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異世界に来たけど義母が5人もいた上に結構ハードモードだった。  作者: 雨露口 小梅
第一章 撤退支援戦闘(ウィズドロワル・サポート・バトル)
19/212

◇16 初めての夜 夜(ナイト)

 【国境・谷】


 「王国兵め」


 かがり火に照らされる丘の上を、谷で戦った増援の大隊兵が戻ってくる。

 動けるものは、負傷したもの、戦死したものを背負って戻ってきた。

 とても勝っている軍とは思えない覇気のなさ。

 しばらく休ませる必要があるのは明白だった。


 「貴重な兵を……」


 「それほどの犠牲は出ませんでした」


 連隊主席幕僚が隣に立つ。


 「私は砲というものを有効に使えていなかったという事か」

 「たった3門の砲で1個の大隊と2個中隊が壊滅」


 この1日で初めて落ち着いて連隊主席幕僚の顔を見る。

 固めている口ひげも僅かに崩れているが、穏やかな祖父の様な顔をしていた。


 「ともあれ、国境へ通じる丘は取りました」

 「そして今、谷で敵を押し込んでいる」

 「この夜は敵にも時間を与えますが、我々も準備の時間が取れます」


 コーヒーの注がれたカップを二つ、従兵が持ってくる。


 「少しは休まれたらいかがですか?」

 「なんでしたら湯を張らせる事も出来ますが」


 手を立てて、連隊主席幕僚が差し出すカップを断る。

 2つのカップを見比べた連隊主席幕僚は、従兵に返す。


 「敵本隊への追撃の遅れは1日」

 「まだ想定内だ。取り戻す事が出来る」

 「…………」

 「相手の指揮官は誰だ? それを知りたい」


 「こだわりますな」

 「明日以降もあの老騎士が立ちはだかると?」


 「指揮官はあの老騎士ではないような気がする」

 「もっと若い、正義もこだわりもない、なんでもする夜盗の様な相手」


 「なるほど」


 「ここで止まったら戦争の流れが変わる。共和国は勝たなければならない」

 「攻め込まれただけで報復も出来ないとあれば、人々は革命に覚めてしまう」


 「連隊長殿、それは政治です」

 「将軍や元帥にお任せください」


 連隊主席幕僚がやんわりとたしなめるが、かがり火から目を反らさない。


 「違うのだ。政治ではないのだ」

 「ここまで来たんだぞ」

 「数多の兵を犠牲にして。その兵の犠牲に見合ったものを勝ち取らなければならない」

 「この谷を抜けなかったら元帥の得点になる」


 谷の奥へ向き直る。


 「元騎士団ではなく、革命軍が王国貴族に鉄槌を下すのだ」

 「我々の存在意義を賭けた戦いなのだ」

 「湯あみをするぞ」


 「はっ」

 「天幕には誰も近づけさせません」


   ※


 【国境・王国側谷】

 【1日目 夜 固守残り2日】


 車軸が砕ける程に駆けていた馬車も谷の出口が見えて、その速度を落とす。


 谷を抜けたところでは、ヴェークの部隊を中心に谷に向けて横陣が組まれていた。

 クライナーの部隊はそのまま森の奥へ駆け、反対側へ陣を組む。


 その間に補給品や【歌うもの(シンガー)】達、負傷兵が広がっていた。

 

 俺の馬車と入れ替えにリンヴェッカーの隊がかがり台を担いで谷の中へ入っていく。


 「ご主人様マイロード

 「偵察に行きます。かがり火を順に焚いておけば、敵の姿を浮かび上がらせます」


 「逆に消えれば敵が来たという事か」


 「はい、ご主人様マイロード


 「宜しく頼む」


 「はい、ご主人様マイロード


 軽く頭を下げるとリンヴェッカーが谷に消えていく。

 相変わらず準備がいい。


 俺は御者を務めるソチャニの肩を叩くと、馬車を降りてシュラーに向き直る。

 

 「取りあえず急いで谷を埋める。半分の兵を寝かせて残り半分に木を切らせる」


 「壁を作るわけですか」


 「即席の障害物だ」

 「どうして国境のこの谷に門なり要塞を構えていないのか理解できない」


 シュラーがコルネスティとシュールを口笛で呼ぶ。

 鎧を鳴らせてコルネスティが駆けてきた。

 遅れてシュールも駆け寄ってくる。


 「谷の出口に壁を作る。補給品に役に立ちそうなものがあるか?」

 「シュール。ツムの部隊を吸収したな。お前の部隊に、大工か工人出身者がいたら集めろ。粗塞を構築する」


 シュールが直ぐに編成に入るため、自分の部隊に戻る。

 いつの間にか再編成をしていたのか。

 俺自身のチカラじゃなくて、こういう優秀な部下が全てを支えているんだと痛感する。


 やはり、俺が生き残るには部下や兵達に頼らざるを得ない。


 シュラーの問いに、負傷兵の面倒と輜重隊を任されたコルネスティが一瞬考え込む。


 「斧がありません。ノミも。築城資材は補給品の中にはありませんでした」

 「完全に野戦の物資だけです」


 シュラーが自分の剣を軽く見る。


 「剣でやれない事はないでしょうが、時間がかかりますし、その後剣は使い物になりませんな」

 「戦えなくなります」


 「万事休すか……」


 流石に直ぐには対策が思いつかない。

 築城で時間を稼がなければ人間の肉がその代わりになる。

 俺の限界はここか……。


 「【歌うもの(シンガー)】の武器を使うのは?」


 コルネスティが提案する。


 「それは出来ない。彼らは自衛手段を失う事になる」


 即座に否定する。かといって代案もない。

 自分の中の何かが許さなかった。

 反射的に否定してしまった事を後悔する。


 「我々がここで敗れれば彼らの末路は悲惨なものになるでしょう」


 ズバリとシュラーに指摘されて決意する。

 やっぱりそうだよな。

 目的を見失うところだった。

 俺は生き残らなければならない。そしてそれはここにいる全員も一緒だ。


 「コルネスティ。すまなかった」

 「モニオムを呼ぶか」


 「お呼びですか中隊長殿」


 「おおう!」


 幽霊のように痩せぎすで色白の男が後ろに立っている。

 相変わらず突然現れる。


 シュラーとコルネスティは剣を抜きかけている。

 俺はびっくりするだけで動く事すらできない。

 こいつが暗殺者だったらと思うと、背筋が寒くなる。


 そしてモニオムの後ろにはレディ=マホがいた。

 更には見慣れない男がいる。


 オールバックともとれる頭に小さくて鋭い眼が光る。

 骨太で筋肉質な体が分厚い羽毛越しに見て取れる。

 唇は黄色い。

 

 「中隊長殿。紹介します。ヌワ=シイ。この【歌うもの(シンガー)】をまとめて貰っています」


 「宜しく」


 俺は手を差し出すが、ヌワは握手を拒否した。

 シュラーとコルネスティが剣を抜きそうになるが、それを制する。


 「端的に言う。【歌うもの(シンガー)】の持っている武器を貰いたい」

 「俺たちはここに粗塞を応急構築して戦わなければならない」

 「それには築城道具が足りない。それに使いたい」


 レディ=マホがヌワに金属音の様な高音で話す。

 そしてヌワもその巨体に見合わぬ高い声で返す。

 それを再びレディ=マホが通訳した。


 「ご主人様マイマスター。その築城は私たちに任せて貰えないでしょうか」


 「いや、賓客のお前たちに戦いの手伝いをさせる訳にはいかない」

 「後々、共和国の報復対象になる」


 「ご主人様マイマスター。私たちはご主人様マイマスターによって解放され、自由人となりました」

 「ですが、私たちはご主人様マイマスターの後ろ盾がなければ、奴隷に戻るのではなく、嬲られ弄ばれ、殺されるだけです」


 シュラーと同じことを言われる。


 「それに既に【歌うもの(シンガー)】は負傷兵の手当てと物資の搬送、配食を手伝ってもらっております」


 モニオムが補足する。


 「賓客のもてなしをしろと言わなかったか?」


 「申し訳ありません中隊長殿。しかし彼らからの申し出でして、捕虜の強制労働には当たらないため、許可しました」


 「だからご主人様マイロードは谷で全力で戦えました」


 コルネスティが助け舟を出す。

 部下から突き上げを喰らって俺は黙る。

 さっき目的をはき違えて反省したばかりなのに……。


 「すまなかったモニオム。シュラー、モニオム、【歌うもの(シンガー)】は正しい」

 「俺の固定観念を捨てる事にしよう」

 「是非お前たちのチカラを貸してくれ」


 粗塞の構築はそのままコルネスティとモニオムに任せる。

 最初の命令通りシュールの選抜隊員を補佐につける。

 粗塞についてはこれ以上、俺が口出ししない方がいいだろう。


 ジアルマタとヴェークを呼んで、次へ動く。


 「ジアルマタ。一時的にヴェークの部隊の面倒を見てくれ」


 「はい。ヴェークの隊はこのまま警戒。私の隊は休ませます」


 「かまわない」


 「私は何を?」


 部隊を取り上げられたヴェークが眉間に皺を寄せて、聞いてくる。

 スキンヘッドで顔に傷のかる顔で迫られると気持ちが挫けそうになる。


 「後方の偵察に出てくれ」

 「再編成中の王国軍の位置と規模」

 「双子城の態勢も調べてくれ」

 「それによってこれからの戦いが変わってくる」


 「わかりました」


 「ジアルマタ。お前を信用していないわけではない」

 「ただ、ヴェークなら後衛部隊にいると誰でも知っているだろう?」

 「そうすると話が早い」


 「気にしないでください」

 「信用されていなかったらヴェークの部隊を任さないはずです」


 ジアルマタが無表情に答える。


 「ありがとう」


 どうもビギナーズラックもここら辺で終わりそうな気がする。

 それはシュールには言わなかった。

 本格的な救援が必要だ。

 まあ、俺達が王国軍の使い捨ての救援なのだが……。


 「さて、これから作戦会議でもするか」


 既に周りでは木を切り倒す音が聞こえている。

 みんな仕事が早い。


 ふと、疲労が一気に襲ってきた。

 しかしやる事は多い。

 今日は寝る時間はなさそうだ。



   ※

 【国境・共和国側谷】


 熱めの湯が体に染み込む。

 連隊主席幕僚が気を利かせてくれた通り、天幕の中には誰もいなく、そして誰も報告に来ない。


 これだけの湯を沸かすのにどれだけの労力が払われたか、一瞬脳裏で計算をしそうになるが、追い払う。


 「私はそれに足る人間だ。そしてそれを証明しなければならない」


 湯を両手ですくって顔にかける。

 

 「王国軍の撤退後衛戦闘を任される人物……」

 「戦上手で捨ててもいい人間」

 「そして降伏せず戦い続ける、王国でも信用を置かれている人間……」


 バスタブに寝そべって体をお湯に浮かべる。

 体が湯に簡単に浮いてしまう。


 「どれほど鍛えても、脂肪の多さは変わらないな……」

 「根本的に体のつくりが違うのか……」


 体の上で球面を作っている水玉が、転げながら湯面へ落ちた。



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 次回 初めての夜 母


 2016年06月21日07:00公開予定


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