第二皇子と語らひ、優しさのみでは救へぬことを知りしこと
第一皇子、玲炎。
彼との出会いから数日。
華国という国の姿は、少しずつ見えてきていた。
長い歴史。
美しい文化。
巨大な領土。
そして。
その大きさゆえの問題。
国とは、人が集まる場所。
人が増えれば、願いも増える。
全ての願いを叶えることはできない。
それが、華国の抱える難しさだった。
その日。
佐藤健一達は玲華に連れられ、皇都の外れへ来ていた。
豪華な宮殿とは違う。
普通の人々が暮らす地区。
市場では商人が声を上げ、子供達が走り回っている。
「こういう場所もあるんだな」
佐藤は周囲を眺めた。
「皇宮だけ見てると分からないな」
玲華は頷く。
「華国は皇族だけの国ではありません」
「ここに暮らす人々も含めて華国です」
その時。
人だかりが見えた。
「あれは?」
エレノアが尋ねる。
玲華は少し微笑む。
「兄様ですね」
「兄?」
「第二皇子」
その中心にいたのは、一人の青年だった。
白を基調とした服。
柔らかい表情。
玲炎とはまるで違う雰囲気。
彼は民達と同じ目線で話していた。
「困ったことがあれば遠慮なく言ってください」
「ありがとうございます、玲春様」
老人が頭を下げる。
青年は慌てて止めた。
「頭を下げないでください」
「私は当然のことをしているだけです」
佐藤は少し驚く。
「めちゃくちゃいい人じゃん」
「はい」
玲華は答える。
「玲春兄様は誰よりも民を想っています」
その声。
誇らしさ。
でも。
少しだけ別の感情もあった。
玲春は玲華達に気付く。
「玲華」
「戻っていたなら教えてくれればよかったのに」
「申し訳ありません、兄様」
「忙しいと思いましたので」
玲春は困ったように笑う。
「妹にまで気を使われる兄というのも悲しいですね」
そして。
貴光達を見る。
「あなた方が西より来た旅人ですね」
「話は聞いています」
丁寧な礼。
敵意は全くない。
佐藤。
小声。
「玲炎さんと全然違うな」
レン。
「聞こえるぞ」
「やば」
しかし玲春は笑うだけだった。
「よく言われます」
「兄上は強き剣」
「私は柔らかな布」
「そんな風に例えられます」
その後。
一行は街を歩いた。
玲春は本当に民から好かれていた。
子供達。
老人。
商人。
誰にでも同じ態度。
皇族というより、近所の優しい兄のようだった。
「すごいな」
佐藤は呟く。
「こういう人が皇帝になったら平和になりそうだけど」
その言葉。
玲春は聞いていた。
そして。
少し寂しそうに笑った。
「そう簡単なら良かったのですが」
「え?」
その時だった。
一人の役人が駆け寄ってくる。
「玲春殿下」
「例の件ですが」
書類。
玲春は読む。
表情が変わる。
「……」
佐藤は気付いた。
何か問題が起きた。
「何かあったんですか?」
玲春は少し迷った後、答えた。
「川沿いの村です」
「毎年水害があります」
「堤防工事をする予定でした」
「良いことじゃないですか」
佐藤が言う。
だが。
玲春は首を振る。
「そのためには、一部の住民に移住してもらう必要があります」
沈黙。
「もちろん補償はします」
「新しい土地も用意します」
「ですが」
「その土地で何代も暮らしてきた人達がいる」
佐藤。
言葉が止まった。
安全を取るか。
思い出を守るか。
「……難しいな」
「はい」
玲春は頷く。
「私は全員を救いたい」
「誰にも悲しんでほしくない」
「ですが」
書類を見る。
「選ばなければならない時があります」
その夜。
皇宮。
庭。
玲春とレンは話していた。
「あなたは羨ましいです」
突然の言葉。
レンは驚く。
「俺が?」
「はい」
「剣があります」
「誰かを守る力があります」
レンは少し考えた。
昔なら。
そうだと言った。
でも今は。
「そんな便利じゃない」
「え?」
「剣で斬れる問題って少ない」
レンは言う。
「魔物なら倒せる」
「敵なら戦える」
「でも」
「今日みたいな問題は斬れない」
玲春は黙る。
「だから俺からしたら」
「あんたみたいに人のために悩める方がすごいと思う」
玲春は少し驚く。
そして。
笑った。
「不思議ですね」
「何が?」
「兄上とあなたは似ていると思っていました」
「力を持つ者同士だから」
少し間。
「でも違いました」
「あなたも悩むのですね」
「当たり前だろ」
レンは苦笑した。
「勇者だって人間だ」
一方。
遠く。
佐藤と貴光。
「……」
佐藤は言った。
「華国ってすごいな」
「む?」
「敵がいないのに問題だらけだ」
貴光は静かに頷く。
「人の世とは、そのようなものなり」
「悪しき者を倒せば終わる話ばかりではなし」
佐藤は空を見る。
今までの旅とは違う。
強い敵はいない。
世界を滅ぼす魔王もいない。
それでも。
ここには確かに戦いがあった。
同じ頃。
皇宮の奥。
白永徳は一人、三枚の資料を見ていた。
第一皇子、玲炎。
第二皇子、玲春。
第三皇女、玲華。
「力」
「優しさ」
「変化」
小さく呟く。
「陛下」
「この国の未来は、誰に託すべきなのでしょうな」
強すぎた皇帝の後。
天華皇国最大の問題。
その答えは、まだ誰にも見えていなかった。




