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第4話 vs征服のホムンクルス、モラン

 洞窟の出入口に陣取る四領主の一人のモランへ、テオボルドは睨めつけて言った。

「お前か、この島を牛耳っている一人は!?」


「左様。現在は島面積の四十パーセントを征服している。いずれは全土を我が手中に収めるつもりだ」


「そんなことして何をするつもりだ!?」


「いずれはこの島の外すらも征服するためだ。それこそが我が使命なり」


「その使命は一体誰のためだ!?」


「紛れもなく我がためだ。襲撃、戦争、制圧、占領、そして征服……この段階を辿ることこそ我が理想なのだ」


「そんな理想が正しいと思っているのか!?」


「左様。一切の曇りも無い……」


「なんでそれを正しいと……」


「貴様。どれだけ質問攻めをすれば気が済むのだ。我は余所者と議論しに来たのではないぞ!」

 この怒号に、テオボルドは一瞬痺れた。その背に隠れるブルータルゴリラは思い切りガタガタ震えている。


 先程の怒涛の質問は、テオボルドにとってはただの引き延ばしではない。

 彼はエルフ特有の魔力感知の優位性を使い、モランのステータスの閲覧を試みていた。

 そして先程の会話時間で調べ尽くした……真相までたどり着けないことを。


(名前が『モラン』ってことはよくわかった。だが、それ以外がさっぱりわからない……?

 なんだよ……【種族:ホムンクルス】って……)


 相手の得体の知れなさにテオボルドが戸惑う中、モランは隠れ里の住民全員に言い放つ。


「貴様らのような軟弱者でもわかるだろうが、奴はロスデモ島に侵入した者だ。無派閥といえどこの島の住民として、奴を断罪する義務を忘れてはおるまいな?」


 半数の住民が言葉に出さず返事した。自分の住処に閉じこもる形で。


「これだから軟弱者は……」

 モランは杖――魔術師や司祭が用いるような派手な装飾はない、持ち手と先に金属加工がなされた無骨なもの――で、地面の岩を突く。

 その音に呼応し、テオボルドたちを包囲するペンギンたちは、両翼を構えた。


「そこの猿。寿命をごまかしたければ、その侵入者をこちらによこせ」


「はぁ! ただいまぁ!」

 ゴリラはゆっくりと両手を広げて、テオボルドを羽交い締めにしようとする。


 テオボルドはそちらに一瞥もせずに、

「……恩知らずにも程があるだろ」


「だってぇ……モラン様には絶対に逆らえませんものぉ……!」


「だとしても、オレは逆らう気だが?」


「ど、どうして……?」


「単純につまらない死に方はしたくないからだ。あと、させたくもない」


「……う、うわあああ!」


 ゴリラは自棄気味に組みかかる。

 だがその前にテオボルドの裏拳がクリーンヒット。ゴリラは白目を向いて、ベンチにもたれかかった。

「うし、これで荷物が軽くなった……っとお!」

 刹那、テオボルドは手斧を一番近くにいたペンギンの脳天に打ち下ろし、徹底交戦の意を表明する。


「全隊、攻撃開始!」

 そう高らかに宣言した後、モランは踵を返し、出口へと上っていく。


「あれだけ偉そうに言っといて自分はスタコラってか……とんだ司令官様だこと」


 ペンギンたちは、合わせた両翼の右から、氷柱を連射する。なお、左の羽では低位の光魔法を使い、薄暗い洞窟内での視界の確保に用いている。


 まずテオボルドは、ベンチの影に伏せて、弾幕から隠れる。

 その射出音が幾分か減った刹那、頭を座面より高くして、【加圧ぼっくり】を軽く握りしめて投擲。


 この集会場に伸びる通路の一本を占拠していたペンギンたちを、爆風に飲み込ませた。


 そこからテオボルドは駆けて、モランを追う。

 次から次へとペンギンが隊列を組んで待ち構え、間断なく氷柱を放ってきた。


 幸い、その氷柱も魔法であり(【アイシクルシュート】という名前だった)、エルフの感覚で回避は容易だった。

 それでも数が多すぎるので、テオボルドは里の住民が置いていた物陰に隠れたり、それを盾にして特攻したり、好きあらば飛び道具で道をこじ開けたりして、出口へと進んでいく。


 一本道を駆け上り、あの大自然の門をくぐると、ペンギンの部隊だけでなく、ダチョウが三体待ち伏せている光景が目に飛び込んだ。

 

 テオボルドは左の口角を上へ持ち上げる。

「貴様の足跡はこれ以上この島に残さん」

 何故なら、ペンギンとダチョウの包囲陣のすぐ後ろに、杖を突きつつ切り株に座すモランの姿があったからだ。


「もう二フェーズくらい追いかけっこすると思ったんだが……多少の良心はあって嬉しいぜ」


「ネズミ一匹に一師団を運用するほど手は空いていないのだ……砲撃開始!」


 ペンギンたちの羽根を合わせた弾幕が展開される。こちらはここまでの道程で対策法は成立した。テオボルドは側転を繰り返してかわす。

 同時に、ダチョウ三体はその太い首をゆっくりと前に傾けて、クチバシを開く。

 するとそこからメロンほどの大きさの岩石が勢いよく射出された。


「だと思った! 首が大砲みたいに太いんだからよ!」

 うち二発は側転を続けて回避し、それが間に合わなかった一発は、斧を振りかぶって受けた。

 ジーンと振動が体幹まで響く。これはもう真っ向から受けない方が良さそうだ。


 腕を振って衝撃を逃がしてすぐ、斧から短弓に持ち替えて、矢を二発射る。間髪を入れず、軽く握った加圧ぼっくりを投擲する。

 その狙いは左斜めにいるダチョウ。両脇にいたペンギンは矢で牽制して、安全に松ぼっくりを当てて、爆炎を巻き起こす。


 怯んだペンギン二体は丸焦げだった。だがダチョウは、多少羽毛が燃えただけ。クチバシをパクパクさせて次の砲弾の準備を続けていた。


「頑丈な奴だな……だったらこうだ! 【グラスカッター】!」

 テオボルドは地面スレスレの低姿勢に構えて、斧を突き出し、左斜めのダチョウへ突進。


 足に刃を叩きつけるも、多少揺れた程度で、有効打にはなっていない。だが、近づけた。

 テオボルドは首に掴まり、その巨体に似合わず軽やかにジャンプし、ダチョウの上に乗る。

 そこから無理くり首を曲げて、隣にいたダチョウに向けた。


「味方に撃っちまえ!」

 テオボルドが斧の頭を叩きつけた拍子に、ダチョウは岩石弾を発射。

 誤射を恐れて停止していた隣のダチョウの顔面に命中。相手は目を回して倒れた。


 だが、隠れ里の入口から見て右斜めにいたダチョウは、テオボルドのみに命中するように角度を調整して、勢いよく砲撃を繰り出した。


「お前にはこれをくれてやらあ!」

 テオボルドは短弓を目一杯引き、弦を離す。

 一本の矢は岩石砲弾の真上スレスレを過ぎり、緩やかな放物線を描いて、右斜めのダチョウの口内に突き刺さった。

 そのダチョウはたちまちパニック状態になる。

 周りにいたペンギンを誤って踏みまくったのち、近くの木に頭を打って倒れた。


 テオボルドはさらに矢を連射して、残りのペンギンを黙らせてから、騎乗中のダチョウとともに、切り株に座るモランへ向く。

「休憩時間はおしまいだ、モランッ!」


 そして斧の頭でダチョウの身体を打ち、岩石弾をぶっ放す。

 直後、ダチョウは目を回して吹っ飛び、洞穴の脇の壁に激突した。

 テオボルドも連動して跳ね上がった。身体をひねって反動を調整して、密林の草地に着地する。


「休憩などしていないぞ……」

 と、モランは切り株の上に片膝立ちし、杖を構えた。

 その構えは、持ち手を右肩にあてがい、先を正面に伸ばす独特のものである。


 このモランの姿と、テオボルドの脳内に納まっている、ある新聞の記憶が結びついた。

(あれは『銃』の構え方だな……ギャングェイジに量産中止されたとかいう記事を見たことがある……)

 ギャングェイジ……第五次魔王戦線期前半の通称。

 近年の大型軍艦に搭載されることの多い、起爆性のある魔石を利用した鉄球を撃ち出す兵器『大砲』を小型化させたもの。それが『銃』だ。


 仕掛けを一つ引くだけで誰でも中級魔術師に匹敵する威力の遠距離攻撃を使うことができる夢の武器と、製造元のギルドは喧伝していた。


 だが、弾を撃ったあとの隙や、高速で接近する敵への対処のしづらさ、そして遠距離からの暗殺などに悪用される恐れなど、問題が山積みであった。

 その懸念から国家連盟で、研究元のギルド諸とも消滅させられたロストテクノロジーでもあった。


 テオボルドは右手に斧を、左手はカバンの中に入れて身構えつつ、考察する。

(それをモランは持っているのか……? いや、違う。だとしたらおかしい。魔力の反応がなかった)

 もしあの杖がその銃なら、中にある魔石が起動して、一瞬の魔力の運動が起こるはず。それをテオボルドは感じられたはずなのだ。


(ならもしくは、たまたま銃っぽくトリッキーな構えをしているだけで、魔法を撃ったのか? いや、それもおかしいぞ……)

 付近で白目を向けるダチョウが食らったものは、ある程度予想がついていた。

 己の目には空気の揺れ動きしか見えなかったのだから、不意打ちに特化した風魔法あたりだろう。と。

 だが、確信が全く持てない。風『魔法』であれば、こちらも魔力の反応があるはずなのに、これもないのだ。


 それに詠唱無しで、あの頑丈なダチョウを一発ダウンするだけの威力を出せることも不気味である。スキル名を言わずにアクティブスキルを使うと、隠密性は確保できる利点もあるが、威力が落ちてしまう。

(さてはモランは……相当なレベルの魔術師なのか……てかあれ、あいつの能力盤にその記述あったか!?)


 再び視界にある空気の一箇所がかすかに揺れる。魔力の反応はやはりない。

 得体のしれないものに触るとろくなことにならない。田舎の老人たちから、耳だけでは飽き足らず、もみあげ辺りまで腐るくらい聞いた格言に従い、首を傾げる。

 背後の岩肌に、ぶどう一粒大の穴が開いた。


「何がともあれ、この間合いはまずい!」

 テオボルドは両手を地面につけた状態から、両足を力強くピンと伸ばし、凄まじい初速を纏って走る。

 モランの構えた杖から一筋の空気の歪みが生じた。その瞬間に合わせて前転をして、背後の地面に穴を空かせる。


 その一瞬ののち、腕と斧を足した距離にまで、モランと詰め寄ったところで、

「【アックスバースト】!」

 魔力を注いで打撃性を高めた斧を、モランめがけて振り下ろす。

 モランが涼しい顔をしたまま、中間よりやや前に左手を添えた杖の先を向けてくる。


 直後、バケツ入りの砂利を勢いよく浴びせられたようなダメージを胴に受けて、テオボルドは尻餅をついた。


「ふんッ!」

 モランの杖の一突きを、テオボルドは間一髪で地面を転がって回避する。ついでにこの勢いを活かして、立ち上がる。

「なんだよ! あの不可視の弾には相応のチャージ時間があると思ってたのによ!」


「勝手に勘違いした貴様が悪い」


「じゃあもう引っかかってやらんぞ!」


 当分の間、短弓の出番はお預けだ。

 テオボルドは手斧を細やかに振りつけ、モランに近接戦を強いる。

 だがモランはそれに堂々と乗ってきた。

 長く持って剣のように、短く持って棍棒のように。杖という武器の『どこを持ってもいい』という性質をフルで活用し、なかなか刃を当てさせてもらえない。


(これで一つ気づいた。モランは魔術師じゃない)

 ジョブというのは、本人が生まれた時点で最も得意とする戦闘の系統を表したもの。

 訓練次第で変更も出来なくはないが、かなりの労力と時間がかかるため、無理をせずにそれを極めていく者が多い。

 例えば、【魔術師】は【戦士】などの物理系のジョブの倍、肉体と武術の強化を要してしまうし、何よりもステータスの物理防御力が簡単に伸びてくれないのが痛い。など……


 だからモランは、魔術師の範疇に納まっていないのだ。

 なら魔法と物理を両立できる【勇者】や【魔法剣士】の可能性も考えたが、それではあの高威力の技の説明がつかない。


 戦えば戦うほど謎が深まるばかり……テオボルドは、肉体よりも頭のほうが疲れていくような気がした。

「ったく、大体なんだよ【ホムンクルス】って! 流行りのお菓子かなんかか!?」


「黙って戦えんのか貴様は!」

 モランはテオボルドの斧の刃と柄の間に杖を引っ掛け、力ずくで手放させた。

 すかさず杖を、先のやや手前に左手を添えるあの構えにする。


「テメエが白状すればいいんだっての!」

 テオボルドは空いた両手で、モランの左手を杖ごと掴み、上へ逸らす。

 頭上で空気が揺らめいたのを見るや否や、左手を持ったままモランの背後へ周り、再び左手を持ち上げる。


 カラン、と、杖が落ちる音が地面から、ゴキッ! と、重く濁った音がモランの左肩から鳴った。

「やってくれたなッ!」

 左腕をダランと垂らしたまま、モランが右拳をテオボルドの顔面へ突き出す。

 

 テオボルドは眉一つ動かさず両手で受け止め、軸足で九十度回転。

 前腕部めがけて右膝を突き上げ、手首と肘の間にもう一個の屈折箇所を生み出した。


「こっちは命のやり取りしてんだ……ぜ!」

 トドメに左足で、刈るような回し蹴りをモランの後ろ首に刺す。


 モランは勢いよく足元の土と苔を舐めさせられた。


「……何かしら聞き出しておきたかったが……まあ、まだ三人いるからいいか……」


 テオボルドは両手の汚れを払う素振りをしたあと、落とした斧を拾うために屈む。


「そんな甘い考えでは、我には勝てぬ!」


 直後、テオボルドの左側頭部に電撃のようなものが走った。

 モランの膝蹴りが炸裂したのである。


 テオボルドは斧の回収も怠らず、受け身を取り、モランへの注意を向け直す。

 テオボルドは、一瞬、さっきのショックで幻覚を見始めたのではと勘違いした。


 まず、ありえない方向に曲がった首を、真っ直ぐ伸ばし、何事もなかったように前後左右に振った。

 次に、後ろ方向に上がりすぎた左腕を、グルンと前へ回転させて空へ掲げた後、自然に腰脇へおく。

 そして、三つに増やされた関節が二つに戻った右腕で、手放した杖を拾い直していた。


 その間、モランはテオボルドへの侮蔑の眼差しを止めなかった。

「たまには我からも質問せねばな……何故、この程度の負傷で我が、死ぬと曲解した?」


 テオボルドは、手と腰を土につけた体勢のまま、歩幅十歩分ほど後ろに退いた。


【完】

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