第35話 異端たちの楽園
「……!? ま、魔王が来るぞー!」
「撤退ー! 全軍てったーいッ!」
「あんなの相手してられるか、あんなの!」
オオダクツナの突然の接近に、勇者軍たちは、これまで戦っていた相手に背を向けて、上陸に用いた船の方へと、迅速に退却していく。
だが、ロスデモ島の魔物たちは勝手が違う。撤退位置など定めず、ただ前の敵に立ち向かうことだけ考えていた彼らは、たまらず焦燥し、お互いがぶつかり合ってしまうほどの混乱に陥ってしまう。
「アンタら! 勇者の方でなければどこでもいい! とにかく逃げろってのー!」
このベルゼブブの声をかき消すように、オオダクツナは雄叫びを上げ、三本の剣を振り下ろす。
「させるかァァァーーッ!」
だがその前に、パトロクロスが跳んで駆けつけた。
拳を突き上げ、噴火のような火柱を起こす。
氷と雷の剣はそれで弾いた。だが、火剣はその火柱を両断して、パトロクロスを間近で照らす。
「だったらこれで止めればいい! 『エイダンパーンチ』!」
パトロクロスは放った火柱を全て、鉄輪をはめた右拳に凝縮し、最後の刀身に叩きつけた。
「ぱ、パトロクロスさぁぁん!」
エウポルら魔物たちは、その輝きに照らされながら、パトロクロスの勇姿を見守る。
やがて、オオダクツナの腕が一本焼き消えた。奴の大技は炸裂寸前で防ぐことができた。
だが、それと同時に、パトロクロスは、全身を煤だらけにして、その場に倒れた。
彼のHPは、一だけ残っていた。だが今の彼は、到底起き上がれる気配がない。
「パト、ロクロス……殿!」
「パトロクロスさん……!」
「パティ……!」
オオダクツナは崩れた腕を得物と共に再生していた。
一同はその事実に構うこともできず、島の一員の死を受けて、沈黙せざるを得なかった。
だがその時、残っていたHPが、途端にゼロとなる。
「……ユーシャは、ユーシャは……簡単には死なない!」
パトロクロスは拳を突き、堂々と立ち上がった。全身を――鎧ではない生身の部分までも、全て燃え上がらせて。
「そしてユーシャは、最後の最後まで、仲間を守るためにいるんだァーーッ!」
パトロクロスはHPが四分の一減るたびに、段階的に強化できる。
これはその第四形態……当人が己の死期を受け入れ、捨て身で総力を引き出した姿である。
パトロクロスは炎の噴射で飛び上がり、オオダクツナに急接近。そして力の限り鉄輪を装備した拳を振るい、付随する炎とともに、魔王の身体のあちこちを傷つけていく。
「何を黙って見ている……我らも続くぞ!」
「は、はい! モラン様!」
「めんどくさ……なんか言うもんか!」
パトロクロスの猛攻に続き、他三人、さらには魔物たちもオオダクツナへと一気呵成に攻め立てた。
オオダクツナは反撃もままならず、一方的に攻撃を浴びる。だがその再生能力が、ロスデモ島に勝利を頑なに譲らない。
そして、オオダクツナの再生力の逆を行くように、パトロクロスの炎は急速に弱まっていく……制限時間が、迫っている。
それでもパトロクロスは、ただ拳を打ち付け続けた。
「うおおおおお、おれは、おれは、ユーシャ、パトロクロスだぁああああ!」
やがて全身が再び黒く染まり始めた刹那、パトロクロスは自身に宿る全ての炎を右拳に注ぎ入れ、
「【パトロクロスパンチ】ィィィッ!」
太陽が二つ現れたと見紛うほどの爆炎を帯びた拳を放った。
これまでどれだけダメージを受けても、何事もなくただ再生させていただけのオオダクツナが、初めて悲鳴らしき悲鳴を上げて、大きく仰け反る。それでも、全身の傷を回復しながら、体勢を立て直す。
「ぱ、パトロクロスさああああんッ!?」
二つの鉄輪が、虚しく音を立てて地面に落ちる。
同時に、パトロクロスは全身が灰となって、粉々になって消えていった。
「……この程度じゃ死なれちゃ困るっての……パティ!」
ベルゼブブは元より操っていた砂に、パトロクロスの灰を混ぜ込み、刃にするなり弾にするなりして、矢継ぎ早にオオダクツナへぶつけた。
本物の攻撃と比べて威力は遥かに劣る。だがオオダクツナの苦悶は、それと同等であった。
仲間の遺志を受け継ぐ。そのベルゼブブの覚悟が、心無きオオダクツナにも届いたように。
その連撃の最中、ロシュフォールとモランは早口で言葉をかわす。
「見えましたですかモラン様」
「ああ、見えたぞ……やはり奴は不死ではない」
二人は崩れては直るオオダクツナの体の中の、人で言う頸髄の芯にあたる場所に、一本の刀を一瞬見た。
腐敗的な見た目の奴の一部にしては、異物感溢れる無機物。それは構成する核以外の何物にも見えなかった。
「ではモラン様……あとはお願いします」
「何をだ?」
「そういう軍事的な肝は貴方以外の誰におまかせすればいいのですか?」
「……そうだったな、ロシュフォール殿」
モランはオオダクツナの動きに警戒しつつ、杖を構え、過去最高の精度を目指して、魔弾を作り上げる。
「さあさあ、ここが最大のデモンストレーション時でありますのですよ!」
ロシュフォールは残るゴーレム七騎を全て動員し、オオダクツナを撹乱。彼自身も、その背に次々と乗り移って、自慢の剣技を浴びせ、三本の腕を切断し続けた。
そして、ベルゼブブの砂の斬撃が、確実にオオダクツナの顎の下を捉えた。
首の皮一枚残すように、頭と体を辛うじて繋ぎ止める、一本の鈍い鋼の輝きが露わになった。
「さらばだ……」
モランはそこに、冷徹に一発の魔弾を撃ち込んだ。
空気を割るような音が、この戦場に響く。
オオダクツナの核は、刃の根元から刀がへし折れていた。
たちまちオオダクツナの身体は、黒い粒となって崩壊し、まるで天に召されるようにしばし空を漂ったあと、全て消え失せた。
「……ありがとう、パトロクロス」
ベルゼブブは、オオダクツナよりも先に送り出すつもりで、パトロクロスの灰を天空へと撃ち出した。
モランとロシュフォール、そしてロスデモ島の魔物たちは、己のユーシャの最期の姿を、ただ見送った。
ここで勇者軍に号令が放たれる。
「攻撃再開! 奴らは魔王戦後で疲弊している!」
「一体は自滅したが、残り三体は確実に捕らえられるぞ!」
「今こそチャンスだ! 全軍かかれーッ!」
彼らにパトロクロスへの追悼を行う義理はない。
勇者軍はたちまち反転して、手負いの手柄を求めて殺到した。
その中の一番槍を求めた一人の勇者が、炎を纏わせた拳によって倒れる。
「よし、うまいこと火を付けっぱなしにできたぜ……」
エウポルは、青い炎を帯びた己の右拳を一瞥する。その人差し指には、パトロクロスの得物の鉄輪がはめられていた。
「俺たちは貴様らができなかった魔王討伐さえも成し遂げたんだぜ! なのにお前らはここを未だに『狩場』とか『宝物庫』のように見下しやがって……お前らなんか勇者でも何でもねぇ! 俺たちロスデモ島の仲間が、その性根を叩き直してやる! 覚悟しろ!」
「「「おーッ!」」」
珍しい魔物たちが、改造魔物たちが、人獣たちが、恐竜たちが、エウポルの言葉により奮い立ち、勇者軍へと反撃を開始した。
「……なんでアイツが引き継いでんのさアレ」
「いいこと言ってくれたと某は思いますが、彼では、ね……」
「エウポルにゴチャゴチャ言うな。ほら、我々も続くぞ!」
三人のホムンクルスたちも、それに続いて行く。
*
勇者軍軍艦の上では、ハザとリクゴーパーティーの戦いが続いていた。
片手剣を掲げ、そこに銀色の光を集めるハザを睨みながら、リクゴーは、出立の直前に聞かされた師匠の言葉を思い出す。
『ここだけの話なんだけどね、シモンズ海賊団の船長は、どうやら勇者奥義を三種類も使えるらしい』
『三種類もですか、エイダン様でも二種まででしたというのに……?』
『本当に私もビックリだよ。もしこの情報が表に出たら、ますます世がこんがらがるだろうね。
だからこそ、君には彼女を最優先に撃破していただきたいのさ。類似の能力を持つ君となら、いい勝負になるだろうからね』
『かしこまりました、師匠』
『ああと、優秀な君なら間違えることはないと思うけど……撃破だよ、撃破。あんまりいい言葉じゃないけど、「殺す」ってこと。ホムンクルスたちとは違ってね……』
リクゴーは剣先を二本の指の間に挟む。彼の剣は再び神秘的な光に包まれた。
(極稀に才能あるものが会得する特殊スキル【勇者奥義】。それには通常のスキルとは明確な違いが存在する。
魔力。この世のありとあらゆるところに在り、アクティブスキル使用時に取り入れて用いるエネルギー。
だが魔力には、吸収はおろか、認知もできないものも存在する……それがエーテルだ。
勇者奥義はこのエーテルを、理由もわからず吸収して体内で爆発させて発揮できる。だから極稀な才能がいるのだ。
そして私は、そのエーテルを感知し、意図的に、計画的に吸収することが可能……!
これによって私は、何度でも勇者奥義を発動できるのだ! そう、何度でも!)
リクゴーの眼光が鋭く輝く。その瞬間、彼は剣を振るった。
「勇者奥義【最上霊刀・魔王切理久業】!」
「勇者奥義【レヴィアターン・キリアルホス・ティス・サラサス】」
神秘の斬撃と、海竜を模した斬撃が、二人の間で激突する。
海竜が刃を飲み込み、そして自滅するように、ハザの攻撃は消滅する。
だが勢力は大幅に減少していた。ハザは、剣と盾を合体させて、その刀身で受けた。自分が飛び出した穴の手前まで押され、ようやく刃は消える。
「待っててくれ、ダイオン、アガタ……もうじき君たちの出番も来る……」
(奴はあと一回しか勇者奥義を使えない。このまま私の勇者奥義を連発すれば……!)
空に魔法陣を描くように剣を振り、そして右手の指二本で剣先を捉える。
この儀式的な予備動作を終えた後、リクゴーは己の身体にエーテルが満ち満ちるのを実感しながら、言い放つ。
「勇者奥義【最上霊刀・魔王切理久業】ッ!」
リクゴーの技術と智学を全て活かした究極の斬撃。それが、二発目を防いだばかりのハザへと飛ぶ。
そしてそれは、ハザの手前で、霧のように消えた。
「……は?」「なん……」
「ど、ど、どういうことだァァァ!」
こういうこと。と、言う代わり、ハザは瞬く間に銀色の光を湛えていた盾の裏の、銃口部分を空へ掲げる。
「勇者奥義【シス・ドミナドール・デル・シエロ】」
発射されたこぶし大の魔力の弾丸が、みるみるうちに増えていき、やがてそれら全てが、この戦艦とその周囲全体に、流星群の如く降り注ぐ。
「……【リフレクションブライト】!」
ダイオンが展開した五角形のバリアに隠れながら、アガタは怒鳴るように尋ねた。
「どうなってんだよリクゴー! アンタの勇者奥義はどんな敵にも効くって話じゃなかったのか!」
リクゴーは、自分が知るありとあらゆる通常魔法を駆使し、迫り来る弾丸を相殺しながら、
「それは私が聞きたいくらいですよ! 決定打にならないことは多々ありましたが、まさか無効化されるのは初めて……!」
その瞬間、リクゴーの頭に、師のヨハネスの声が響いた。
(((ここで一つ解説を入れるとしようか。
彼女もどうやら、エーテルを認識できる才能に目覚めてしまったようだね。
勇者奥義を三つも使える時点で、その兆候はあったようだけど、君がインスピレーションを与えてしまったみたいだ。
そこから彼女は、君よりも更に一歩先を行った。相手の勇者奥義に含まれるエーテルを分解して自身に取り込んだんだ。
だから溜め時間をほぼゼロにして、これを撃てたみたいだね……)))
どうしてこんな一大事にそのような情報を与えるんだ。
リクゴーは、こうした怒りを、代わりの質問に転化させて、師匠にぶつけた。
「何故師匠はそんな有り得ない理論を、今ここで解き明かしたのですか……!?」
(((教えて欲しければ今から僕の質問に十個答えてくれ。まず一つ、君は僕から何を学んで来たのかね?)))
「すみません。今は忙しいのでまた後ほど!」
リクゴーは師匠からの思念を閉ざし、防御に専念した。
やがてハザの勇者奥義は止んだ。
この戦艦はもはや航海不能なのはもちろん。リクゴーは激しく気力を消耗し、パーティーメンバーの二人は実力及ばず、瀕死の状態になっていた。
ハザはまず二人を片付けるべく、そちらに駆けた。リクゴーは横から飛び出し、彼女との剣戟へともつれ込んだ。
「ダイオン! 早く回復をよこせ! さもないと私たちは終わる……!」
「す、すまん……リクゴー、俺はもうアカンわ……」
「アタシも……悪いけど、リクゴー……アンタが……!」
リクゴーは仲間にも構うことをやめた。
(この場はなんとしても私が治めねばなるまい!
勝つのだ。私は勝つのだ! この師匠に名指しされるほどの異常な存在を討ち取り、リクゴーの名を今一度大陸に轟かす!
そして『偉大なるヨハネス・フィンチャーのおこぼれにあずかって勝てただけの若造』と、揶揄した愚か者どもを見返すのだ!
私は、リクゴー・マリノフスキなのだァァァ!)
リクゴーはジョブとしての【勇者】らしい、巧みな剣術と魔術の連携を駆使して、目の前の敵に立ち向った。
だがハザは、それも凌駕していく。勇者奥義を抜きとしても、彼女の戦闘の才能は、リクゴーには越えられなかった。
アガタが敵を弱らせ、ダイオンが強化を施し、そしてリクゴーが勇者奥義の連発で大ダメージを与え続ける。
これが五代目魔王オオダクツナを討ち取った、リクゴーパーティーの必勝法であった。
だが、そうした準備がいる戦法には、敵に一度優勢を取られた際、立て直しがいるという弱点が存在する。
そこをどうにかしていたのが、ヨハネスだった。
勇者の大先輩として、師匠として、戦局把握と場面制圧に勤しんでいたのだ。
彼がいなければリクゴーパーティーは大したことはない。ということでは決してない。
その原則を蔑ろにしたから。というわけでもない。
「あまりにも学者らしからぬ、俗っぽい結論だけど……彼には運が無かったんだ」
己の書斎で、柏手を打ったあと、ヨハネスは士官学校の長としての業務に戻る。
攻撃の合間にダメージを刻まれ、リクゴーの動きは徐々に、破れかぶれのような乱暴なものに変わっていく。
そこにハザはさらなる攻撃を打ち込んでいった。
「うおおお! 私は、私はリクゴーだあああ! なのに、なのに、貴様は一体何者なんだあああ!」
両目と鼻と口の皮が裏返る寸前まで全開にして食らいついてきたリクゴーの眉間に、ハザは盾銃の銃口を突きつける。
「シモンズ海賊団真船長、ハザですの」
リクゴーの凄絶な死に様を見ていたのは、彼女一人だけだった。
*
「撤退命令ガ出タゾー!」
「オオダクツナ様ガヤラレタノダー!」
「モウコンナ島ニ付キ合エマセンワ!」
魔王軍たちが続々と、港町から逃げていく。
そんなことはつゆ知らず。テオボルドとナリトモの一騎討ちは続いていた。
「【幻雪の陣】!」
ナリトモが、自身の分身を二つ作り出す。テオボルドは三方向から囲まれ、突進された。
「【ディアスポ……じゃなくて、こうだ!」
テオボルドはそのうちの、真正面から来たナリトモへ、斧を叩きつける。他の二つはテオボルドの身体を通過したあと、たちまち消えていた。
ナリトモは刀を目の上辺りにかざし、斧を受け止めた。
「よくぞ見破ったな……」
「全方位攻撃を仕掛けたとき、妙に前の奴が嬉しそうに見えたからな」
テオボルドは再び斧を持ち上げ、二度目の振り下ろしを繰り出した。
ナリトモは背後へ逃げようとしたが、それを呼んでいたテオボルドは、振りかざしと同時に柄を伸ばすようにしていた。その先で斧と刀が金属音を鳴らす。
そしてナリトモの目の前……テオボルドの斧頭で爆発が起こる。テオボルドは斧頭に加圧ぼっくりを仕込んでいたのだ。
煙が晴れると、ナリトモは刃こぼれした刀を投げ捨てながら、たたらを踏んでいた。
テオボルドは一旦、斧を手放し、短弓で一本の矢を射る。
それがナリトモの脇腹に刺さるや否や、彼は操り糸の半分が切れた人形のように、その場で片膝を突いた。鏃に塗っていた麻痺薬が無事浸透してくれたようだ。
「……意外と呆気なく終わりそうだ。これもまた、オレへの罰なのかもな……」
と、悲しげにボソリとつぶやく。だがその間も、テオボルドはアーティファクトを強く握るのを忘れていない。
「……どうする、ナリトモ。戦うか? 介錯でもするか? どっちか好きなのやるぞ」
「……戦うさ」
「そっちか。だけど、生憎、オレは敵に塩を送る趣味は無いからな」
ナリトモはへたり込んで座る
「結構……それ相応のものが、今に来る」
「……!?」
それをナリトモに言われて、テオボルドは自分の魔力感知の感覚を研ぎ澄まし、久々に周りの状況を探知した。
だが、結局目視で十分だった。
直後、ナリトモの手前に、刀が転がってくる。 刃がごっそり折られ、鍔と柄しか残っていないが、それだけでも禍々しさを醸し出す代物だ。
「テオボルド……お前がエルフとして魔力感知が得意なように、俺たち【種族:鬼】の特性を知っているか?」
テオボルドは、辛うじて思い出した。
「……ガッツリと直に触れた魔物の力を、一時的に奪うこと。けど、まさかそれを魔王に使うって……!」
ナリトモは、痺れる右腕を根性で制御し、その柄を握りしめた。
「お誂えだろうな。
俺はお前を歴史に残る巨悪にさせないために来ている。
魔王の力に呑まれた俺が討ち取れば、大陸の者たちは、よりその記録を残すのに躊躇するのだろうからな!
それにだ……禁忌の武器を手に取ったお前と、魔王の力を得た俺……これでようやく対等の死合と成る!
これなら呆気ないとは言えないだろう……テオボルド!」
テオボルドからは、ナリトモの全身に、黒い影が纏わり付くように見えていた。
強大な魔力が、彼の全身に満ち満ちる。これまでの負傷が全て上書きされていく。
そしてナリトモは、再びテオボルドと目線の高低差を縮めた。その手には、魔力による黒い刃が、轟々と伸びている。
「これで仕留めてやるぞ……異端の勇者、テオボルドッ!」
テオボルドは、その目線を漆黒の刀から、ナリトモの三原色入り混じる眼光へと移し、そしてアーティファクト【隆盛を敷くトキワ】を構えた。
「殺してみやがれ……使命の魔王、ナリトモォ!」
複雑に絡み合った因縁。その全てに今度の今度こそ、決着をつける。
テオボルドとナリトモは、お互いの意地や信念をまとめてかけて、各々の得物をぶつけ合わせた。
【完】




