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ある日神の寄越し給ひし異形の獣に撥ねられて失せにければ異世界へ転生仕りき、されど能力の鉄の牛車召喚も黒き神境(?)とやらも使いよう皆無なり!  作者: イグアナ
新大陸・華国到達編

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312/313

第一皇子と出会ひ、守るための力を語りしこと

 白永徳との対面から数日。


 華国皇宮での日々は続いていた。


 しかし、ただ客人として過ごしているわけではない。


 この国を知る。


 この国の人々を見る。


 それもまた、旅の一つだった。


 朝。


 皇宮の訓練場。


 そこには西大陸とは違う光景が広がっていた。


 剣だけではない。


 槍。


 弓。


 拳法。


 華国独自の武術。


 兵達は掛け声と共に鍛錬を続けていた。


「へぇ……」


 レンは興味深そうに眺める。


「全然違うな」


 エレノアが聞く。


「何が?」


「動き」


 レンは答えた。


「西の剣術は相手を倒すために踏み込むものが多い」


「でもここの武術は流す動きが多い」


 相手の力を受ける。


 逸らす。


 崩す。


 同じ戦いでも考え方が違う。


「面白いな」


 勇者としてではなく。


 一人の剣士として。


 レンは純粋に興味を持っていた。


 


 その時。


 訓練場の空気が変わった。


 兵達が一斉に姿勢を正す。


「玲炎殿下」


 現れたのは一人の青年だった。


 黒を基調とした服。


 無駄のない動き。


 鋭い目。


 玲華とは違う雰囲気。


 優雅というより、刃。


 それが第一印象だった。


「姉上……じゃなかった」


 佐藤は小声で訂正する。


「兄か」


 玲華が紹介する。


「第一皇子」


「玲炎兄様です」


 玲炎は静かに貴光達を見る。


「西より来た客人か」


 低い声。


「話は聞いている」


 そして視線はレンへ向いた。


「お前が勇者か」


「ああ」


 レンも返す。


「桐崎レンだ」


 数秒。


 二人は互いを見る。


 佐藤。


 嫌な予感。


「あー……」


「これ絶対あれだ」


「何?」


 フィアが首を傾げる。


「強いやつ同士が目合わせる展開」


 その予想。


 当たった。


「剣を抜け」


 玲炎は言った。


「実力を見たい」


「兄様」


 玲華が止めようとする。


 しかし。


 レンは笑った。


「いいよ」


「俺も興味ある」


 


 訓練場中央。


 二人が向かい合う。


 兵達がざわつく。


 片方は華国第一皇子。


 若くして軍を率いる人物。


 もう片方は異国の勇者。


 魔王を倒した男。


 普通なら。


 誰もが勇者が勝つと思う。


 しかし。


 レンは分かっていた。


 目の前の相手。


 強い。


 


 開始。


 一瞬。


 玲炎が踏み込む。


「速っ」


 佐藤が声を漏らす。


 剣がぶつかる。


 金属音。


 レンは受け止める。


 しかし。


 次の瞬間。


 玲炎は力で押さない。


 流す。


 角度を変える。


 レンの体勢を崩す。


「!」


 レンは距離を取った。


「面白いな」


 玲炎は言う。


「何がだ」


「普通なら今ので力任せに戻そうとする」


「お前は引いた」


「判断が早い」


 レンは少し笑う。


「褒められてるのか?」


「事実だ」


 再び衝突。


 剣と剣。


 数十合。


 しかし決着しない。


 


 やがて。


 二人は同時に距離を取った。


「そこまで」


 玲華の声。


 試合終了。


 勝者なし。


 互角。


 兵達は驚いていた。


 だが。


 レンはむしろ嬉しそうだった。


「この大陸にも強いやついるんだな」


 玲炎は剣を収める。


「当然だ」


「世界はお前の大陸だけではない」


 その言葉。


 少し前のレンなら反発したかもしれない。


 しかし。


 今は違う。


「ああ」


「本当にそうだな」


 


 その後。


 二人は訓練場横で話していた。


「意外だった」


 レンが言う。


「何が」


「もっと嫌な奴かと思った」


 玲炎。


 眉を動かす。


「随分正直だな」


「悪い」


「いや」


 玲炎は首を振る。


「私も同じだ」


「?」


「勇者などという者」


「力だけで物事を解決する存在だと思っていた」


 レンは苦笑する。


「昔なら間違ってなかったかもな」


 玲炎は少し意外そうに見る。


「認めるのか」


「ああ」


 レンは空を見る。


「昔は敵を倒せば全部終わると思ってた」


「でも違った」


 魔王を倒しても。


 世界から問題は消えなかった。


「剣で救えるものって、思ったより少ないんだな」


 その言葉。


 玲炎は黙って聞いた。


 


 そして。


 静かに言う。


「だが」


「剣が無ければ守れないものもある」


 レンを見る。


「力を否定するな」


「力だけを信じるな」


「どちらも間違いだ」


 レンは少し笑った。


「玲華と似てるな」


「私が?」


「ああ」


「考え方は違うけど」


「根っこは似てる」


 玲炎は少し驚いた顔をした。


 そんなことを言われたのは初めてだった。


 


 一方。


 離れた場所。


 佐藤。


「……」


「まただ」


 エレノア。


「何?」


「最初敵っぽく出てきた人が普通にいい人だった」


「いいことじゃない」


「そうなんだけど」


 佐藤は腕を組む。


「最近敵と味方が分かりやすくない」


 その言葉。


 玲華が聞いていた。


 そして答える。


「それが現実なのかもしれません」


「え?」


「人は、自分が正しいと思う道を進みます」


「だからこそ、ぶつかるのです」


 佐藤は何も言えなかった。


 


 その夜。


 玲炎は一人、皇都を見ていた。


 そこへ白永徳が現れる。


「殿下」


「宰相か」


「勇者はいかがでしたか」


 玲炎は少し考える。


「予想と違った」


「というと?」


「ただの英雄ではない」


「悩む人間だった」


 白永徳は小さく頷く。


「そうですか」


 玲炎は皇都を見る。


「私はこの国を守る」


「そのためなら強い軍も必要だ」


「ですが」


 白永徳は続ける。


「力だけでは国は治められない」


「分かっている」


 玲炎は静かに答えた。


 皇位。


 未来。


 国。


 華国の中で、それぞれの想いが少しずつ動き始めていた。

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