第31話 超絶大集結XENO
突如司令部に殴り込んだ部下の紹介を代わってあげた後、当人――オリヴァーへと、キルデリクは目を合わせる。
「それで、君の質問については『真実』だ。テオボルドは……ロスデモ島の盟主を自称して、勇者軍との対決を望んだ。
もっとも、魔王軍に堕ちることも拒んでいるようだった。これがマシなのか尚更ダメなのかは君の判断におまかせする」
「……そんな! アイツが、まさかここまでのことをするなんて……!」
オリヴァーは後ずさり、壁によりかかり、そして床にへたり込んだ。
直ぐ側の開いた扉から、一対の角を生やした忍者が、腰を抜かしたオリヴァーを無言で見つめている。
彼と同じくテオボルドの元仲間、ナリトモである。
「……やっぱり僕のせいだ……僕が軍の命令に簡単に従わないで……アイツを引き止めていれば……」
やがて見かねたナリトモは、オリヴァーの手を引き、無理やり立たせた。
「……司令部だぞ、ここは」
「ああ、わかってる、わかってるさ……」
二人の側面から、リクゴーは尋ねた。
「それでオリヴァーさん、貴方はただテオボルドの決断を聞きに来ただけなら、早々にお引き取りを……」
オリヴァーは、リクゴーの肩とぶつかったことを気にもとめず、キルデリクの机にしがみつき、懇願する。
「キルデリク様、どうかお願いです! 僕にロスデモ島の制圧作戦の先鋒を任せてください! それから、できることなら、どうか、どうかテオボルドの助命を許してください!」
あの理不尽な軍の通達をそっくりそのままテオボルドに伝え、彼を追放してから、オリヴァーは苛まれていた。
世界の平和のために懸命に戦っている人たちよりも、その後ろにいる顔も知らない人たちに従って仲間を捨ててもいいのか。と。
優秀な新メンバー、ルイーザを得て、カルキリッパーの占領地の奪還などの大手柄を重ねてもなお、その枷は彼の心を締め付けていた。
勇者として……いや、人間としての使命を取り戻すのは、今しかない。
「お願いします! もしダメというのなら! 僕は勇者軍の籍を抜けてでも、アイツを人の道に戻します! ですから……お願いです! キルデリク様!」
「……」
キルデリクは目を丸くし、オリヴァーの熱い眼差しをまじまじと見つめた。まるで自分の若い頃を重ねたように。
それはそれとして、リクゴーはオリヴァーの肩に手を置き、彼を振り向かせて、
「オリヴァーさん。貴方も本作戦から撤退して頂きます」
「え……」
「は……」
「なっ……」
リクゴー……現ロスデモ島制圧作戦の指揮官は、滔々と語る。
「理由は三つ。
一、彼はテオボルドと特に親しい間柄であり、戦場で利敵行為に走る恐れがある。
二、彼は本件の重大性を理解しておらず、任務に集中できない可能性がある。
三、彼は軍内で可能性を持つ存在であり、このような作戦で汚名を背負うのは大きな損失となりうる。
以上です」
「え……ええ……そん……」
オリヴァーはうわ言のようにつぶやきながら、目の焦点を迷わせる。
キルデリクは速やかにオリヴァーの側へと移り、彼に寄り添う。どちらに陥ってもいいように、彼の身を守るために。
「質問はございませんね。では私は速やかに統率の準備を……」
今度こそ、リクゴーは司令部の外へ出ようとする。
だがそこで、
「俺には質問がある?」
ナリトモがまともな台詞を発した。
「……なんです?」
「オリヴァーのパーティーメンバーである、俺たちはどうなる?」
リクゴーは、右手人差し指と中指をこめかみにあてがい、しばし逡巡を挟んだ。
「……貴方がたは参戦を許可します」
「……俺も奴の仲間だったぞ」
「ですが、手の内を知る人間も用意しておく必要がありますから。何なら、今から彼の情報について提供していただけますか、鬼様?」
「……承知した」
リクゴーはナリトモを引き連れ、ようやく司令部を後にした。
蚊帳の外に放り出された二人は、その後姿を虚しく見つめることしかできなかった。
*
わずか三十分後にして、勇者軍は基地から六隻の軍艦を出航させ、ロスデモ島への本格的な攻撃を開始した。
島周辺の海流は複雑怪奇であるが、そのための軍艦。
勇者軍は荒波を物ともせずに進み、島の南部の海岸を見据えていた。
船団の最奥にある旗艦から、指揮官のリクゴーは言い放つ。
「上陸まで決して気を抜かないように! ロスデモ島はエアフォルクの実験場! 過去の押収記録からは、副産物的に不可思議な魔物の開発も行っていたという!」
五代目魔王の討伐経験と学園での知識を併せ持つリクゴー。彼の警鐘はすぐに効果を示す。
船首の反対側から、人形が両手をグルグル回し、泳ぐように推進してきたのだ。
「海戦用の人形モンスターとは、珍しい。あの水しぶきの高さなら、相当な力を持つようです。
なるべく船に近寄せずに撃破しなさい」
人形モンスターたちは両腕からビームを船上へ放出したり、電撃を纏わせた拳で船体を殴りつけたりするなどの仕掛けを披露した。
どちらかと言えば人形モンスターは妨害を得意とする。
それにそぐわぬ攻撃性に意表を突かれたことにより、勇者軍艦隊最前列の一隻が、前方にめり込むように半壊した。
「そこまで水深もないでしょうから、そちらはもういっそ泳いで上陸しなさい」
計画よりやや早く勇者軍の先発部隊が、砂浜に降り立つ。現時点で海岸に伏せている敵勢力は見受けられないが、リクゴーは全軍へ再度警戒を促す。
「目視二百メートル程度。北東方向の森が気になる。あそこから何か飛び出すかもしれない……来ますよ今!」
地面を強く抉る音がいくつも連なる。その先は東側にある森……ではなく、北西側の丘がその源だった。
金属製の鞍のような器具を装備し、縦回転して転がるスライム。その上に乗り、巨漢の人獣たちが風を帯びるような勢いで勇者軍を急襲したのである。
勇者軍は即座に隊列を整え、北西から疾走する人獣たちとの激突に備える。
いざ交戦開始。となる瞬間、北東側の森の木がいくつか倒れ始めた。
まもなく、恐竜たちがその脚と雄叫びによって地面を揺らして、勇者軍にその姿を現す。
獣人と恐竜。その双方より強烈な攻撃を受け、勇者軍は上陸早々乱戦を迎えることとなった。
「さーて、ここでちょいと一つまみしてやろっかねー……」
力だけなら獣人と恐竜が上だが、兵数と技術と統率なら遥かに勇者軍が上。
少し遅れて森の木陰から姿を現したベルゼブブは、そこを崩しにかかった。
自身の能力で砂浜の砂を操作し、勇者軍たちの足元を文字通り揺らす。
その一瞬の怯みのうちに、獣人と恐竜たちは次々と勇者軍を討ち取っていった。
総大将として船に残り、後詰めとして船三隻分の戦力とともに、第一陣たちの醜態を見ていたリクゴーは、一度舌を打った。
そして、剣を砂浜へと伸ばして、叫ぶ。
「砂浜を突破するのです! このようにして! 【リバーストリーム】!」
剣先より、大河のような水流を発生させ、砂浜に一帯の湿地を作り出した。
「サラサラしてないと操れないのを見破ったか……」
「【ブリッツサンダー】!」
さらに森林側にいたベルゼブブへ、神罰のような威圧を帯びる雷も撃ち出す。
ベルゼブブは砂の防壁と、得物の鎌の回転で防御する。
「ちっ、怖いなアイツ……」
そして反動の震えが残る右手をブンブン振りながら、森の奥へ引っ込んだ。
「急げー! こんな奴ら、砂浜じゃなくたって戦えるだろー!」
「こんな入口でくたばってたまるかー!」
「とにかく水魔法を撃て!」
ベルゼブブが一時撤退した隙に、勇者軍は乱戦に穴を作り、砂浜を突破した。
「やった、やっ……」
そしてまともな土を踏めた瞬間、何人かの船員が、頭にぶどう大の傷を刻まれ、倒れた。
海岸周辺から遥か遠く、この島で二番目に高い丘の上で、モランは杖を構えている。
ここから緻密に圧縮した空気の魔弾を、精密に発射して、第一関門を抜けた者たちを狙撃する。それがこの戦いにおける彼の役目であった。
この仕組みを知らない勇者軍たちは、次々と中堅クラスの仲間を減らされていくことに恐怖し、砂浜突破時であることも相まって、ますます隊列が乱れ始めた。
そこに、西方向から怪しい影が続々と迫ってきた。
両手に巨大な螺旋状の鋲を持つもの。脚部に砲台を備えたもの。無機質な翼を生やしたもの。
これまでの一般像とは一線を画す、機能美に溢れるゴーレムが三種が各五機ずつ。勇者軍へ襲いかかった。
それに混じって、ロシュフォールは車輪のスライムに跨りながら、勇者軍へと接近する。
「【ドリル・ゴレムテール】、【バズーカ・ゴレムテール】、【ジェット・ゴレムテール】!
某の自信作を是非とも冥土の土産にご活用ありますのですよお!」
突貫、砲撃、火炎放射。これらの重い一撃をゴーレムたちは特殊素材の防御力にものを言わせて遂行し、勇者軍たちはさらなる大打撃を受けることになった。
「あーもうつまらないですな。こいつも画一化された剣術でしたな」
「き、気をつけろ! ちゃっかり乱入してるあの学者っぽいヤツも強いぞ!」
「アイツめ……我も任務を忘れるところだった」
そうして混乱しているところをモランが仕留める。
勇者軍の上陸作戦の序盤は、散々な形に終わった。
「第二陣、放て!」
リクゴーは手元に主戦力を残し、控えの三分の二を差し向けた。
「同じ手が通用するとは思えんけど、まーやるだけ損はないっしょ」
ベルゼブブと人獣と恐竜の妨害を乗り越えて、勇者軍はロシュフォールたちに苦しめられる前衛に合流。戦局の立て直しに取り掛かった。
すると何人かの勇者が、背伸びをして、丘の上に布陣するモランを見据えた。
「あの正体不明の射手を押さえつけよう!」
「そうすれば目の前の敵に集中できますね!」
素早さに長けるジョブの者たちは、その取り柄を活かし、丘を駆け上がる。
やがて彼らはモランの姿と、そこがなんらかの基地の跡地であることを把握した。
「のこのこと不策にやってきたか……これが大陸の兵士か? まあいい、これで出番ができただろうからな?」
モランは目配せをした後、斜面下の混戦へと杖の狙いを移す。
彼の背後で、ぞろぞろと伏せていた戦力たちが躍り出た。
「あと少しであの不気味な奴の喉元かっ切れるぜ……!」
「待て、何かこっちに向かってきているぞ!」
「あの姿には見覚えがある……はっ!」
彼らの注目を真っ先に集めたのは、上腕部が発達した青い体毛の猿。
「「「あれは、魔王軍のサンセマイン!!!???」」」
「んだ違ああう! 【ブルータルゴリラ】のエウポルだああ!」
エウポルは開戦の合図代わりに【バーンスローイング】で火の玉を投げつける。
勇者軍たちにとっては『何でもかんでも殴り倒す色違いのゴリラ』の方の印象が強いためか、まさかの遠距離攻撃には面くらった。
だが実際の成果は、数名に火傷を負わせた程度、たちまち後方のモランもろとも踏み潰してやろう。と、突撃を再開されてしまう。
「うわあ、こっちこないでくれー! ……とでも?」
基地の瓦礫から、さらに魔物が飛び出し、勇者軍たちを取り囲む。
小舟くらいのサイズのドラゴン、宝石のように輝くたてがみのユニコーン、どこを見てもトゲだらけの鎧のお化け。
勇者軍編纂の図鑑には決して掲載されていない、珍しい魔物たちだった。
「ホムンクルスとその手勢だけがロスデモ島の力だと思うな! オレたち魔物もこの島の一部ってことを見せてやれ!」
「偉そうになったなあ……ブルゴリ風情が」
「久々に魔物らしく、人を襲うとしますか!」
魔物たちはロスデモ島らしい、実にトリッキーな動きをして、勇者たちを翻弄する。
「貴様らもなかなかやるな。だが、その調子では終戦の方が先になる……手柄を貰うぞ」
仕上げはモランが行ったが。
【完】




