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異世界に来たけど義母が5人もいた上に結構ハードモードだった。  作者: 雨露口 小梅
第一章 撤退支援戦闘(ウィズドロワル・サポート・バトル)
14/212

◇11 亜人 歌(ソング)

 【国境・共和国側平原】


 最初は嫌々上る丘も、自然と勢いがついてくる。

 自分に勢いをつけないと、敵と戦えない。


 だから私はいつの間にか叫んで丘を登った。

 弓は飛んでこない。


 あの稜線を超えたら何が待っているのだろう。

 今その丘を登り切った。


 「後退! 予備陣地まで後退!」


 見えたのは、丘を放棄して谷へ逃げ込む敵だった。

 大砲や馬車を残して。


 「凄い慌ててる」

 「何があったんだろう」


 ちょっとほっとした。

 でも、直ぐに敵を追いかけて谷へ殺到する仲間の波にのまれて、私も進んだ。


 心なしかみんなの叫び声も、只の声になっている。

 戦わなくて済んだ安堵。そして取りあえず声を出して追わないと、今度は後ろから殺されるから。

 だから取りあえずの動きを見せていて、丘の下のご主人様に伝えている感じ。

 

 でも直ぐに谷の入り口でみんなの動きが止まった。

 戦いが始まっているのかな?


 みんなの叫び声も段々小さくなっていく。

 そして聞こえてきたのは歌だった。



   ※


 【国境・谷】

 【1日目 昼 固守残り2日と半日】


 俺とモニオム、レディ=マホと4人の【歌うもの(シンガー)】が立つ両脇を、如何にも慌てたように、兵たちが後ろへ駆け抜けていく。


 中には本当に慌てているものもいた。


 「おい若旦那! このまま俺の女を捨てたら、絶対許さないからな!」


 会社カンパニーの掌砲長だった。

 両脇を部下に掴まれて引きずられていく。

 俺は苦笑して、片手をあげた。


 「ご主人様マイロード。やはり剣は持っておいた方が」


 シュラーが預けた剣を俺に押し付けてくる。


 「いらない。それこそがこの作戦の成否を握る」

 「俺が死んだら、谷を抜けたところまで後退」

 「そこで指揮を執ってくれ」


 「そういう話は聞けませんな」


 シュラーも谷が曲がって姿を隠せるところまで後退する。

 丘の上から見えるのは、無防備な俺達だけだった。


 間髪入れずに共和国の奴隷兵が殺到してくる。

 そして俺と5人の【歌うもの(シンガー)】を見て止まった。


 いぶかしげに俺達を見ている。

 俺はレディ=マホに頷くと歩き始めた。





 レディ=マホの歌が始まる。





 それは人間の歌とは違い、短節の金属音の様な高音がリズムとなって響く。

 歌というより、声を奏でているような音楽。

 そう。”俺の知っている”鳥の歌。




 歌いながらレディ=マホは俺の後を歩き始めた。




 そして4人の【歌うもの(シンガー)】も声を奏で始める。




 5人の【歌うもの(シンガー)】の声は、重なり合い、高低が絡み合い。リズムが同調し、ずれてまた同調する。




 その声が谷に反響し頭上から、音の雪が降ってくるようだった。




 俺は【歌うもの(シンガー)】の群れ前に到達するが歩みを止めない。

 【歌うもの(シンガー)】の群れは真ん中から割れて、俺に道を空ける。




 鎧の隙間から脇腹へナイフが刺さる。

 俺がその少女のような【歌うもの(シンガー)】を見ると、ナイフを放して後ずさる。




 更に進むとさっきの少女に顔を斬りつけられるが、ナイフを持つ腕を掴むと、相手はナイフを落とした。

 ナイフは俺の鎧で止まって刺さってはいない。

 俺の顔にもナイフの刃は届かなかった。

 それ位幼く見える【歌うもの(シンガー)】が奴隷兵士としていたのだ。




 俺たちは【歌うもの(シンガー)】の群れの中で止まった。





 レディ=マホを始め、【歌うもの(シンガー)】はまだ歌を奏でている。




   ※



 何が起きてるのだろう。

 つま先立ちで立つが、前の雄達の陰で何が起きているのか全然わからない。


 突然。目の前の雄が退くと、現れたのは敵の人間だった。

 じっと私達を見ている。


 その後ろには亜人が従って、歌を唄っていた。

 ホームの歌だ……。


 敵は武器も持っていなかった。

 でもその自信にあふれた姿が恐ろしくて、思わず脇腹にナイフを突き立ててしまった。


 殺される!


 しかしその人間は私を見るだけで何もしなかった。

 だから思い切って鎧に守られていない顔を指そうとした。

 ……届かなかった……。


 その人間は気にする様子もなく立っている。


 私……何をしてるんだろ……。

 お腹……減ったな……。


 見ると敵に従っている亜人が歌をやめていた。




 私たちは【亜人どれい】ではなく【歌うもの(シンガー)】】だと。




 敵の人間は私たちを自由人として【歌うもの(シンガー)】と名付けてくれた。




 武器を捨ててここから離れよう。




 私たちについてきて。




 信じられなかった。

 この亜人は奴隷じゃなくて自由人なの?

 騙されているのではないか。

 そう思った。


 私たちは騙されて売られていく。

 そう思った。

 今までいい事なんてなかったけれど、苦しみながら死ぬのも嫌。

 でも騙されて、またつらい目に合うのも嫌。


 思わず私はナイフを拾い上げて、突き立てた。

 その男は黙ったまま、何もせずに立っていた。


 ナイフは鎧に妨げられて弾かれた。


 それでも男は何もせずに立っていた。

 死にたいの?


 再び呼びかけた亜人が歌いだした。

 懐かしい懐かしいホームの歌。


 卵の中でお母さんが歌ってくれた唄。

 思えばその時が一番幸せだったかもしれない。

 少し懐かしくて、少し涙が出た。



   ※



 レディ=マホは何を話しているのかわからなかった。

 しかしその言葉を聞いて、再び目の前の少女が俺にナイフを突き立ててきた。


 俺を殺して主人に褒めてもらうのか?

 俺を殺して自由人になるのか?


 わからない。

 俺に出来る事は黙って、レディ=マホを信じる事だった。


 そして、目の前の少女が歌い始めた。

 目に涙を浮かべて。


 それは次第に広がっていき、谷から降る音は積もって歌になり、谷を埋めた。

 目を閉じれば満点の星空が奏でる音の様でもあり、雲が流れる音の様でもあり、水が天に昇っていく音の様でもあった。


 もっと聞いていたいが、時間がない。


 俺はモニオムに合図を出すと、モニオムが更に合図を送る。

 会社カンパニーの連中が、谷の壁沿いに【歌うもの(シンガー)】をよけて、丘へ駆け抜けていく。


 【歌うもの(シンガー)】が歌を止めてざわつく。


 俺もその少女を脇にどけて、丘に向かって歩き始める。



   ※



 やっぱり私たちは騙された。

 口をつぐんで歌をやめた。


 何度騙されれば済むのだろう。

 それは私たちが亜人だから?


 囲まれて殺される。

 その時はこの男も……。


 でもナイフは落としてしまっていた。


 人間に従う亜人が再び口を開いた。





 彼らは武器を持っていない。

 私達の元ご主人様を倒しに行く。




 これから武器を持っている人間も通る。

 彼らも私たちの元ご主人様を倒しに行く。




 もう私たちの主人は私達。

 私たちは亜人ではなく【歌うもの(シンガー)




 剣と槍を持った人間が壁沿いを駆け抜けていく。

 自然と後ろから押されて私は前に出る。


 もう後ろまで囲まれたのか。

 丘の方から恐怖が波のように伝わってくる。

 どんどん押されて、どんどん前に出る。



 酷い。

 ホームの歌で、私たちを浸らせてから殺すなんて。


 絶対に目の前の人間を殺してやる。

 とっさに落ちているナイフを再び拾って握りしめた。


 恐怖からか、後ろの亜人たちが争って谷の奥に進む。

 ナイフを掴んで地面に跪いたままの私は、このパニックに巻き込まれた。


 その時、殺戮を告げる大砲の音が丘からした。


 思わず座り込む。

 他の亜人達も言葉を失い、動きを止めた。







 「お腹すいたな……」



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 次回 亜人 殺戮


 2016年06月07日07:00公開予定


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