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異世界に来たけど義母が5人もいた上に結構ハードモードだった。  作者: 雨露口 小梅
第一章 撤退支援戦闘(ウィズドロワル・サポート・バトル)
12/212

◇09 亜人 砲兵 (アテェレェリィ)

 【国境・共和国側平原】


 自分が登らなければならない丘を見上げる。

 その丘の上では2人の男がこちらを見下ろしていた。


 あれが敵?


 後ろを見ると監督兵と正規兵たちが、自分たち亜人に向かって槍を構えている。

 こっちも敵。


 手にしたナイフを見る。

 これで敵の大剣に立ち向かわなければいけない。


 運が良かったのか悪かったのかわからないけれど、今までの戦いでも傷つかずに生き残れた。


 でも午前中に見た、あの雪崩のような正規兵の死体。

 あの敵は絶対に私たちを生かさない気がする。


 特にいいこともなかったけれど、これでこの世界が見納めだと思うと、ちょっと悲しくなった。


 おなか減ったな。



   ※


 【国境・王国側丘】

 【1日目 昼 固守残り2日と半日】


 丘の上から見ると、眼下に亜人の共和国奴隷兵が整列していた。

 俺が姿を見せたところで、砲撃のテンポが少し上がる。


 「中々いい眺めだな」


 リンヴェッカーが首をすくめて見せる。


 砲撃の火焔が見える。

 そして一拍置いて、金属の弾が地面をえぐる音。

 たいして近くはない。


 「あの奴隷兵の数をどう見る?」


 「まあ、500位でしょうから多くはありません」

 「装備も大したものが無いようですし」


 「ただ、亜人は力の強いもの、動きの速いもの。能力は様々です」

 「油断をしていると思わぬ損害を出すでしょう」

 「本当の脅威は、その後ろの共和国軍正規兵です」

 「見てください。大隊の横列が1段。その後ろに大隊の縦列が2つ。行軍形態です」


 「天幕も取り払ってあります」

 「そして補給の荷馬車も集結しています」


 真剣な眼差しで眼下の敵を見るリンヴェッカーを見る。

 改めて思う、暇していたなんて嘘だ。

 この散発的な砲弾の雨の中で、ずっと見張らせていたのだろう。


 「丘っていうのは便利だな。敵が見渡せる」


 「だから軍は丘に吸い寄せられます」

 「守る方も攻める方も」


 「なるほど。そうだな」


 「敵は奴隷兵の突撃の後、間をおいて横列を突撃させて来るでしょう」

 「この丘は狭いですから、2個大隊も戦闘させられない」


 「我々が奴隷兵と戦っている隙に、横隊が丘の斜面を確保」

 「我々が作る壁に空いた隙間に、縦列を突っ込ませて乱戦に持ち込む気でしょう」

 「そうなったら数が物を言います」

 「我々は揉み潰されて、誰も生き残らない」


 「見事だ。助かる」


 「いえ……。まだこの読み通りには……」


 「謙遜するな。感謝は素直に受け取ってほしい」

 「しかし、こう見え透いた布陣をするとはな」


 「それはこちらが丘にいるからです」

 「こっちは全てが見えていて、向こうは何も見えない」

 「正攻法で力ずく。丘取りはいつもそうなります」

 「だから、丘に上がられる前にどうにかしなければいけない」


 「ありがとう。戦の講義はまた後にしてもらう」

 「戻ろう」


 「はい。ご主人様マイロード


 まもなく攻撃が始まる。

 どうしたら生き残れる? 考えろ俺。


 「亜人たちの事が知りたい」



   ※



 「若旦那ぁ。そろそろあっしらの出番はありませんかね」

 「相手の屁の音ばかり聞いてたんじゃ、頭がおかしくなる」

 「こっちのが上にいるんだ。若旦那の命令さえあれば、こっちから屁をこいてやるんですがね」


 突然の事に俺はこの男を凝視する。


 「掌砲長! まだ待機だって言われてるじゃないですか」


 軍服ではなく、煤と油に汚れたシャツを肌蹴させた男。

 そしてスーツを着た男がその男を止めていた。


 「若旦那。すみませんでした。すぐ戻ります」


 自陣に戻るとまず起きた事件がこれだった。


 「だってよぉ。砲術長。こう待たされたんじゃ、俺の部下みんな酔っぱらって潰れちまうぞ」


 見ると掌砲長と呼ばれた男は革袋を手にしていた。

 酒を飲んでいるのか?


 シュラー達、護衛隊ガーズが苦笑してみている。

 俺はシュラーを手招きした。


 「こいつらは何だ?」


 「なんだと言われましても、ご主人様マイロードの母君が付けてくれた会社カンパニーの者です」


 「すまない。俺を記憶を失った薄らバカと思って説明してくれ」

 「こいつらはこの戦場で役に立つのか?」


 「我々護衛隊ガーズと思ってください。忠実な砲兵です」


 「ありがとう」


 こんなのがいたのか。

 全然視界に入らなかった。


 俺が若旦那だという件はひとまず置いておこう。

 砲兵か……。


 「お前たちの砲をもう一度見せてくれ。じきに出番になるぞ」

 「相手は1個連隊。3000はいるぞ」


 「そいつぁいいですな。あいつらのケツの穴に早くぶち込んでやりたいですなぁ」


 「掌砲長。それ位にして」

 「さぁ、若旦那。こちらです」


 「ご主人様マイロード。布陣はどうしますか?」


 シュラーが聞いてくる。


 「少し待て。ただ移動の準備はしておけ。あと、負傷者は後方の陣まで下げておけ」

 「シュールとツムは現時点の場所で待機。ここを捨てる事になるかもしれない」


 「モニオムが到着していたら、賓客と一緒にここへ。聞きたいことがある」

 「まもなく決める。まだ情報が欲しい」


 「もう時間がありませんよ」


 シュールが心配そうに俺に忠告する。

 わかってる。今の俺は戦の素人だ。

 しかし俺はこの集成大隊の責任者で指揮官だ。


 「わかっている」


 砲術長と掌砲長についていく。


 「若旦那。こちらです」


 「おい、お前ら! お前らが酒飲んでるかどうか、若旦那が見に来たぞ」


 待機場所に行くと、掌砲長と大して変わり映えのしない人間が思い思いの格好で寝そべっていた。


 「砲術長。砲の説明をしてくれ」


 「はい。若旦那」

 「ご覧のとおり全部で4門です。弾種は球弾、ぶどう弾、鎖弾です」

 「砲をおかに揚げたので、弾数はさほどありません」

 「全部自分で曳かなければならないですからね」


 「ぶどう弾、鎖弾」

 「どんなのだろうか」


 「簡単に言えば、たくさんの人間を木っ端微塵に出来ます」

 「まあ、弾種の選択は我々に任せてください」

 「人間に限定して、打て、でいいですから」

 「後は砲術長の私と掌砲長でやりますから」


 「まあ、そうだな」

 「任せる」


 「で、まだ待機ですか?」

 「いや、次の戦闘は厳しくなる。谷の入り口に並べてくれ」


 「つまんねぇなぁ。敵の真ん前じゃないのか?」


 掌砲長が酒臭い息を吐く。


 「真ん前になるよ。敵が殺到してくる」

 「槍士、剣士、弓士はお前たちの後ろになる」


 「おっほー! 流石若旦那。砲の使い方をちゃんとわかってるじゃねぇか」

 「突撃隊の後ろからチミチミ打つなんて、海の男がする事じゃねぇからな」


 「厳しくなったら全力で逃げるぞ」

 「生きることを優先する」


 「まあ、そこは文句を言いませんや。おかにはおかのやり方がありまさぁな」


 「しかし随分凝った砲だな。1門1門装飾が違うのか」


 「そりゃおかの砲とは違いますからねぇ」

 「装飾が多いから、1門作るたびに鋳型が壊れちまう」

 「だから高級品でさぁ」

 「良い体してるだろ? 上等な女のような肌触りだろ」


 「勿体なくて捨てられないな」


 一瞬沈黙が支配する。

 俺は何か間違ったか?


 「おい……。幾ら若旦那でも、言葉を気を付けた方がいいですぜ」

 「こいつを捨てていけなんて命令だしたら」

 「ここにいる全員、あんたを串刺しにしますぜ」

 「おかの連中と同じにしないで貰いたいですな」


 「そうか、済まなかった」

 「この大砲とお前たちの命を比べてしまった」


 掌砲長が厳しい視線を向けてくる。

 その目は只の酔っ払いではなかった。

 海の男と言ったか。ルールが違うようだな。


 「若旦那」

 「俺たちの命とこの艦砲は等価なんですわ」

 「この砲を捨てるときは、俺たちの命を捨てると考えてください」


 砲術長が俺の肩に手を載せて、事態を納めにきた。

 しかしその手は、白くなるほど強く俺の肩を掴んできた。


 「そうする」

 「掌砲長。今度この女たちの由来を教えてくれ」」


 「4人もいい女がいるんですぜ、一晩じゃ終わらないことを覚悟して下せぇ」


 「それは楽しみだ」


 「若旦那はまだボスの元で修行中ですからなぁ」

 「これも潮気でさぁな」


 何を前提といているのかは、今は理解できなかったが、戦術の幅が広がるのはありがたかった。


 「また、配置の変更があるかもしれないが、頼りにいている」

 「その時は宜しく頼む」


 「任せてください」


 砲術長が笑顔を返した。

 俺の事はまた後で聞こう。


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 次回 亜人 亜人


 2016年05月31日7:00公開予定


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