◇28 埋伏 破壊(アンド・デストロイ)
【国境・王国側街道の森】
【2日目 朝 固守残り2日】
「そうだな。各部隊から5名ずつ戦える兵を抽出してもらう」
「リンヴェッカー、シュール、ヴェーク、クライナー、ジアルマタ」
「全部で25名。俺達を入れて45名」
「その兵力で敵を急襲する」
「本気ですか?」
シュラーが色を成す。
「本気だ。谷の出口には物資の集積地か敵の司令部があるはずだ」
「本当のゲリラ戦だよ」
「それでは生還の望みがありません」
「しかし成功すれば時間が稼げる」
「成功させる為には、残った部隊はがっちりと敵を抑え込んで貰わないといけない」
「残った部隊の方が厳しいぞ」
「イルチ。連絡してくれ」
「はい」
イルチが消え入りそうな声で返事をしてくる。
「どうした? 雨で体が冷えたか?」
「いえ、ご主人様が心配で」
イルチがどうしてナイフを両手で握りしめているのかわからないが、不安を隠す方法は人それぞれだ。
「お前たちの後ろ盾になるためにも、生き残らないとな」
俺は笑顔を浮かべた後、意識して冷たい顔をする。
「連絡だ」
「全部隊から5名抽出。集結地は俺の部隊だ」
「夜目の効く【歌うもの】も一緒に来てもらいたい」
「残りはクライナーの隊に合流。陣を組め」
「クライナーは変わらずに戦死者と重傷者の後送をやってもらう。以上だ」
イルチの歌声を聴きながら、しばらくの間、俺達は休むことにした。
腰を下ろした時、歩哨の声が響いた。
「敵襲! 敵襲! 敵襲!」
森の中まで入ってきたのか!
それとも野生動物か。
休む暇はなかった。
※
「敵か? 野生動物か?」
シュラーとソチェニを従えて、森を駆ける。
森の中は戦死者と負傷者で一杯だ。
簡単に殺戮出来るし、餌になる。
円陣の対面に出る。
目に入った敵は5名。
陣の外にいる3人が木にもたれ掛かったまま、何度も串刺しにされていた。
敵は殺戮に酔っている。
「シュラー」
腕を前に振る。そして
「ソチェニ」
腕を左に振る。
俺は右へ舵を切った。
重厚な鎧が音を立てて、シュラーが正面からの接近を知らせる。
そして俺とソチェニは、共和国兵の背後から斬りかかった。
※
「ハァハァハァハァ」
3人で肩で息をする。
「敵が森の中に侵入してきましたな」
「嫌な展開だ」
泥と血にまみれた共和国兵を見下ろす。
死んだ共和国兵は口を開けたまま、雨を飲み干していた。
「敵陣への奇襲を急ぐしかないな」
「このままでは分断されて終わりだ」
「ソチェニ。悪いがお前には残ってもらう」
「どういう意味だ」
ソチェニも死体を見下ろして、荒い息を整えていた。
「お前はここに残って、終結した25名を指揮して、クライナーの後送を待て」
「俺とシュラーは今いる20名。いや、17名か」
「俺達入れて19名か。それで敵陣に奇襲をかける」
「俺を保護する約束はどうなったんだ?」
「それに俺はこの部隊の員数外の貴族だ」
ソチェニが俺をまっすぐ見つめてくる。
俺もソチェニの目を見返す。
「敵陣への強襲をするのなら、員数外の俺が指揮するのが妥当じゃないのか?」
「お前は、この死者や負傷者への責任がまだあるはずだ」
ソチェニのいう事は至極まっとうな事だった。
正論をいう相手に、俺の考えを伝える自信はない。
しかしわかって貰わなければならない。
「まず、お前を保護する約束は反故だ。詫びる」
「許してくれ。俺の力不足だ」
「このままではソチェニ。お前は死ぬだろう」
そこで俺は大きく息を吸う。
どうせ、俺は聖人ではなく、生き残りたいだけの自己中心的な人間だ。
「そして勘違いしているかもしれないから、言っておくが」
「俺は死ぬつもりなんかない」
「生き残るために、敵を襲撃する」
「つまり、お前は生きて帰ってくる事を前提に、俺に頼みごとをしている訳だ」
「そうだ。敵を襲った俺達を血眼になって、追ってくるだろう」
「その時に、ここに倒れている英雄を巻き添えにしたくない」
「イルチ。ウイチ。危険だが俺にチカラを貸してくれ」
後から追いついたイルチは力強くうなずいてくれた。
これで分が悪くとも、まだ希望をつなげられる。
自分がいかに弱い人間か、痛感させられる。
「俺の返事も聞けよ」
ソチェニが笑った。
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次回 埋伏 森の奥
2016年07月28日07:00公開予定でしたが、仕事多忙につき、少々お休みします。
すみません。また更新されたら宜しくお願いいたします。
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