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異世界に来たけど義母が5人もいた上に結構ハードモードだった。  作者: 雨露口 小梅
第一章 撤退支援戦闘(ウィズドロワル・サポート・バトル)
40/212

◇37 3日目 動き(モーション)

 【王国・王国側森の出口】

 【3日目 朝 固守残り1日】


 砲術長の両手を切り落とした後、前線に戻って敵の攻撃を待った俺達だが、一向に敵の先鋒は見えなかった。

 日は既に昇りきり、あの雨が嘘のように空は晴れ渡っていた。

 地面はぬかるんでいるが、体が乾きはじめて、久々に肌に張りが出てくる。


 乾いた泥と血がパリパリと剥がれ落ちてくる。

 代わりに脂が更にべとついてくるのは少したまらなかった。

 それに、俺を含めて何日も風呂に入っていない男たちのすえた匂いが鼻につき始める。


 それでも、太陽の温かさは冷え切った体の芯まで温めて、どこにあるのかわからない生命力を沸き上がらせていた。


 「ご主人様マイロード。偵察を出しますか?」

 「森を抜けて我々の後背を突くかもしれません」


 シュラーが心配そうに塹壕の外を見つめる。


 「シュラー。どうせ後半日ここで持ちこたえるだけだ」

 「それが正面から来ようが、側面から来ようが今の俺達には大した違いはないだろ?」

 「だったら、たんまりと兵を休ませてやろうじゃないか」


 「確かにそうですな」


 シュラーが破顔する。


 「イルチにはたんまりと食事を採らせたか?」


 「ハハハハハハ!」


 シュラーが大笑いを始め、周りの兵の注目が集まる。


 「それはもう、ご主人様マイロードの言いつけですからね」

 「本人は遠慮しても食べて貰わなければなりません」


 「俺の命令が圧力になったか」


 俺も笑う。


 「そしたらもう驚くほど食べました。あの小さな体のどこに入るのか」


 シュラーが堪えきれない含み笑いを漏らす。


 「最後には動けなくなりまして、目を回して倒れました」


 思わず俺も笑い弾けてしまった。

 シュラーも堪えきれなくなり、笑い出した。

 塹壕の中で笑い転げる指揮官と護衛隊ガーズを見て、部隊の兵も笑い出し、それは次々と伝染していった。

 恐らく最後には前線にいる200名が全員笑ったのではないだろうか。


 この今日という日を乗り切れればみんな生き残れる。

 これ以上兵が死ぬこともない。


 「あの歌うもの(シンガー)の娘の笑顔をこれからも見たいものですな」

 「孫はまだいませんが、あの子のような笑顔をするんでしょうな」


 シュラーが遠い目をする。


 「俺がリンヴェッカーを娶るわけにはいかないぞ?」


 「それはそうですな」


 再びシュラーが笑う。

 俺の願いがこの天に。この太陽に届きますように。

 そして俺の願いは破られた。





 【王国・王国側森の出口】

 【3日目 昼 固守残り半日】


 昼に敵はやって来た。

 森に囲まれた街道の奥に敵の波が見える。


 「来ましたな」


 シュラーが顔を出して敵を確認する。

 既に前方に出した監視所の兵は、敵の情報を持って帰って来ていたから、今更という感もないが、やはり俺も直接敵をみてみたかった。


 「砲を曳いているからか。進みが遅いな」

 「後退を始めよう」


 シュラーが伝令にあらかじめ決められていた命令を出す。


 コルネスティが率いていた負傷兵の指揮をジアルマタとソチェニに任せていた。

 ジアルマタはコルネスティと違って王国軍総帥であるマリーエンロッゲンの元に戻る事を選択していた。

 そしてソチェニはそのマリーエンロッゲンの命令によって、俺に保護されていた。

 無事に帰さなければならない。

 何よりソチェニは俺の監視という任務も受けていた。

 ソチェニが俺達の生き証人になって貰わなければならない。

 兵達が生きた証を伝える為に。


 負傷兵は戦死者を荷台に乗せて進発を始める筈だ。

 そしてそれに協力する歌うもの(シンガー)達も後退を始める。

 歌うもの(シンガー)を率いているのは、やはりマリーエンロッゲンの部下のモニオムだ。


 3人ともノイシェーハウ家のものではない。

 モニオムに至っては、そもそもマリーエンロッゲンの命令で 歌うもの(シンガー)を性奴隷として引き渡す為に動いているところを俺に捕まった。


 いや、この3日間を過ごした3人は信用できる。

 しかし素直にマリーエンロッゲンの元へ行かせれば、ノイシェーハウの兵達と、俺を信用して武器を下ろした 歌うもの(シンガー)は確実に悪い扱いになる。


 わずかな救いは会社カンパニーの連中も一緒に後退する事だった。

 会社カンパニーはノイシェーハウ家の者だ。

 運が良ければ、俺の叔父であるビルゲンに一緒に保護されるかもしれない。

 後は確実なのは、前線に残った俺達の誰かが生き残り、命令完遂を持って部隊として帰還するだけだった。


 だが、その生き残りが一番難しい。


 「ご主人様マイロード


 「なんだ?」


 シュラーが前方を見つめたまま語り掛けてくる。


 「ご主人様マイロードには記憶がなくとも母上がおられます」

 「何があっても、どんな事があっても大丈夫です」

 「母上を頼ってください」


 「俺の母親か……」

 「しかしシュラー。そういう最後みたいな言葉は嫌だな」


 前方で共和国の兵が展開を始める。

 火炎が無数にきらめき、遅れて砲撃音が聞こえてきた。

 敵の攻撃が始まった。


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 次回 3日目 殺したい人


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