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ある日神の寄越し給ひし異形の獣に撥ねられて失せにければ異世界へ転生仕りき、されど能力の鉄の牛車召喚も黒き神境(?)とやらも使いよう皆無なり!  作者: イグアナ
新大陸・華国到達編

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310/313

宮廷の宴へ招かれ、華国の華やかさを味わひしこと

 華国皇宮。


 その夜。


 普段は静けさに包まれる宮の一角が、柔らかな灯りに照らされていた。


 赤く輝く提灯。


 美しく飾られた柱。


 庭に響く楽の音。


 池の水面には月と宮殿の光が映り、まるで別の世界のような景色を作り出している。


 今夜行われるのは、皇帝主催の小さな宴。


 玲華皇女の帰還。


 そして西より来た客人達を迎えるためのものだった。


「……」


 佐藤健一は会場を見渡した。


「すげぇ」


 第一声。


 それだけ。


 隣にいたエレノアが少し笑う。


「もう少し感想ないの?」


「いや無理」


 佐藤は首を振る。


「語彙力消えるって、こういうの」


 巨大な怪物。


 神界。


 魔法。


 色々なものを見てきた。


 だが、人の手だけで作られた美しさには、また別の迫力がある。


「こういうの見るとさ」


「うん?」


「文明ってすごいんだなって思う」


 エレノアは少し驚く。


「珍しく真面目ね」


「俺を何だと思ってるんだよ」


「ツッコミ役」


「否定できないのが悲しい」


 


 一方。


 レンは料理を見ていた。


 華国料理。


 西大陸とは全く違う。


 香辛料。


 調理法。


 盛り付け。


「食文化まで違うんだな」


 フィアが頷く。


「でも美味しいです」


 その横。


 御池貴光。


 静かに料理を見る。


 一口。


 味わう。


 そして。


「良き料理なり」


「食とは腹を満たすのみならず」


「作りし者の心を伝えるもの」


 近くにいた料理人。


 思わず目を丸くした。


「……」


「そこまで言っていただけるとは」


 料理人は深く礼をした。


「ありがとうございます」


 佐藤。


 それを見る。


「また始まった」


「何が?」


 レンが聞く。


「貴光さん、華国来てから評価されすぎ問題」


「いいことだろ」


「そうなんだけどさ」


 佐藤は貴光を見る。


「前まで周りから『何だこの人』って見られる側だったじゃん」


「ああ」


「今は周りが『なんと教養ある方だ』ってなる」


「成長したんじゃないか?」


「いや」


 佐藤は首を振る。


「多分本人は最初から変わってない」


 レンは少し考える。


 そして頷いた。


「確かにな」


 周囲が変わっただけ。


 御池貴光はずっと御池貴光だった。


 


 宴が進む。


 音楽。


 舞。


 詩。


 華国文化の中心。


 宮廷らしい時間。


 そんな中。


 一人の少女が会場へ現れた。


 年は玲華より少し下。


 美しい黒髪。


 華やかな衣。


 しかし表情は少し不満げ。


「姉上」


 玲華が振り返る。


「明蘭」


 その名を聞き、周囲の者達が軽く頭を下げる。


 華国第二皇女。


 明蘭。


「戻っていたなら、もっと早く会いに来てください」


 少し怒ったような声。


 だが。


 本気で怒っているわけではない。


 玲華は苦笑する。


「ごめんなさい」


「色々と忙しくて」


「いつもそうです」


 明蘭はため息をつく。


「国のことばかり」


「少しは自分のことも考えてください」


 その言葉。


 玲華は少し困ったように笑った。


 


 佐藤は遠くから見る。


「妹いたんだ」


 エレノアも頷く。


「初めて聞いたわね」


 すると。


 明蘭の視線。


 貴光達へ向く。


「あなた達ですね」


「姉上を助けた西の旅人というのは」


 レンが答える。


「ああ」


「そうだ」


 明蘭。


 一人ずつ見る。


 勇者。


 魔法使い。


 不思議な少女。


 そして。


 貴光。


「……」


 少し止まる。


「あなたが御池貴光様?」


「うむ」


「話は聞いています」


 明蘭は少し笑う。


「詩会で文官達を驚かせたとか」


「偶然なり」


「謙遜ですか?」


「事実なり」


 その返答。


 明蘭は興味深そうに見る。


「変わった方ですね」


「よく言われるなり」


「でしょうね」


 即答。


 佐藤。


「初対面でも分かるんだ」


 


 その後。


 明蘭は当然のように質問を始めた。


 西の文化。


 旅。


 魔王。


 神界。


 色々。


 そして。


 避けられない話題。


「ところで」


 明蘭は尋ねた。


「外にある鉄の乗り物は何なのですか?」


 全員。


 止まる。


「あ」


 佐藤。


「ついに来た」


 華国では今まで意外なほど流されていた問題。


 軽虎。


 明蘭。


 純粋な疑問。


「あれは馬車なのですか?」


 貴光。


 当然のように答える。


「鉄の牛車なり」


「なるほど」


「牛車」


 明蘭は頷く。


 そして。


「……」


「鉄?」


 止まった。


 正常な反応だった。


 佐藤。


 少し安心。


「あ、良かった」


「ちゃんと疑問持つ人いた」


 明蘭はさらに聞く。


「何故鉄で?」


「丈夫ゆゑ」


「何故牛で?」


「牛車ゆゑ」


「……」


 明蘭。


 困惑。


「姉上」


「はい?」


「この方、面白いですね」


「でしょう?」


 玲華。


 笑顔。


 否定なし。


 


 宴の終わり。


 玲華と明蘭は庭を歩いていた。


「楽しそうですね、姉上」


「そう見える?」


「はい」


 明蘭は頷く。


「昔より」


 玲華は少し驚いた。


「昔の姉上は、いつも国のことを考えていました」


「今もそうですけど」


 少し笑う。


「でも、今は少し違います」


 玲華は遠くを見る。


 そこには。


 佐藤達と話す貴光。


 旅人達。


 違う世界を知る者達。


「そうかもしれませんね」


 華国の夜。


 美しき宴。


 政治でもなく。


 争いでもなく。


 ただ人と人が出会う時間。


 長い歴史を持つ皇宮に、新しい風が静かに流れていた。

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