◇15 鎧vs軍服 ギリギリ(バレリィ)
【国境・谷】
【1日目 夕方 固守残り2日と半日】
共和国軍はすぐにやってきた。
軽装備の兵を先行させているようだ。
大砲などの重装備は見当たらない。
こちらの素早い撤退と、共和国軍が谷の打通に時間をかけられない証拠だ。
読みが当たってほっとする。
兵の数が違う上に、重装備を持ち出されたらこっちの逃げ場がない。
「くるぞ」
シュラーを中心にリンヴェッカー、ジアルマタが両翼を固める。
シュラーを先頭に三角の陣を組んで、砲術長率いるカンパニーの大砲を隠した。
俺はカンパニーの砲台に足をかけて、僅かでも高い位置から敵を観察する。
敵はこちらのだまし討ちに懲りたのか、そのまま突撃を敢行せずに、速度を落として横隊の列の間隔を開ける。
「厳しいな……」
敵の慎重な動きを見て、次の手を考える。
「どうしました?」
隣で同じように観察している砲術長が、俺に水を向けてくる。
「敵の戦闘はぶどう弾で砕けるが、後列と間隔を空けているから、後列まで届かないだろう」
「同じ手はもう通用しないか……」
「やっぱり……したくはないが、また力押しになるな」
「でしたら、もう1種。良い商品があります」
「本来は、敵船のマストをへし折るものですが、この場合でも有効かと」
俺も砲台から降りると、カンパニーの兵が差し出した砲弾を見る。
砲弾2つを鎖でつないでいる。
「打つと2つの砲弾が広がって、鎖が張ります」
「なんとも悪魔的な武器だな。気に入った。当初の計画通りにいこう」
太陽は既に鋭く傾き、谷は遮られた夕日が作り出す闇に染まり始めていた。
共和国兵は、少しづつ歩みを進め、それは次第に中央部が突出した大きな雁行を形作る。
中央部は生贄という訳か。
俺はカンパニーの砲を扇形に向けるよう指示を出す。
シュラーも共和国軍に合わせて兵を進め、雁行と雁行がまっすぐぶつかり合う形になる。
お互いを探るようにジワジワと歩を進め、それ以外の動きは薄れていく陽光だけだった。
既に両軍の先鋒がお互いの突撃間合い(バトルゾーン)に達したとき、共和国から吶喊の声が上がる。
「かかりましたね」
砲術長がつぶやく。
お互いの兵が交われば、こちらは奇策を弄しようがない。
ぶどう弾の攻撃はないと踏んだのだろう。
すぐさまシュラーの隊が後退を始め、瞬く間に雁行から漏斗の形へ変わる。
敵に一瞬の迷いが見えたが、突撃を始めた兵はそうそう止まらない。
シュラーの陣を打ち破ろうと、間隔を空けていた敵の横隊も前線へつまり出していく。
そしてシュラーの隊が二つに割れると、共和国兵が俺たちの前にむき出しになった。
「打て!」
砲術長の号令の元、3門の砲が火を噴く。
薄暮の谷を、火砲の発射炎が一瞬照らし出す。
再び暗くなり、黒煙が薄まった時。
谷に沿って6列のストライプが出現する。
立っている共和国兵と倒れている共和国兵。
白青のユニフォームを着た立っている集団と、赤く濡れた倒れている集団。
その鎖弾の射線上にある共和国兵はみな打ち倒されていた。
敵の突撃が止まる。
「急いで逃げるぞ。さぁ。砲を載せろ」
俺は砲術長に命令を出した。
シュラー、リンヴェッカー、ジアルマタの隊も整然と後退を始める。
3門の砲が上げるか細い轟音と、出現した恐るべき破壊力に呆然としてた共和国兵も、こちらの撤退で気を取り直し始める。
谷に出現した縦縞は消え去り、再び数の減った生き残り(共和国兵)で視界が埋められた。
「ご主人様、急ぎましょう。何度もだまし討ちを喰らって、やつら逆上してきます」
シュラーが騎乗したまま、俺に告げて去る。
「そうだな。急いで逃げるぞ」
敵の蛮声が谷を埋め尽くす。
こちらを飲み込むかのような、怒りの声が迫ってくる。
最初から撤退を予定していたため、素早く、スムーズに谷の出口に向かって後退できたが、今回は敵との距離が近かった。
撤退の最後尾を走る馬車の列に、敵が掴みかかる。
溺れる者が我先にと小舟に乗ろうかとしているような光景だった。
荷台からは槍を突き出し、剣を振り、盾で殴って、掴みかかる敵を振り落としている。
それは、俺の乗っている荷台も同じようなものだった。
何人もの敵が荷台を掴めば、その重さで馬が走れなくなる。
だから取りつかれる前に、槍で共和国兵の胸を突く。
そして荷台に手をかけたら、剣で腕を切り落とす。
荷台のヘリには、数限りない「手」だけがぶら下がっていた。
それでも、怒りに燃える共和国兵は尽きない。
シェラーは鬼神の如く剣を振るい、迫りくる共和国兵の頭を砕いていた。
ソチェニは鎧の襟を共和国兵に掴まれ、引きずり落とされそうになる。
隣の兵がその手を切り落とそうとするが、その兵は共和国兵の剣によって背中から貫かれ、荷台の床で痙攣する。
俺がソチェニの腕を掴んで支えると、シェラーが剣を振るって、襟を掴む共和国兵の両腕を切り落とした。
勢いあまって荷台に倒れこむソチェニの鎧の襟には、主を失った両手がぶら下がっていた。
次第に馬車は速度を速め、剣を振るうよりも盾を握りしめている事が増える。
雨のように降る矢から、馬を守り、御者を守り、そして自分を守る。
御者の背には3本の矢が刺さっているが、懸命に手綱を操っていた。
体が揺れている。
その御者を荷台に倒すと、まだ腕をぶら下げたままのソチェニが手綱を握りしめた。
俺たちは倒れた仲間の傷口を手で押さえながら、後は全力で逃げるだけだった。
まだ初日。
稼ぐ時間は2日。
どうするか。
後谷の中で1戦するか……。
しかし闇夜の中で戦うにはこちらにもリスクが高すぎる。
わかっている事は、敵はこの道を通ってくる。
俺は敵が見えなくなった谷の奥を見つめていた。
既に星が瞬いている。
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次回 初めての夜 夜
2016年06月17日07:00公開予定
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