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異世界に来たけど義母が5人もいた上に結構ハードモードだった。  作者: 雨露口 小梅
第一章 撤退支援戦闘(ウィズドロワル・サポート・バトル)
21/212

◇18 初めての夜 微睡(スランバァ)

 【国境・王国側谷】

 【1日目 夜 固守残り2日】


 月も天頂を過ぎ、兵の半分が交代して警戒に入るころ。

 作業中の【歌うもの(シンガー)】と警戒の兵を邪魔しないように、隅で遅い夕食を取る。


 今日初めての食事。

 いや、記憶がある中では初めての食事。


 とても堅いパンと、木をくり抜いたお椀の中には塩気しか感じないスープ。

 命がけで戦っているのにこれだけしかないのか……。

 自分は元より兵達がかわいそうになってくる。


 立てても置けないため、常に腰に下げている革袋に口をつけて堅いパンを無理やり流す。

 屋根のあるところで、ちゃんとした食事をとりたいが、そんな贅沢も言っておられず、切り株を椅子代わりに、両膝の上に肘を載せて食事を採る。


 かがり火を焚いても夜の闇は辺りを侵す。

 谷を造る崖と樹冠に覆われた空を見ると、十字の天の川と満点の星が輝いている。

 今日1日の殺し合いが嘘のように思えてくる。


 それでも木々を切り倒し、組まれていく音が暗がりの向こうから聞こえてくる。

 即席の障壁が明日の俺の鼓動を守ってくれるかもしれない。


 俺はミサキ トウヤ。

 俺はアクティム・バシュリンガー。


 どっちでもいい。今は。

 今晩も、明日も、明後日も生き残らなければならない。


 スープの中に映る星が揺らめいている。



   ※


 【国境・共和国側谷】


 戦塵を体から拭い去って、心なしか軽くなった気がする。

 従兵はノリの効いた新しい軍服を用意していた。


 かがり火で煌々と照らされる丘の上に続々と補給品が運び込まれていく。

 丘の下を見ると、今日1日戦い抜いた連隊の兵達が天幕の中で休んでいた。


 偵察隊から情報が入ってくる。

 連続して篝火が炊かれており、それは途切れなく続いているという。


 篝火を消さなければ偵察隊が丸見え。

 篝火を消せば、我々の進行が見て取れる。


 今のところ、偵察隊は伏撃されていないようだが、どこかで手痛い待ち伏せを受けるかもしれない。


 それでも……。


 「伏撃を受けても持ちこたえられるだけの数で、偵察を続行しろ」

 「弩級ボウガンを持たせてな」

 「今宵の内に行けるところまで行かせろ」

 「敵の抵抗にあったら、そこで踏みとどまれ。それ以上進まなくていい」


 連隊主席幕僚に変わって、当直に立つ戦務幕僚へ命令を告げる。


 「弩級ボウガン長槍パイク、1基の投石器カタパルト……」

 「ようやく野戦が見えてきましたね」


 補給品の内容を見て、戦務幕僚が笑みを浮かべる。


 「楽しそうだな」


 「我々は野戦に特化した編成をしておりますからね」

 「丘取や攻城戦ではどうしても犠牲が多くなります」


 「奴隷兵がいなくても勝てるか?」


 「連隊長のお言葉とは思えません。我々は奴隷兵がなくとも勝てるように訓練しております」


 「そうだったな」


 芯の重い固太りの戦務幕僚が肩を回す。

 確かに野戦では負けなしで王国軍を引きずり回し、壊滅させた。


 勝利に酔っているのか?

 これからも簡単に勝てると思う根拠はなんだ?


 「方針を示す」


 「は。ただいま主席幕僚を」


 「必要ない。今はお前が当直だ」


 「は」


 「野戦はまだ先だと思え」

 「ここからは腰を据えていくぞ」


 「どういう事ですか?」


 戦務幕僚の顔に微かな嘲りが見てとれる。

 年齢差からの軽蔑か? それとも……。


 まあいい。

 こちらは実力で敬意を勝ち取るまでだ。

 これまでもそうしてきた。


 「敵の時間稼ぎは腰が据わっている」

 「敵の時間稼ぎに付き合うのは癪だが、篝火の用意と言い、敵への評価を変えなければならない」

 「四つに組んでも徹底的に敵部隊を粉砕するぞ」

 「我々があの部隊をつぶさなければ、他の部隊がやられるだろう」


 「随分な高評価ですね」


 「あの指揮官は危険だ」

 「野戦でも素直に我々と戦うとは思えない」


 「それを撃退出来るのは我々だけだと?」


 「我々の連隊だけしか戦ってないからな」

 「お前達幕僚と兵を信じればこそだ」


 「師団からの命令は追撃による戦果拡張です」

 「谷を抜けたら、あの部隊は無視してもよいのでは?」

 「目的が変わっておりますが」


 「戦果拡張は師団の役割でもある」

 「師団の戦果拡張を助ける為にも、我々はあの部隊を叩かなければならない」


 「くどいようですが、戦果拡張は連隊の役割でもありますが」


 「だからお前には師団本部へ行ってもらう」

 「師団長へ私の方針を伝えろ」


 「元帥ではなく?」


 「そうだ」


 「命令違反を咎められそうですね」


 「説得しろ」


 「増援の大隊長達は不満に思うでしょうね」


 「言わせておけ。明日になれば不満も言えなくなる」


 「野戦においてもそれほどまでに警戒する必要があるのでしょうか」


 「杞憂ならいいのだがな」


 「では、私の説得が無駄になるのを期待するとします」


 「幕僚とは損な役割だな。しかし頼む」


 「それが幕僚ですから」


 そうだ。私は勝ち取らなければならない。

 全てを。



   ※


 【???・???】


 何となく頭が痛い。

 それとなく体がフワフワしているような気がする。


 「統也。何ボーッとしているのよ」

 「まだ寝ぼけてるの?」


 「あ?」


 声をかけられて俺は自分が寝ていることに気が付いた。

 見ると目の前にはトーストにマーガリン。ヨーグルトに味噌汁が置かれていた。


 あぁ。朝ごはんだったか。

 なんだよ。味噌汁以外は既製品じゃないか。


 手を抜きやがって。


 「どうせ夕べも遅くまでパソコンで遊んでたんでしょ」

 「ちゃんとレポートやってるの?」


 ぼやけた目の前に女性が座っている。


 「あぁ。やってるよ」

 「それに遊んでるんじゃねーし」


 聞いちゃいない。


 「ほら、さっさと食べちゃって」

 「今日は1限あるんでしょ?」

 「遅刻するわよ」


 箸を手に持つが、それ以上動かない。


 「なんかだるい。飯いーや」


 「風邪ひいた?」


 突然目の前に顔が現れる。

 頭を引く間もなく、おでこに手を当てられた。


 「熱いじゃん」

 「ちゃんと体温計で図って。大学の研究室には私が連絡しておくから」


 「そんな事しなくていーよ」

 「自分で出来るから」


 「統也は熱出すと引き付け起こすから、ちゃんと体冷やして寝てなさい」

 「お母さん、ちょっと熱冷まし買ってくるから」

 「せっかく後卒業するだけなのに、ここで躓いたら、頑張った就職活動もったいないじゃない」


 「いや、いらねーって」

 「引き付け起こしてたの子供の頃だろうよ」

 「……ん?」


 お母さん?

 この人が俺の母親?


 もっと良く顔を見ようと顔を上げる。

 しかし母親は既に玄関から外に出て、台所の曇りガラス越しに階段へと向かう影が見えた。


 「一人暮らしできりゃいいんだけどな」


 今日は何日だ?

 手元のリモコンを取って、テレビをつける。


 ニュースをやっていた。


 --サイバー攻撃で東京為替市場と東証のシステムダウンが続き、今日も取引が出来ず。

 --水道・電気・ガス会社もサイバー攻撃を受けて混乱中。

 --今のところライフラインも問題なし。


 --一部の国と決済が出来ずに、決済の肩代わりをIMFがする事に決定。日銀と政府も歩調を合わせて、中小企業向けに決済の代行を行う事に決定。


 背中をぞわりと何かが走る。

 寝ぼけていた頭も素早く回転を始めた。


 これって、兵站が攻撃されてるんじゃないのか?

 戦争……してるのか……?

 俺は……。


 そして目が覚めた。



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 次回 初めての夜 母


 2016年06月28日07:00公開予定


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