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異世界に来たけど義母が5人もいた上に結構ハードモードだった。  作者: 雨露口 小梅
第一章 撤退支援戦闘(ウィズドロワル・サポート・バトル)
38/212

◇35 3日目 銃(ガン)

 【王国・王国側森の出口】

 【3日目 朝 固守残り1日】


 夜のうちに雨は上がった。

 これほど兵達が休めたのは、いつ以来なのだろうか。

 雨の中ぐっすり眠りこんで、晴れ晴れとした顔で俺に挨拶してくる。

 兵たちはまだ闇の支配する中で食事をとる。


 俺は夜の間中、抵抗線である陣地を見て回った。

 雷の様に折れた堀を兼ねた塹壕と障害物。

 これだけでも敵の進撃速度は弱まる。

 こちらの対処の時間が生まれる。

 リンヴェッカーは俺が感じた通り有能だった。

 俺が口を出す事はない。

 今日はこの抵抗線で精いっぱい防ぐだけだ。


 俺の指揮所は3重に掘られた塹壕のうち、最後の塹壕の中心に添える。

 後ろは負傷兵。

 そしてその後ろは戦死者の遺体と|歌うもの≪シンガー≫だけになる。


 日が上がれば敵は動き出す。

 俺は敵の指揮官が投げつけた筒を手でもてあそびながら、3重の壕の最前部の兵達の周りを出来るだけまわった。


 ヴェークが壕を飛びだして駆け寄ってくる。


 「おはよう。ヴェーク。休めたか?」


 「ご主人様マイロード。視察をされるのでしたら、伝令を出してくださればお迎えしましたのですが」


 詫びてくるヴェークを手で制する。


 「たかだか中隊なんだろ。そんな格式ばらなくてもいいんじゃないか?」


 「失礼ですが、ご主人様マイロードは貴族です。我々下々のものに気軽に接すると、後々禍根が残ります」


 「はは」

 「それも生きていればだろ。俺は生きている間にみんなにお礼をしたい」

 「ま、死ぬ気もさらさらないんだけどな」


 ヴェークが幾分髪の毛が生えて来ているスキンヘッドを撫でまわす。


 「まいりましたね」

 「ところでご主人様マイロード。手に持たれているのは銃ではありませんか?」

 「ご主人様マイロードの持ち物ですか?」


 「ん? ああ。これか」

 「銃……というのか」


 どこかで聞き覚えがある。


 「敵の司令官と白兵になった時、投げつけられた」


 俺は昨夜を思い出しながら、何故だか笑えた。


 「これがなんだかわからなくてな」

 「きちんと敵の司令部を急襲したぞっていう証拠だ」

 「ヴェークにはこれが何かわかるのか?」


 ヴェークが傷痕の残る凄みのある顔の中で目を大きく見開いている。

 俺はそれを察して、銃をヴェークに差し出す。


 「いいのですか?」


 「俺は何も知らない。だからただのモノだ。武器なのか?」


 ヴェークが両手で銃を受け取ると、薄闇のせいもあるだろうが、しげしげと眺める。


 「これは、見事な作りですね」

 「固い樫の木で鉄の銃身を包んでいます。銃身は軟鉄じゃなくて鋼鉄ですね」

 「相手の指揮官は随分な金持ちか、家柄が良いのでしょう」

 「鋼鉄材に穴をあけたり、筒に折り曲げたりするのは金がかかりますからね」

 「その上、真珠木の象嵌がはめ込まれています」

 「これは海人シーマンが宝としているものです」

 「宝石こそ埋め込まれていませんが、真珠木だけでとんでもない価値があります」


 惚れ惚れしながら、渡した銃を眺めるヴェーク。

 金になりそうなものである事はわかった。

 それにあの指揮官の女は金持ちか、政治的に重要なあるいは貴重な立場にいるという事だろう。

 そういう立場を持ちながら、あんな美人だというのは、人生は不公平だと感じる。


 「それで、これは武器なのか?」

 「俺に向けた後、その銃の先から火炎が上がったが、俺には届かなかった」


 「な……」


 ヴェークが俺を見て固まる。


 「それは……、なんというか……幸運でしたね」


 俺はなんの事かわからず、ヴェークを見る。


 「ご主人様マイロード。腰につけている革袋も、急襲の時手に入れたものですか?」


 「ああ」


 俺はあの女指揮官の机にあった革袋をヴェークに手渡す。

 ヴェークはそれを受け取ると、銃の筒の下から棒を引き抜く。

 いつの間にか俺とヴェークの周りには、塹壕の前部に潜む兵達の囲みが出来た。

 みんな興味津々だ。俺は思わず苦笑する。


 「これはこの筒からこの火薬を使って、銅の球を打ち出す武器です」


 革袋の中から匙で黒い粉を救い出すと、筒の中に注ぎ込む。

 そしてヴェークが革袋の中から小指の先に乗りそうな球を取り出す。

 それを筒の先に入れると、筒のしたから取り外した棒を筒の中に押し込んで突き固めている。

 更に黒い粉を筒の元の部分にある更に乗せると、鈎爪のようなものを引き上げた。


 「これで準備完了です」

 「ちょっと離れてください」


 ヴェークに言われるまま、俺達は2,3歩下がる。

 ヴェークは塹壕の前面に打たれている柵に向けて、銃を差し出す。

 差し出した右腕と一直線になるように体を傾ける。

 その時、轟音とともに筒から火炎が噴出した。


 俺も含めて、みなみているだけだった。


 塹壕の第2線で警戒の声があがる。

 俺はすぐに大丈夫だと声をかけた。

 ヴェークは右腕を肘から曲げ、銃を空に向けていた。

 俺の想像が正しければ……。


 「ご覧のとおりです。ご主人様マイロード


 銃を向けられた柵に変化はない。

 いや、近づいてみると丸い穴が開いていた。


 「銅の弾丸が人を襲います」


 「俺はその武器で狙われたのか……」

 「お前が絶句した理由がわかったよ。俺は幸運だった」


 心の底から当たらなくて良かったと思う。


 「ヴェーク、教えてほしいんだが、この銃という武器があるのは常識なのか?」


 ヴェークが銃と革袋を俺に返しながら言う。


 「いえ、共和国の前身である帝国貴族が決闘の時に使ったと、聞きました」

 「銃は宝飾品として王国にも流れてきていますので、個人的に何度か見た事があった位です」

 「実際に撃ったのは初めてで、自分も少し興奮しております」


 「そうか」


 俺は手元に戻った銃を眺める。


 「しかし随分手間のかかる武器だな」


 「そうですね。戦場では実際役には立たないでしょう」

 「まず使うのに時間がかかりますし、飛距離も命中率も弓や弩弓ボウガンに劣ります」

 「ご覧の様にこの黒い粉、火薬が雨に濡れては役に立ちません」

 「まさに、貴族の玩具ではありますが、武器として不思議な魅力があります」


 本当に戦場では無用の長物だと思いながら、改めて銃を見る。


 「会社カンパニーの使う大砲を小さくしたような武器だな」

 「一人でも扱えるし……」

 「これを並べて使ったら、最初の一撃でも結構な損害を与えられそうだな」

 「どこでも持っていける大砲か……」


 「ご主人様マイロード……」


 ヴェークが大きく目を見開いていた。


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 次回 3日目 静けさ


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ご感想ありがとうございました。初めて頂いたご感想、大切に胸にしまっておきます。これを励みに続けてまいりたいと思います。

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