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ある日神の寄越し給ひし異形の獣に撥ねられて失せにければ異世界へ転生仕りき、されど能力の鉄の牛車召喚も黒き神境(?)とやらも使いよう皆無なり!  作者: イグアナ
新大陸・華国到達編

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308/313

宮廷の席へ招かれ、華国の政を知りしこと

 華国皇宮。


 大書庫で過ごした翌日。


 御池貴光達は、玲華より一つの誘いを受けた。


「政の場を見てみませんか?」


 その言葉に、佐藤健一は一瞬固まった。


「……政治?」


「はい」


 玲華は頷く。


「華国という国を知るなら、街や文化だけでなく、国を動かす場も見るべきだと思いました」


「いやいやいや」


 佐藤は慌てて手を振る。


「俺達、ただの旅人だぞ?」


「皇帝と会った時点でもう普通ではないと思いますが」


「……」


 反論できなかった。


 確かに。


 今さらだった。


 神と会い。


 魔王と戦い。


 皇帝と茶を飲む。


 自分達の普通の基準は、だいぶ壊れている。


「でも政治か……」


 佐藤は少し不安そうな顔をする。


「俺、そういう難しい話分かんないぞ」


 すると貴光。


 静かに言う。


「分からぬものを見ることも学びなり」


「知る前より諦める必要なし」


「……」


 佐藤は少し驚いた。


「最近ずっとまともなこと言うな」


「いつもまともなり」


「そこは違う」


 即答だった。


 


 そして数刻後。


 皇宮中央。


 政務殿。


 そこには華国を支える者達が集まっていた。


 文官。


 武官。


 地方を治める貴族。


 それぞれが国について話し合う場所。


 レンは周囲を見る。


「……」


 空気が違う。


 戦場の緊張とは別。


 だが確かに、ここにも戦いがあった。


 言葉。


 考え。


 判断。


 剣を使わない戦場。


「苦手だな」


 レンが呟く。


 エレノアが横を見る。


「珍しいわね」


「何が?」


「あなたが弱音みたいなこと言うなんて」


「別に弱音じゃない」


 レンは苦笑する。


「ただ、剣なら鍛え方が分かる」


「でもこれは違う」


 そう言って、政務殿を見る。


「何が正解なのか分からない」


 エレノアは少し考え。


「だから難しいんでしょうね」


 そう答えた。


 


 やがて会議が始まった。


 最初の議題。


 地方の開発について。


 一人の若い官僚が前へ出る。


「北部地域には未開拓の土地が多く存在します」


「新たな道を整備し、都市を広げるべきです」


「交易も増え、国はさらに豊かになります」


 その意見。


 多くの者が頷いた。


 しかし。


 別の老いた文官が立ち上がる。


「確かに利益は出るでしょう」


「ですが、そこには古くから暮らす民もおります」


「急激な変化は混乱を生みます」


「古き生活を壊してまで進む必要がありますか」


 空気が少し変わる。


 佐藤は小声で言った。


「……どっちが正しいんだ?」


 レンも答えられない。


 発展することは悪ではない。


 生活を守ることも悪ではない。


 どちらも国を思っている。


 だから難しい。


 


 次々と意見が出る。


 軍備。


 交易。


 外交。


 教育。


 その全てに、違う考えが存在した。


 佐藤は頭を抱える。


「これ大変すぎるだろ」


「魔王倒す方が単純だった気がする」


 レン。


 小さく笑う。


「言い方は悪いけど分かる」


 敵なら倒せば終わる。


 だが。


 これは違う。


 


 そんな中。


 一人の貴族が口を開いた。


「玲華皇女」


 空気が変わる。


 玲華は静かに見る。


「何でしょう」


「最近、西より来た客人と親しいようですが」


 視線。


 貴光達へ向く。


「華国は長き歴史を持つ国」


「外より来た思想を簡単に受け入れるべきではないと考えます」


 言葉は丁寧。


 しかし意味は明確。


 異国人への警戒。


 佐藤は少し表情を固くする。


 レンも静かに見る。


 だが。


 玲華は動じなかった。


「その考えも理解できます」


 静かな声。


「ですが」


「外を見ることと、自らを失うことは違います」


 広間。


 静かになる。


「新しいものを知ったからといって、古きものが消える訳ではありません」


「大切なのは、何を残し、何を変えるか考えることです」


 その言葉。


 貴光は静かに聞いていた。


 


 すると。


 先ほどの貴族。


 今度は貴光を見る。


「では」


「西の客人殿はどう考える?」


 突然の問い。


 佐藤。


 焦る。


「え」


「貴光さんに振るの?」


 しかし。


 貴光は落ち着いていた。


 少し考え。


 答える。


「新しきものは風の如し」


「止めることは難しきもの」


「されど」


「根無き木は、強き風に倒れる」


 周囲。


 静かになる。


「古きものは根」


「新しきものは枝葉」


「どちら欠けても、大きな木とはならぬと思ふなり」


 誰も言葉を発しなかった。


 それは華国の考え方にも近いものだった。


 玲華は静かに微笑む。


 


 一方。


 佐藤。


「……」


 また不思議そうな顔。


 レン。


「何だ?」


「いや」


 佐藤は小声。


「本当に誰なんだろうなって」


「本人だろ」


「分かってる」


 佐藤は頷く。


「でもさ」


「政治の場で普通に認められてる人が」


「軽トラの鍵を川に投げたんだぞ」


 レン。


 沈黙。


「……」


「それは忘れよう」


「忘れられない」


 


 会議が終わった後。


 玲華は貴光へ言った。


「ありがとうございました」


「何もしておらぬ」


「いえ」


 玲華は首を振る。


「違う場所から来た人だからこそ、見えるものもあります」


 華国。


 長き歴史を持つ国。


 美しい文化。


 巨大な力。


 そして。


 変化の時代。


 その中心で、玲華は答えを探していた。


 守るだけでは未来へ進めない。


 捨てるだけでは過去を失う。


 華国の宮廷で起きている戦いは、剣ではなく、考えと考えのぶつかり合いだった。

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