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ある日神の寄越し給ひし異形の獣に撥ねられて失せにければ異世界へ転生仕りき、されど能力の鉄の牛車召喚も黒き神境(?)とやらも使いよう皆無なり!  作者: イグアナ
新大陸・華国到達編

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宮廷の影に触れ、華国貴族の思惑を知りしこと

 華国皇宮での生活は、今までの旅とは大きく違っていた。


 朝起きれば魔物の警戒をする必要もない。


 突然、空から神が話しかけてくることもない。


 軽虎を信仰する者達が押し寄せることもない。


 ただ静かに時間が流れる。


 茶を飲み。


 書を読み。


 街を歩く。


 旅というより、まるで別の人生を体験しているような日々だった。


「……平和だな」


 庭で茶を飲みながら、佐藤健一は呟いた。


 隣ではレンが剣の手入れをしている。


「ああ」


「逆に落ち着かない」


「分かる」


 佐藤は頷いた。


「俺達、完全に感覚狂ってるよな」


「普通は平和な方が安心するはずなのに」


「何も起きない方が怖い」


 レンは苦笑する。


「まあ、今までが今までだからな」


 魔王。


 神界。


 戦争。


 巨大生物。


 普通の人生なら一つ経験するだけでも異常。


 それらを連続で乗り越えてきた。


 だからこそ。


 この静けさが不思議だった。


「でも」


 レンは皇宮を見る。


「ここにも戦いはある」


 佐藤も分かっていた。


 昨日の政務。


 意見のぶつかり合い。


 あれは間違いなく戦いだった。


 ただ武器が違うだけ。


「言葉の戦いか」


「俺、一番苦手かも」


「意外だな」


「なんで?」


「お前、いつもツッコミで戦ってるだろ」


「戦ってねぇよ」


 即答だった。


 


 一方。


 皇宮内部。


 玲華は数人の文官と話していた。


「南方地域の水路整備についてですが」


「予算を増やすべきです」


 若き文官が資料を広げる。


「毎年、水害による被害が出ています」


「長期的に見れば必要な政策です」


 しかし。


 別の者が首を振る。


「理想論です」


「今、国庫に余裕があるわけではありません」


「軍備増強も必要です」


 意見は割れる。


 どちらも間違ってはいない。


 玲華は静かに聞いていた。


 そして。


 問いかける。


「では」


「何を一番守るべきだと思いますか?」


 その一言で、場が静まった。


 金か。


 土地か。


 力か。


 民か。


 国を動かすとは、選ぶことだった。


 全てを救う。


 それができれば簡単。


 だが現実は違う。


 何かを選べば、何かを後回しにすることになる。


 その重さを、玲華は知っていた。


 


 その頃。


 別の宮。


 豪華な部屋。


 数人の貴族達が集まっていた。


 中心に座る男。


 名を梁玄。


 華国でも大きな影響力を持つ名門貴族である。


「玲華皇女は、また改革派の文官と話していたようです」


 部下の報告。


 梁玄は静かに茶を飲む。


「そうか」


 怒りはない。


 焦りもない。


 ただ考えている。


「西の客人については?」


「皇帝陛下からの評価は高いようです」


「特に御池貴光という男」


「文官達にも興味を持たれています」


 梁玄は目を細めた。


「……不思議な男だ」


「はい?」


「西より来た旅人」


「しかし礼を知り、詩を理解する」


「玲華皇女が近づく理由も分からなくはない」


 部下は少し驚く。


「認めるのですか?」


 梁玄は静かに答えた。


「優れたものを否定するほど愚かではない」


 そして。


 茶を置く。


「だが」


「優れた者だからこそ危険な場合もある」


 静かな声。


 敵意ではない。


 警戒。


「華国は千年以上続いた国だ」


「外より来た風によって簡単に形を変えてよいものではない」


 彼もまた。


 国を思っていた。


 


 夕方。


 庭園。


 貴光は一人、池を眺めていた。


 そこへ。


 一人の男が訪れる。


「御池貴光殿」


 振り返る。


 梁玄。


 初対面。


 しかし、ただ者ではないことは分かった。


「何用なり?」


「少し話を」


 二人は庭に座る。


 静かな時間。


 最初に口を開いたのは梁玄だった。


「あなたは華国をどう思いますか」


 貴光は答える。


「美しき国なり」


「では」


「変わるべきだと思いますか?」


 問い。


 簡単ではない。


 しかし貴光は慌てなかった。


「変わらぬものなど無し」


「季節も、人も、国も」


「全て移ろうものなり」


 梁玄は静かに聞く。


「では古きものは不要だと?」


「否」


 即答。


「変わることと捨てることは違う」


「……」


「春に花咲き、秋に葉落つ」


「されど木そのものが別物になる訳ではなし」


 梁玄。


 少し目を細める。


「なるほど」


 予想とは違った。


 玲華皇女の側にいる者。


 ならば改革だけを求める人物かと思っていた。


 しかし違う。


「面白い方だ」


「よく言われるなり」


 梁玄は少し笑った。


「でしょうね」


 


 遠くから見ていた佐藤。


「……」


「まただ」


 エレノアが尋ねる。


「何が?」


「貴光さん」


「普通に偉い人と話してる」


「いいことでしょ?」


「そうなんだけどさ」


 佐藤。


 腕を組む。


「あの人の人生、振れ幅がおかしいんだよ」


 平安貴族。


 異世界転生者。


 鉄の牛車所有者。


 宗教発生原因。


 そして今。


 華国貴族と思想を語る者。


「属性多すぎだろ」


 エレノアは少し考え。


「確かに」


 珍しく否定しなかった。


 


 夜。


 梁玄は自室へ戻る。


 部下が尋ねる。


「いかがでしたか」


 梁玄は答える。


「危険な男だ」


「やはり」


「いや」


 首を振る。


「野心があるからではない」


 窓の外を見る。


「あの男は、人を変える」


「本人にその気がなくともな」


 月明かりの下。


 華国の中で。


 少しずつ人と人の考えが交わり始めていた。

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