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異世界に来たけど義母が5人もいた上に結構ハードモードだった。  作者: 雨露口 小梅
第一章 撤退支援戦闘(ウィズドロワル・サポート・バトル)
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◇36 3日目 静けさ(トランクィリティ)

 【王国・王国側森の出口】

 【3日目 朝 固守残り1日】


 前線を見回った俺は、あのリンヴェッカーが動員せざるを得なくなった負傷兵のいる陣へ足を向けた。

 ソチェニが駆け寄ってくる。


 「それより傷はもういいのか?」


 「痛いに決まってるではないか」


 あれだけ輝いていたソチェニの鎧も、無数の細かい傷と汚れで輝きを失っていた。


 「どうする。お前はもう十分役割を果たした」

 「ここで本国に戻ってもいいんだぞ」


 ソチェニが俺に振り向く。


 「お前は本当に嫌な奴だな」


 俺の胸を拳で押して続けた。


 「俺をこの絶望的な後衛戦闘に巻き込んだかと思うと、森の中に俺を置いていって使い倒した挙句にこの中隊から出ていけだと?」

 「俺を信じて森の中で戦った兵になんて言うんだ?」

 「このソチェニが最後の戦いを前に、去りながら良く戦えよ。とでも?」


 ソチェニが俺に顔を寄せる。


 「あまり俺を舐めるなよ」


 「あの谷の中から舐めてなんかいないさ」


 俺は苦笑した。

 ソチェニが俺の胸を叩く。


 「それだ」

 「お前は恵まれている。それは間違いない」

 「しかしその人の気持ちが理解できない性根は、いずれお前だけではなく、関わるもの皆を滅ぼすぞ」


 俺はソチェニの手を取る。


 「忠告感謝する。しかし役立て方がわからない」

 「俺はどうしたらいい? これからも忠告してくれるか?」


 ソチェニがため息をつく。


 「それはプレブ家とノイシェーハウ家の同盟の申し出という事で良いのか?」


 「そういう事に……なるのか……」


 ソチェニが笑うと俺の肩を叩く。


 「生き残ればな」


 「そうか……。だがお前がどうであろうと、次敵が来たら後退してもらう」

 「お前を保護するためだ」


 「やっぱり前は嫌な奴だ」


 後方が近づくと、コルネスティが率いる傷病部隊の苦悶の声が聞こえてきた。


 「それに嫌な声だ」


 ソチェニが心底嫌そうな顔をする。


 「これが戦争の声だ」

 「声を出しているのは勇者で、聞いている俺たちは臆病者だ」

 「いくぞ」


 「急に中隊長の顔になりやがって……」

 「それと、お前と俺を一緒にするな」


 ソチェニが毒づく。

 これが戦争の声。俺が率いた1400名の結果だ。

 正直見たくもない。

 しかし見なければならないだろう。

 無数の伏せている負傷者の中で聞いた事のある声を聞いた。


 「俺の手に触るんじゃねぇ! 肉屋は他の奴らの腕を斬ってりゃいいんだよ」


 声の主は掌砲長だった。

 焼けた大砲に手をかけて火傷を負っていた筈だ。

 あれほどの火傷では、無傷でいる筈がない。


 「どうした?」


 血に濡れた灰色の布を頭に垂らした兵と砲術長、そして掌砲長がいた。


 砲術長が右手を額に当てる。

 俺は片手をあげてそれに答えた。


 「砲術長」


 兵の姿をし、フードを被って手にのこぎりを持つ者も直立する。


 「ご苦労様です」


 押さえつけられていた掌砲長が半身を起こす。

 その両手はもう人の手とは思えぬ、爛れた枯れ木のようになっていた。


 「若旦那も言ってやってくだせぇ」

 「こいつら俺のこの両手を斬るってんだ」

 「俺の手がなくなっちまったら、俺の女(艦砲)たちの面倒見れなくなっちまうじゃなぇか」

 「若旦那、命令してやって下せぇ。俺のこの両手が必要だって」


 その両腕を振るたびに分泌液が周りに飛ぶ。

 その液はすでに腐敗臭がしていた。


 「若旦那ぁ。お願いしやすよ。命令して下せぇ」

 「両手の無いもんが、これからどうやって生きてきゃいいんですか?」


 赤ら顔の掌砲長が、恥も外聞もなく、泣き顔で懇願してくる。


 「他に方法はないのか?」


 フードを被る兵に聞く。


 「ありません。早くその腐った両手を切り落とさないと、毒が全身に回って死にます」

 「あるだろうよぉ。ほら。俺の胸ポケットから取り出してくれ」

 「金の時計だ。ほら。これなら金になるだろ。これで治るだろうよぉ」


 砲術長とフードを被った兵を呼び寄せる。


 「もう一度聞く。俺がどうにかしようとしても、他に方法はないのか?」


 フードを被った兵がため息をつく。


 「傷を負った兵は、切り落とす以外に手はありません」


 「医者なのに他に手立てはないのか?」


 無数の血に濡れた兵が笑う。


 「私が医者ですか? 中隊長殿やめてください。私はただの肉切屋ですよ」

 「敵と戦う代わりに、仲間の手足を斬り落とすように命じられただけですよ」


 砲術長が重ねる。


 「仮に医者がいても、あの金時計1つじゃ元手は足りませんわ」

 「それに怪しげな薬を飲まされて、怪しげな手術を受けて死ぬのがオチです」

 「切り落として我慢する。これが一番なんですわ」


 「自費で医療を受けるのか?」


 「そりゃそうですよ。自分の体ですから」


 あの屈強な掌砲長ですら悲鳴を上げている現実。

 耳を塞いでいても、脳の奥まで届いてくる生々しい悲鳴。

 夢だと思いたいがこれはどう見ても現実だった。

 夢の中が夢で、今のたうち回っている掌砲長が現実。

 だとしたら、夢の中のあの世界は何なのだろう。

 俺の妄想?

 妄想にしては世界が良くでいていてる。


 「貴族の手足も切り落とすのか?」


 掌砲長が嫌味な目を俺とソチェニに向ける。


 「貴族には魔法医がついていますからね。苦しみもなく回復します」


 なるほどな……。

 俺は貴族で仲間じゃないという事だな。

 いや、指揮官であって兵じゃないという事かな。


 「その魔法医は」


 「いませんよ」


 「だろうな」


 ソチェニが空を見上げて語る。


 「街であれば、死にゆくものは教会で慈悲がもらえる」

 「それは貴族も平民も変わらない」


 「今はこうするしかない訳か」


 俺とソチェニと砲術長は掌砲長を抑えにかかった。

 肉切屋が無理やり掌砲長に大量の酒を呑ませる。

 朦朧とした掌砲長はのこぎりで切り落とされる痛みにも身じろぎせず、俺は俺の腕に伝わってくるのこぎりの振動を感じていた。


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 次回 3日目 動き


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