◇27 埋伏 探索(サーチ)
【国境・王国側街道の森】
【2日目 朝 固守残り2日】
「イルチ。他の部隊の戦況と損害を聞いてくれ」
イルチが胸に手を当てて心配そうに立っていた。
「頼む。急いでくれ」
イルチが歌い始める。
「ご主人様」
シュラーが損害を報告してきた。
戦死・重傷者は3桁。
軽傷を含む戦える兵は20名もいなかった。
想像以上の損害だ。
よくそれだけの戦死者を回収できたものだと思う。
人は時に、想像を超えた働きをする。
しかしもう俺の隊、単体では襲撃出来ない。
部下たちはもう十分、英雄的行為を行った。
「合流しないとまずいな」
イルチが教えてくれた。
俺の部隊が最も損耗が激しく、他の部隊は辛うじて戦闘単位を保っていた。
つまり、俺が無能だという事だ。
森の出口ではまだ戦闘が続いている。
相手は大隊規模だ。
当然だろう。
「ご主人様」
シュラーも心配そうな顔をしている。
「そうだな」
「俺達は合流しないと戦闘単位にならないな」
「ソチェニは?」
「負傷兵の手当てをしています」
「そうか」
「クライナーの陣まで後退する」
「戦死者、重傷者は置いていく」
「それで……宜しいのですか?」
俺は天を仰ぐ。
止まない雨が俺の顔から泥を拭い去る。
「やはりダメだな」
「兵は死んでも、俺達が必ず故郷に返してくれると思ったから、あれだけ勇敢に戦ってくれたんだ」
「兵の思いを裏切る事になる」
「クライナーの兵による後送はどうだ?」
クライナーに戦死者の後送を命じていた事を思い出した。
「遅々として進んでおりません」
「戦死者1人を運ぶのに4人の手が必要です」
「試練だな」
「残っている兵で戦死者を守る」
「それでは後送しきるまで、時間がかかりすぎます」
「いや、まずはそれでいい」
「ほんの少し、次の手を考えさせてくれ」
「はい。ご主人様」
シュラーは一礼すると、少し距離を取って座り込んだ。
※
【国境・王国側谷】
谷の中は周囲から落ち込んでくる湿気で居心地の悪い事、この上なかった。
昨晩、僅かでも湯に浸かれたのが、せめてもの慰めだった。
おまけに、予期せぬ連隊の大損害。そして軍事的停滞が、気分を暗いものにする。
「街道上での伏撃は減りつつあります」
連隊情報幕僚が軍服を泥だらけにして報告してくる。
幾分精悍さを手に入れたように見えるのは気のせいか。
まるで連隊情報幕僚からのプロポーズに聞こえるような吉報だった。
「威力偵察に出した部隊には気の毒な事をしたが、これも革命の延長だ」
「戦務幕僚。見事だ」
傍らに控える戦務幕僚が、固まっていた表情を緩める。
「狭隘な街道での挟撃が効いたのだろう」
「もう森の出口で踏ん張るしか手が無い筈だ」
「主席幕僚。詰めはどうだ?」
主席幕僚からも笑みがこぼれる。
「連隊長の発案。恐れ入りました」
連隊幕僚の注目が集まる。
「1個大隊を小編隊に分けて、森の中に入らせました」
「今まで、敵は戦死者を戦場に残しませんでした」
「先の騎馬編成隊とぶつかった、突出していた伏撃部隊は、今頃負傷者と戦死者を抱えて身動きが出来なくなる頃です」
「それを見つけて、予備隊を投入。完全に無力化します」
損害はお互い様だ。
ならば、予備兵力の多いこちらが勝つ。
ようやく敵の指揮官の喉元まで、手が伸ばせたような気がした。
「野生動物との偶発的な戦闘も起きるだろうが、そこは仕方ない」
「この敵は最後まで磨り潰さなければならない」
「僅かでも生き残れば必ず逆襲してくる」
「既に国境を押さえて、森の街道も手に入れれば、王国のどこへでも展開する事が出来ます」
「そうなれば、共和国軍の独壇場です」
「敵の追撃、戦果拡張という作戦目的も果たした事になります」
連隊首席幕僚は、もう「敵の指揮官に拘泥するな」とは言わずに、半分認めて来ている。
敵への手ごたえが出始めたからだろう。
師団の目的も達成しつつある今、ついでにまだ見ぬ指揮官を追う事を許容している。
連隊の頭脳を活用できるのは、とても心強かった。
連隊の主だった幕僚を改めて眺める。
この優秀な幕僚たちの作戦が、敵を追い詰めている。
いつの間にか、敵は自分たちが分断される事になって、更に驚く事になるだろう。
「捜索と殲滅で更に追い詰める」
「今度はどこから攻め立てられるかわからず、翻弄されるのは敵だ」
「合流させるな」
「は」
幕僚達は了解する。
「連隊本部を谷から出すぞ」
「師団を谷に入れるスペースを作る」
「そして森の出口に陣取る敵を抜く」
「危険です」
「まだ敵は無力化していません」
連隊首席幕僚が腕を掴んでくる。
「大丈夫だ」
「お前たちがいる」
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次回 埋伏 アンドデストロイ
2016年07月26日07:00公開予定
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