◇34 3日目 ここではないどこか(ヒァ・サムウェア・ノット)
【王国・王国側森の出口】
【3日目 夜 固守残り1日】
リンヴェッカー率いるシュール・ジアルマタ・ヴェークの隊は良く連携して、敵を撃退していた。
弩級部隊に深刻な損害を出した共和国軍は、俺達と同じく自らの肉体だけで戦うしかなかった。
一向に止まない雨の中、騎馬や弓は次第に使い物にならなくなってきている。
街道の両側の森に部隊を埋伏させ、街道上に防御専門の部隊、その後ろの部隊を工兵として、塹壕の掘削・障害物の設置と準備を進めた。
最も目立つ街道上の部隊を指揮したのは、もちろんリンヴェッカーだった。
俺が2回共和国軍を撃退した後、波状攻撃は少しも緩むことがなかったそうだが、伏兵を森に配置して、野生動物の被害を恐れないリンヴェッカーの覚悟勝ちだった。
1個連隊4000の攻撃を凌ぎ切った損害は大きく、一時期1400名まで膨らんだ増強中隊も戦える兵は200名にまで減っていた。
リンヴェッカーは助かったとはいったが、負傷兵まで出して耐えていた。
もう1個中隊の数も揃わない。
最初に谷の前の丘に陣取った数さえも下回っていた。
俺があの丘で目覚めた時、増強中隊で600と説明を受けたから、元の中隊は300程度の戦力だったのだろう。
とすると、本当に最初にもどった訳だ。
そしてソチェニの話はわずか45名の戦える兵で、300を超える死傷者を守り切った。
幸いな事に、敵の捜索部隊は多くても20名程度の集団での襲撃だったから、撃退する事が出来た。
しかし捜索部隊は間をあけずに襲撃を繰り返し、最終的に無傷のものがなく、みな疲れ切っていた。
間断のない襲撃のなか、300の死傷者の後送の指揮と戦闘の指揮を執り続けたソチェニ。
森の中に居座り続け、日が暮れてから脱出したそうだ。
「それで、ご主人様の成果は」
「失敗した」
「谷の出口に陣取っていたのは、敵の司令部だった」
「攻撃を仕掛けて混乱に落とす事は出来たが、敵の指揮官を殺す事は出来なかった」
俺は自分の拳を握りしめる。
「ま、相手がある事だ。いつも成功するとは限らない」
「時間稼ぎの為の襲撃だ。攻撃そのものを中断させようというのは虫が良すぎる」
ソチェニが俺の背中を叩く。
「慰めてくれるのか?」
「幾らでも慰めてやる。まずはお前が生きて帰ってきた方が重要だ」
「これから日が昇れば、お前が必要になる」
「生き残るために」
「生き残るためか……」
「ご主人様。少なくとも私は希望を捨てていません」
「兵が休めているという事は、時間稼ぎという目的は達成したという事です」
リンヴェッカーの慰めは気休めだという事はすぐわかる。
時間稼ぎは3日に対してで、兵を休めるためではない。
それでも、やさしさと叱咤を感じて感謝を述べる。
「ありがとう」
「なら俺達も少し休むとしよう」
雨は次第に細かくなってきた。
この調子だと時期に雨が上がるかもしれない。
時間稼ぎは成功か……。
一体どれだけの時間が稼げたというのだ。
※
近くの倒された丸太に背を預けて座る。
雨に打たれ続け、ふやけた肌に着続けた鎧がこすれて、体中擦り傷が出来ている。
体を休めるとかすり傷が痛み始める。
足の感覚がない。やはりふやけて破れているのか。
靴の甲についている金属製のプレートをほどいて、靴紐をほどく。
一気に足に血流が巡りはじめ、激痛に襲われる。
脱ごうとしても足がパンパンに膨らんで、直ぐには脱げない。
脱ぐのをあきらめて、靴紐をほどいたまま、足を投げ出す。
「はぁー」
この世界で目覚めてからほとんど寝ていない。
戦闘に次ぐ戦闘。行動しっぱなしだった。
部隊の責任者・指揮官というのは実際考える事が多すぎて、寝る時間もない。
この世界と自分に違和感を持ったまま、ここまで流されてきた。
それでも微睡の中で見る夢。
過労と睡眠不足の今、こうして目を開けていても頭の中で夢を見る。
ここではないどこかの場所。
同じ青空でも、土の大地はなく。塗り固められた道を歩く軽装の人々。
箱の中に映し出される異世界。
それで遊ぶ子供たち。
平和な家庭。
ひょっとしたらそこが俺の世界なのかもしれない。
しかしこの世界の人間は、最初から俺を知っている。
俺の歴史はここにあるのは間違いない。
異世界に来たという事はないか?
もしくは、この世界の人間と夢の世界の人間が混ぜ合わさって、俺が出来ているのではないか?
思い出せないが、この世界に感じるこの強烈な違和感。
指揮官で部下がいて、貴族の人間だと?
高官にもすぐ会える。
しかし油断すれば死んでしまう。
俺の体力はそこらへんの兵士と変わりそうにない。
立場だけで俺は生き永らえている。
考えろ。後1日生き永らえる方法を考えろ。
今、俺は殺されかかっている。
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次回 3日目 銃
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