◇33 3日目 3日目(ラストデイ)
【王国・王国側谷の出口】
【3日目 夜 固守残り1日】
襲撃は失敗した。
俺のせいで皆の犠牲が無駄になった。
敵の指揮官を殺せなかった。
敵の司令部を襲撃する事は出来た。
しかしあれでは、明日の攻撃を止める事は出来ないだろう。
雨が降り続き、全てが闇の中に溶けている。
足取りは重いが出来るだけ可能な速さで街道と森の境目を駆け抜ける。
闇と雨。「|うたうもの≪シンガー≫」のウイチがいなければ出来ない芸当だった。
シュラーは無事だった。
奇跡的な事に死んだ兵はいなかったが、ほぼ全ての兵は負傷していた。
それは俺も含めて明日死ぬという事だった。
明日死なずに生き残る方法……俺は指揮官としてそれを考えなければならない。
しかし今現在、敵陣の奥深くに侵入している俺達19名は、自陣であるリンヴェッカーの元まで戻らなければならない。
司令部を襲われた敵軍は確かにまだ混乱している。
救援に向かう部隊が谷へ向かい、森の街道を騎馬の伝令が駆けまわる。
その度に街道から森へと姿を隠し、野生動物と出会う危険を冒して、森の中を進む。
ウイチと猟師の様に、野生動物を察知できる人間がいる。
どういう違いがあるのかわからないが、今は全面的に頼るしかない。
俺の前を行くウイチが、再び森の中に入って行く。
俺も無言でそれに従い森に入って行く。
俺の行動を受けて全員が森に入る。
前方にかがり火が薄く見える。
敵が集結しているのだ。
「お腹へったな……」
俺の後ろを歩くイルチがこぼす。
「すまない。陣に戻ったら食事にしよう」
俺は僅かに振り向いてイルチに詫びる。
「あ、いえ。すみません。大丈夫です」
闇に溶けて表情まで見えないが、独り言を聞かれて困っているようだった。
「帰ったらたらふく食べていいぞ」
「もう! やめてください」
俺の先を行くウイチがクスクス笑う。
普通語が話せなくても雰囲気は察している訳か。
俺も軽く笑みが出る。
「でも、ご主人様がご無事でよかったです」
俺はその言葉を聞こえないふりで流した。
じっと自分の手を握ったり開いたりする。
手に残る柔らかさ。
突然自分に嫌悪感が走る。
女の首を絞めて殺そうとした。
戦場で男も女もないが、なぜか嫌だった。
俺達がリンヴェッカー達に合流できたのは、真夜中も過ぎた頃だった。
※
【王国・王国側森の出口】
【3日目 夜 固守残り1日】
「助かりました」
俺達が森から出てくると、兵に案内されてリンヴェッカーが迎えに来る。
俺は森から率いた部隊に小休止を命じる。
俺が不思議そうに顔を見ていると、リンヴェッカーが説明を始めた。
「昨日の昼はなんとか持ちこたえましたが、夜襲を食らえばもう保たないだろうと思っていました」
「それが、昨晩の夜半過ぎから威力偵察もぱたりと止んで、兵を休ませる事が出来ました」
「大方の戦死者も回収できましたし、ソチェニ様が守っていた負傷兵もギリギリ収容する事が出来ました」
リンヴェッカーが本気でそう言っているのが分かる。
俺の作戦も無駄ではなかったのかと救われる。
俺がみんなを救わなければならないのに。
「そうか。感謝の言葉をありがたく受け取っておく」
ソチェニが俺を見つけて近づいてきた。
「生きていたか。約束は守ったようだな」
ソチェニは手を上げてきた。
俺はその手を叩く。
「もちろんだ。俺に死ぬ気はない」
「シュラー。部下を休ませてくれ」
「あとイルチに給食を頼む。たらふく食べさせてやってくれ」
「ご主人様!」
イルチがむくれる。
「からかってるんじゃない、それだけの働きをしてくれた」
「イルチにはそれだけ食べる権利がある」
「む~~~~!!」
さらにむくれるイルチを見て、みんな笑みをこぼす。
「シュラー、ちょっと。皆はちょっと待っててくれ」
シュラーが俺について、みんなから少し離れる。
「ご主人様」
「イルチ達をモニオムのところまで連れて行ってくれ」
「これから先の戦闘に【|歌うもの≪シンガー≫】は必要ない」
「放っておけば俺の戦いに巻き込まれて死ぬだけだ」
「モニオムにはくれぐれも宜しく。と伝えてくれ」
「そうでしょうな」
「宜しく頼む。そして俺に呼ばれるまでお前も休んでおけ」
「俺が大いに頼りたい時に、元気でいてほしい」
「わかりました」
俺がシュラーの肩を叩くと、イルチ達に向かって歩いていった。
「リンヴェッカー、ソチェニ。俺と別れた後の話を聞かせてくれ」
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次回 3日目 ここではないどこか
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