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ある日神の寄越し給ひし異形の獣に撥ねられて失せにければ異世界へ転生仕りき、されど能力の鉄の牛車召喚も黒き神境(?)とやらも使いよう皆無なり!  作者: イグアナ
新大陸・華国到達編

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宰相と対面し、華国を支へし者と言葉交はしこと

 華国皇宮。


 朝の空気は静かだった。


 庭の木々には小鳥が止まり、池の水面には空が映る。


 昨日の宴の賑やかさが嘘のように、宮廷はいつもの落ち着きを取り戻していた。


 しかし。


 静かだからといって、何も動いていないわけではない。


 華国という巨大な国は、眠ることなく動き続けている。


 その中心にいる者。


 皇帝。


 そして。


 もう一人。


 国を支える男。


 


「宰相?」


 佐藤健一は玲華から聞いた言葉を繰り返した。


「はい」


 玲華は頷く。


「白永徳」


「父上を長年支えてきた方です」


 その名前を聞いた瞬間。


 周囲の華国兵達の表情が少し変わった。


 尊敬。


 そして緊張。


 それだけで分かる。


 ただの役人ではない。


「そんなすごい人が俺達に何の用?」


 佐藤が尋ねる。


 玲華は少し困ったように笑う。


「おそらく」


「調査です」


「調査?」


「はい」


 玲華は隠さなかった。


「皆様が華国にとって危険ではないか」


「それを確認するためでしょう」


 空気が少し変わる。


 レンは静かに言った。


「まあ、当然だな」


「え?」


 佐藤が見る。


 レンは続ける。


「俺達は玲華に助けられて入っただけだ」


「でも国から見れば違う」


「突然現れた異国人だ」


 そして。


 少し苦笑。


「しかも俺は勇者なんて呼ばれてる」


 エレノアも頷いた。


「私も魔法使い」


「フィアも特殊」


 佐藤。


 少し考える。


「で」


 視線。


 外。


 鉄の牛車。


「一番怪しいのが」


「言うなり」


 貴光が止めた。


「まだ何も言ってない」


「目が語っていたなり」


「まあ実際そう」


 佐藤、即答。


 


 数刻後。


 政務殿。


 一人の老人が待っていた。


 白い髪。


 整った衣。


 静かな目。


 強そうには見えない。


 だが。


 レンはすぐ理解した。


 この人物は危険だ。


 剣ではない。


 別の強さ。


「白永徳と申します」


 老人は静かに頭を下げた。


「遠き西より来られた客人方」


「お会いでき光栄です」


 丁寧。


 完璧な礼。


 しかし。


 佐藤は感じた。


 見られている。


 言葉。


 表情。


 動き。


 全部。


「……」


 思わず姿勢を正す。


 白永徳は最初にレンを見た。


「桐崎レン殿」


「魔王を討った勇者、と聞いております」


「ああ」


「ですが」


 白永徳は続ける。


「その力を、この国へ向けない保証はありますか」


 直球。


 場が静まる。


 レンは怒らなかった。


 少し前なら。


 信用されないことに反発したかもしれない。


 だが今は違う。


「ない」


 その答え。


 周囲が驚く。


 白永徳も少し目を細めた。


「ほう」


「俺が何を言っても、完全な証明にはならない」


 レンは続ける。


「だから見て判断してくれ」


 白永徳。


 少しだけ笑った。


「正直ですね」


 


 次。


 エレノア。


 フィア。


 それぞれ質問される。


 そして。


 最後。


「御池貴光殿」


「む?」


 白永徳の目が向く。


「あなたが最も分かりません」


 佐藤。


 心の中で同意。


 分かる。


 非常に分かる。


「礼を知る」


「詩を理解する」


「古き文化を重んじる」


「しかし」


 白永徳。


 資料を見る。


「謎の鉄車を所有」


「各地で影響を与える」


「魔王戦にも関与」


「一部地域では信仰対象にもなった」


 沈黙。


 佐藤。


 顔を覆う。


「並べると本当に怪しい……」


 完全に国家危険人物。


 白永徳が警戒するのも当然だった。


「あなたの目的は何ですか?」


 問い。


 権力か。


 富か。


 名声か。


 貴光。


 少し考える。


 そして答えた。


「旅なり」


「……旅?」


「うむ」


「知らぬ土地を見る」


「知らぬ文化を知る」


「良き景色を眺むる」


「それだけなり」


 白永徳は黙る。


 嘘には見えない。


 むしろ。


 だから困る。


 巨大な影響を生む者が。


 何かを企んでいるなら対処できる。


 しかし。


 本人にその気がない場合。


 最も予測できない。


「……なるほど」


 白永徳は小さく呟いた。


「玲華様が興味を持つ理由も分かりました」


 


 最後。


 白永徳は佐藤を見た。


「佐藤健一殿」


「はい」


「あなたについての記録が最も少ない」


「あー……」


 佐藤は苦笑する。


「まあ普通なんで」


「普通?」


「はい」


「剣も使えないし」


「魔法もないし」


「貴族でもないです」


 白永徳。


 静かに見る。


「では何故、ここにいるのですか?」


 質問。


 佐藤は少し止まる。


 確かに。


 考えたことがなかった。


 周りはすごい人ばかり。


 自分だけ普通。


 でも。


「……」


「多分」


「普通だからです」


 白永徳。


 少し目を細める。


「続けてください」


「周りが変な方向行った時に止める人が必要なんで」


 その瞬間。


 全員。


 少し納得した。


 特に貴光関係。


「否定できないなり」


「本人が言うな」


 白永徳。


 初めて小さく笑った。


「なるほど」


「あなたの役割が一番理解できました」


「え?」


「特別な者達の中で普通でいられる」


「それも一つの才能です」


 佐藤。


 少し照れる。


「……どうも」


 


 会談終了後。


 白永徳は一人、資料を閉じた。


 そこへ部下が近づく。


「宰相様」


「いかがでしたか」


 白永徳は少し考える。


「危険だ」


「やはり排除を?」


「違う」


 即答。


「あの者達の危険は野心ではない」


「存在そのものだ」


 外を見る。


 皇都。


 長き歴史を持つ国。


「新しい風は時に国を変える」


「それが良き風か、嵐か」


「見極めねばならぬ」


 白永徳。


 静かに歩き出す。


 彼は敵ではない。


 しかし味方でもない。


 華国という国を守る者として。


 異国より来た旅人達を見極めようとしていた。

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