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異世界に来たけど義母が5人もいた上に結構ハードモードだった。  作者: 雨露口 小梅
第一章 撤退支援戦闘(ウィズドロワル・サポート・バトル)
26/212

◇23 埋伏 モンスターの森(フォレスト)

 【国境・王国側谷の出口】

 【2日目 朝 固守残り2日】


 朝日は昇らなかった。

 灰色の雲が空を埋め尽くし、絶え間なく雨を滴らせている。


 森の切れ目からも雨は注ぎ込み、林冠に溜まった雨水は、時間をかけて肥えらせてから降ってくる。


 全身を強打して、熱を帯び始めた体には心地よかった。

 全ての関節が悲鳴を上げているが、雨が次第に落ち着かせてくれる。


 しかし俺の腕の中にいる男にとって、雨は残り少ない命を溶かす溶液に他ならなかった。

 寒い。寒いと繰り返して体を震わせる。

 俺の熱を分け与えようときつく抱きしめるが、震える頭を鎧に押し付けるだけになる。


 男の左足は根元からなくなり、もう出血もロクになくなってきた。

 壁の崩壊と落下からは生き延びることが出来たが、それはその前のバリスタ(弩砲)によって創られた苦しみが先延ばしになっただけだった。


 俺と俺が指揮する部隊は、森の中に後退した。

 針葉樹が空間を支配し、街道との切れ目は陽光をたっぷり浴びた下草が茂み《バリケード》を作っていた。


 その茂み(バリケード)越しに共和国兵の動きを見る。

 俺達の襲撃を警戒しながら、即席障害物を解体していた。


 まもなく部隊が通過するのに支障のない広さの道を確保するだろう。


 「造るのに苦労はしても、破壊されるのは一瞬だな」


 悔しさがにじみ出る。

 希望していた半日の時間稼ぎは達成されず、敵の損害は皆無。そして俺は死にそうな部下を抱きかかえている。


 挫折感が体を巡る。


 「ご主人様マイマスター


 イルチが声をかけてくるが無視する。


 「ご主人様マイマスター……」


 「ご主人様マイロード。もう死んでいます」


 シュラーが教えてくれる。

 わかっていた……。

 わかっていたが、認める事が出来なかった。


 シュラーが俺の腕の中で眠る男の目を閉じると、どこへともなく運んで行った。

 苦しみを張り付けた顔。


 生きていくのに時間はかかるが、死ぬのは一瞬。

 あの障害物と同じだ……。


 シュラーが戻ってくる。


 「後送の為に、部隊から離しておきました」

 「傍において置くと、血の匂いを嗅いだ野生動物モンスターが寄ってきますので」


 「野生動物モンスターか……」

 「やっかいだな」


 それは、この森に後退してきて直ぐだった。

 体毛を無くした首なしの死体が、音もなく幹を下ってきて、先頭をいく兵を襲った。


 血管が透けて見える灰色の肌は粘液で滑り、人間でいえば胸から腹までが縦に割けて、3重に生えた歯をむき出しにした。


 野生動物モンスターの出現に驚いたのは俺だけで、他の兵の動きは素早かった。

 直ぐに取り囲み串刺しにする。


 幹に張り付いているため、動きは上下に限られているらしく、狩りの経験がある兵にとっては、容易い相手だったようだ。

 しかし、襲われた兵は左手首から先を失う羽目になった。


 「こういう街道は、雇われた冒険者アッダーが手入れの為に駆除するのですが、どうやらメットナウ家は、領地の手入れをさぼっていたみたいですね」


 シュラーの推測を黙って聞く。


 「まだレベル2程度の野生動物モンスターですからいいですが、森の奥に進み過ぎると獰猛な野生動物モンスターと鉢合わせするかもしれません」

 「まあ、血の匂いを嗅いで、いずれここまで出て来るかもしれませんが……」


 「レベル2……」

 「普通の人間はレベルいくつなんだ?」


 シュラーが不思議そうな顔をした後、微笑む。


 「レベル0です。ご主人様マイマスター

 「人間には牙もなければ、狩りが出来る爪もありませんから」

 「そこら辺の家畜(レベル1)より弱い存在です」


 「ありがとう」


 もう、思考が麻痺しそうになる。

 次々と制約に体が縛られているような感じがする。


 しかしそれでも諦める訳にはいかなかった。

 訳も分らず死ぬわけにはいかない。


 「イルチ。仲間全員に伝えてくれ」

 「こちらアクティム・バシュリンガー。敵は谷を出た。伏撃を開始する。各部隊命令を待て」


 イルチの甲高い短節音うたが森を駆け抜ける。

 それは相手に届くのかと疑問に思うような小さな声。


 しかししばらくするとイルチが口を開けた。

 「リンヴェッカー、シュール、ジアルマタの各部隊から了解の応答がありました」


 思わずイルチを見る。

 俺には何も聞こえなかった。


 イルチは挑戦的な視線を返してくる。


 「ご主人様マイマスターは、人間に聞こえない声で、歌えとのご指示でしたので」

 俺はイルチを信じるしかない。

 【歌うもの(シンガー)】を信じたからこそ協力を依頼したんだ。


 「そうだな。ありがとう」


 俺はイルチの頭を撫でた。

 信頼していると全力で伝えるために。



   ※



 「敵は片づけを終えたようですよ」


 シュラーの呼びかけに応じて、谷の出口を見る。

 敵の隊列が姿を現し始めた。


 「長槍パイク部隊ですな」


 身長の3倍もあるような槍を肩に担いで、青を白の兵が雨に濡れながら、進んでいく。



 「早速襲撃をかけますか?」


 シュラーがはやるように、腰を浮かす。


 「いや。まだだシュラー」


 腕を横に出してシュラーに引きずられた兵を押しとどめる。


 「この雨では、弓が湿ってその内使えなくなる」

 「共和国の鉄製弩弓ボウガンは雨でも関係ないそうだ」

 「ならば、俺達が最初に潰すのは、弩弓ボウガン部隊だ」


 長槍パイク部隊は、途切れることなく谷から出てくる。

 既に中隊規模まで確認できる。


 見送るにしても大隊規模になると厄介だ。

 一撃で全滅されられない。


 リンヴェッカー達の部隊と協働しなければならない。

 こちらの手の内を晒すことになる。


 「早く弩弓ボウガン部隊が出てくるといいですな」

 「このまま平原に出られても厄介ですな」


 俺の焦る気持ちをシュラーが代弁してくれる。


 「イルチ。歌ってくれ」


 「はい。ご主人様マイマスター


 イルチが身を屈めて俺の横に並んでくる。


 「いや、待ってくれ」


 イルチの頭を抑え込んで、俺に抱き寄せる。


 「あ……」


 目を凝らすと、長槍パイク部隊が途切れ、次の兵科が出てきた。

 よし、長槍パイク部隊は中隊規模だ。


 「考えてみれば、街道は野戦を繰り広げられるほど、広くはない」

 「中隊規模での運用が、一番使い勝手がいいだろうな」


 「ご主人様マイロード。賭けに勝ちましたな」

 「弩弓ボウガン部隊です」


 「よし!」


 俺は拳を叩き合わせて鳴らした。


 「弩弓ボウガン部隊を襲撃する」


 「イルチ歌ってくれ」

 「先頭の長槍パイク中隊をやり過ごして、弩弓ボウガン中隊を襲う。俺たちの離脱と共に、リンヴェッカーは長槍パイク中隊に一撃をかけろ。深追いはするな。以上だ」


 俺の腕の中から放たれたイルチが歌い始める。


 「一撃離脱するぞ」


 「弩弓ボウガン部隊の後ろは確認しませんか?」


 「時間をかけたら逆襲される」

 「何が来るにせよ、さっさと森に逃げるだけだ」

 「剣はまだ抜くな、音を立てるなよ」


 「さぁ。行くぞ」


 俺達は茂み(バリケード)まで静かに前進した。



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 次回 埋伏 ゲリラ戦


 2016年07月15日07:00公開予定


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