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異世界に来たけど義母が5人もいた上に結構ハードモードだった。  作者: 雨露口 小梅
第一章 撤退支援戦闘(ウィズドロワル・サポート・バトル)
27/212

◇24 埋伏 ゲリラ戦(ゲリラ・ウォーフェア)

 【国境・王国側谷の出口】

 【2日目 朝 固守残り2日】


 部隊全員が声を殺して、鎧のこすれる音すら気を付けて森の切れ目に向けて進む。

 幸いに雨が大地を叩く音に紛れる事が出来る。


 森の切れ目の茂みに到達して身を屈める。


 「ひっ! やめっ! がっ!」


 雨の音が支配する世界で、声がする。

 どこの誰がこの静寂を破ったのか、辺りを見回す。


 一人の兵が宙に浮いていた。

 あのレベル2が木々の間に四肢を張り、伸びた舌で兵を巻き上げていた。

 下半身をかみ砕かれた兵は、体をくねらせ助けを求める声を上げる。

 伏撃がばれる!


 傍に控える兵が槍を投げた。

 その槍は捕まった兵の胸に刺さり、苦悶の声を終えた。


 俺はその兵の元に駆け寄ると肩を叩いた。


 「よくやった。5人選べ、俺達が突撃したら取り返して来い」


 「はい。中隊長殿」


 俺はシュラーの元へ戻ると、命令を出す。


 「弓、構え」


 復唱が波の様に伝わっていく。

 この雨の中、弓の皮と木材がふやけていずれ使えなくなる。

 それに後生大事に持っていても、ここで俺達が死んだら意味がない。


 「放て」


 応答の代わりに、矢を射る音が波の様に伝わってくる。

 前進中だった敵の弩弓ボウガン部隊は、突然の横合いからの攻撃に倒れるが、直ぐに態勢を立て直してくる。


 立膝を突くと、番えていた弩弓ボウガンを放ってきた。

 味方は地に伏せるか、木の陰に隠れるかするが、幹を貫いて弩級ボウガンの矢じり(ボルト)が突き出す。


 奇襲効果はあったが、敵の部隊長は倒れずに指示を出していた。


 「突撃!」


 降り上げた手を前に振りおろすと、剣を抜いて森から走り出た。

 敵が弩弓ボウガンボルトを番える中、味方の矢が敵に降り注ぐ。


 そして番え終えた敵は2射目を放ってきた。

 突撃している何人かが射られて倒れるが、突撃は緩めない。

 挫けそうな自分の心を叱咤するように叫ぶ。


 「俺に続けぇ!」


 目の前には、顔を引きつらせながら3射目を番える敵が見えた。

 何も考える事無く体が自然に動く。

 番える動作を止めて、弩弓ボウガンを頭の上に構えるが、剣を振りおろした。

 弩弓ボウガンで押さえきれない剣はそのまま頭蓋を砕いて、切っ先が俺の足元まで戻ってくる。


 そのまま横に立つ、番え終えた弩級を腰だめに構える兵に体当たりをして態勢を崩す。

 崩れた態勢で引かれた引きトリガーは、空に向かってボルトを放つ。


 そのまま横殴りに胴体を切り裂く。

 足は濡れた大地を踏みしめる中、切り裂かれた腹から重量物が落ちる。

 それを何かは確認する必要はなかった。

 次の脅威に向けて頭を巡らせた。


 戦場は乱戦になっていたが、剣を持たないが故に弩弓ボウガンを手放せない相手に、少人数の味方は押していた。


 「注目注目!」


 頭上で剣を振り回す。

 剣にボルトがあたり弾かれるが気にしない。

 俺が狙われている事など最初から知っている。


 「目標! 敵の指揮官!」


 剣で指し示すと、指揮官を中心に固まる一団に味方が殺到する。

 俺も剣を刺突に構えると、突然視界を弩弓ボウガンが埋める。


 強烈に顔を殴られて、後ろによろけるとソチェニにぶつかって倒れた。

 ソチェニを下敷きにして顔を上げると、敵が腰だめに弩弓ボウガンを構えていた。


 剣を横に振るが敵に届かない。

 敵が笑みを浮かべて、俺の剣の軌道から外す為に、肩に構えなおす。

 殺される!

 足掻くが湿った土を長靴ブーツが掴めずに、体を動かす事が出来ない。


 その敵の顔面が割れて、剣の切っ先が現れる。

 剣に操られるように、円を描いて敵兵が崩れ落ちると、シュラーが立っていた。


 シュラーの手を借りて起き上がる。


 「助かった」


 シュラーは俺の礼を聞き終わる前に、目標の一団に向かっていった。

 俺が下敷きにしたソチェニが気になる振り向くと、敵の背中が見えた。


 ためらいもなく、後頭部に剣を突きたてた。

 敵が立っていた陰には、ソチェニが泥にまみれてもがいていた。


 「シュラーと俺のリレーだな」


 何が面白いのかわからないが、思わず笑みがこぼれた。


 「増援だ!」


 誰の警告かはわからなかった。

 しかし谷の方角を見ると、雨を割って水しぶきを上げる一団が見えた。

 恐らく騎馬隊だ。


 雨で蹄の音が聞こえなかった。

 この雨は敵にも味方するっていう事か……。


 「注目注目注目!」


 頭上で剣を振り回す

 直ぐに近くの兵から集まって集団をつくる。


 「森へ後退! 傷ついた仲間をおいていくな!」


 剣を突撃発起点に向けて振り下ろす。

 瞬く間に味方の兵が、森に向けて走り出す。


 俺はソチェニと、傷ついて倒れた兵の両脇を抱えて森へ走る。


 「ありがとうございます。中隊長殿」

 「ありがとうございます貴族様マイロード


 ソチェニが励ます。


 「がんばれがんばれ、森に入ったら手当をしてやるぞ」


 取り残された兵がいないかどうか、周囲を確認しながら腋を抱える兵を見る。

 足に弩弓ボルトを受けて両膝から下が千切れていた。


 足元がぬかるんで滑り、3人とも倒れる。

 顔についた泥も拭わず、体を立て直すと再び森に向かって走り出した。


 「もう少しだ。もう少しだ!」


 森の茂みまで約5歩という時、突然荷重がなくなる。

 俺とソチェニをおいて、担いでいた兵は目の前の水たまりに倒れこむ。


 「おい! おい!」


 目の前の兵をゆするソチェニの両脇を掴んで引きずる。

 味方の弓兵が、茂みから出て来て掩護する。

 しかし雨を受けた弓はふやけて張力に勝てず、弾けて壊れるものもあった。

 ソチェニは元より、兵も生きているのか死んでいるのかわからない。


 敵の弩級ボウガンを背に受けて倒れたものは、森から出て身を晒した弓兵によって、森に引きずり込まれていく。


 無事森の中に入れた俺は、ソチェニの両脇を手放して、兵を見た。

 後頭部からボルトを受けた兵は、顔面をなくしていた。


 もう少しだったのに……。

 自分の行いが実らず、徒労感を覚えるが、それは俺だけではないだろう。

 ソチェニは地面を叩いて水しぶきを上げている。


 街道を見ると騎馬が通り過ぎていた。

 間一髪、後退が間に合った。


 敵は森にいる俺達に向けて弩弓を放ってくるが、体を隠しているだけ安全だった。


 「中隊長殿。取り返してきました」


 振り返ると、野生動物モンスターから仲間を救い出すように命令した兵だった。

 持ち上げた左手には、人間の右脚が掴まれていた。

 他はどうなった。とは聞かない。


 俺はその兵の肩を叩いてねぎらってやる。


 「中隊長殿の【歌うものシンガー】が手伝ってくれました」


 「ご苦労。よくやった」


 俺はその兵とイルチ達に礼を言う。


 戦争で死ぬのも、野生動物モンスターにやられて死ぬのも、悲惨だ。

 無力感が沸き上がってくるが、無理やり抑え込む。


 「シュラーはどこだ?」


 当たりを見回すと、シュラーが切り取った頭を小脇に抱えて帰ってきた。


 「敵の隊長を倒しました」


 シュラーが頭を地面に置くとその横に座った。

 息が荒い。

 誇り高き騎士の戦い方も、俺の戦い方も、殺される側にとってそう大きな違いはないな……。

 そう思っても口にはしなかった。


 体を伏せながら這って、茂みから街道の敵を偵察する。


 敵は騎馬隊を周囲に配置して、俺達を警戒している。

 どうやら森の中まで追撃はしてこないようだ。


 シュラーが敵の隊長を倒したからか、それとも野生動物モンスターまで敵に回すつもりがないからか。


 負傷兵はそのまま集合させて、戦死者の番をさせる。

 血の匂いを嗅いで、また野生動物モンスターが集まってくるのではないか。


 戦えば犠牲者が出る事はわかっていたが、森の中では負傷者や戦死者を後送する事は簡単ではない。

 かといって、戦える兵で守っていたのでは、目的が達せない。


 モンスターの事を掴んでいなかった自分の落ち度だ。

 悔やみきれない悔悟の念が前進を駆けまわる。


 いつも自分が打てる手は少ししかない。

 これしか方法はないと思いながらも、無知ゆえの窮地。

 俺に才があれば他の方法で切り抜けられるのではないかと思う。


 イルチとア・レを呼び出してクライナーへの伝令に走らせた。

 クライナーの部隊も最後の抵抗線が故に、一兵も割けないだろうが、負傷者戦死者の後送を命じる。


 早く増援が欲しい。


 敵が谷の出口まで後退を始める。

 いい傾向だ。

 先頭の長槍パイク部隊も後退を始めるだろう。

 敵が谷の出口を固めてくれたら、それだけで時間が稼げる。


 不意に股間が暖かくなるのを感じた。

 今日一日、雨に打たれて冷えた体にとってそれは、太ももまで熱湯をかけられたかのように感じた。


 失禁しているのか?

 下腹部にチカラを入れて止めようとするが、熱い液体は足首まで届く。


 初めて人を殺した……。

 この俺が……。

 足が震えて、今にも膝をつきそうになるが、足にはチカラが入る。

 歯を食いしばって、ぬかるんだ地面を踏みしめる。


 雨が降っていてよかった。

 兵にばれる事はない。


 長槍パイク部隊が後退して来たら、もう一撃をかけるか……。

 その時、雨の音を縫って、リンヴェッカーの隊が攻撃を始める音が途切れ途切れに聞こえた。



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 次回 埋伏 2日目


 2016年07月18日07:00公開予定


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