を失った青銅の球が湿った大地をえぐり、泥と土砂を巻き上げる。

 塹壕の中に頭を下げると水分が蒸発して焦げ臭くなった砂礫が落ちてくる。

 この砲撃は俺が絞殺そうとした女が指揮しているのか?


 砲撃を受ける距離では、指揮官が辛うじて見えるか見えないかだろうが、それでも興味が勝って、そろそろと頭を塹壕の外に出してみる。


 「ご主人様マイロード! ここに来て死ぬ気ですか!?」


 鎧の襟を掴まれて引き倒される。


 仰向けに倒れた俺の体の上に容赦なく砂礫が落ちてくる。

 たちまちの内に口の中も砂利で乾いてたまらず体を起こそうとすると、天から降ってきあ矢が俺の頬のすぐ横に突き刺さった。


 砲撃と合わせて矢も射られている。

 時折塹壕の淵が削られるのを見ると弩弓ボウガンも混じっているのか……。

 俺は危うく好奇心に殺されるところだった。


 塹壕の中ではシュラーも兵に混じって耳を押さえて大声を上げていた。

 俺も砲撃音と地に突き刺さる青銅の振動で、絶えず揺れる大地に酔い始めて胸がムカムカしていた。


 俺達はどうして戦う?

 もう何度もしつこいくらい自問した。


 死にたくないから……。俺はそう。

 しかし部下は違う。

 名誉。義務。命令。

 俺とはどこか違うルールで戦っている。

 兵も、シュラーのような古強者も限界に来ている。


 敵は後半日を残して異常な数の武器を投入していた。

 森の街道は完全に敵の支配下に入って、展開の余裕が出たせいだろう。

 平原に出られたら、俺達になすすべもない。

 平原に出る為には通らなければならないこの塹壕が、文字通り俺達の最後の砦だ。

 敵はここの突破にすべての武器を使用するつもりの様だった。


 「俺達の後ろには双子城とビルゲンの王国軍がいる」

 「それすら眼中になく、必ず俺達を殺すという決意か……」





 【共和国・王国側森の出口】



 砲兵の中で指揮を執る私の前には、損害が回復出来ていない弩弓兵が展開している。

 砲兵の後ろには弓兵が展開して、休むことなく矢を放ち続けていた。

 大砲はまだ弓より射程が短い。

 実践では使い勝手が悪い事この上ないが、圧倒的な砲撃音だけは他の兵器にないものがある。

 弩弓を除けば、狙いを定めるというよりかは威嚇と頭を下げさせて、味方の部隊展開の手助けするに過ぎない。

 だが、今回はそれでいい。


 私の後ろには師団から増援としてやってきた2個大隊が復讐の時を待っている。

 私が命令を下せば、実質1個中隊など皆殺しに出来る。

 彼らは昨日の報復をする為に、蛮性に支配されている。


 近くの砲が咆哮を上げるたびに軍服は空気圧に叩かれはためく。

 乱れた金色の髪が、暴力的な風にあおられる。


 既に私の連隊は、幕僚を要する首脳陣を始め兵まで深刻なダメージを受けた。

 増強された大隊はあるにしても、痛撃を与えられず損耗する事で、戦意が著しく落ちている。

 今は一時的に興奮状態にあるが、敵を皆殺しにしてもその後方にはまだ装備も休養も十分な部隊が控えている。それらを相手にした時は間違いなく負けるだろう。


 また一つ目の前の方が青銅の弾を吐き出した。

 一時的に視界が砲煙で隠される。

 そして風が吹いて、塹壕線が煙の切れ間に見える。


 間もなく後退命令が師団より出されて、私は軍事裁判か革命裁判にかけられるだろう。

 軍事裁判で処刑される事はないだろうが、この戦で唯一の引き分けか負けを喫した部隊の指揮官だ。革命裁判では間違いなく人民の前での絞首刑だろう。


 死など厭わない。あの男さえ殺せれば。

 血と汗と泥と体臭にまみれた獣のような、野生の臭いをさせた男。

 騎士どころか兵にすらなれそうにない、軟な体。

 私を女だと悟った瞬間に、恐れを抱く弱い意思。

 戦時であれば強姦され殺されるのが常だというのに、あの男はまるで戦場にいないような理性を見せた。

 あの男を殺すまで私は死ねない。

 死ぬのならあの男の卑怯な手にかかって、罵りながら死にたい。


 もう後退命令を伝える師団からの伝令兵は既に来た。

 私は連隊司令部が急襲された混乱に乗じて殺した。

 そして命令を聞かなかった事にした。

 疑いを抱かず私にナイフで刺された時のあの目。

 あの驚愕の目を見ても私の気持ちは晴れなかった。

 私の首に手をかけたあの男の顔ではなかったからだ。


 この私に屈辱の炎を吹き付けた悪魔の男。

 なんとしてもあの男だけは私の手で殺したい。

 あの男が息絶え、死体となった姿を見てみたい。

 そう考えると胸の奥がギュッと締り、体の芯が震えた。





 【王国・王国側森の出口】

 【3日目 昼 固守残り半日】



 不思議な事に俺はこの砲撃が永遠に終わらないように祈っていた。

 敵は砲弾と矢、ボルトを横殴りの雨のように降らせる。俺達は塹壕に潜む。

 それで半日が終わればいい。


 しかし間接攻撃の終わりはやってきた。

 砲撃音が聞こえなくなった頃には、全ての攻撃が終わり静寂が戦場を支配する。

 俺もシュラーも損害の確認はしなかった。

 今損害を数えても意味がない。

 何故ならばこれからだからだ。


 俺は塹壕から顔を出して敵を確認する。

 俺と敵との間にある地面は矢羽の草原が出来ていた。


 「この矢の回収は大変だろうな」


 前方に布陣する青と白の軍服が動き出した。


 そして敵の突撃が始まる。


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 次回 3日目 決着


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