華国の詩会終わり、異国の者宮廷に名広まりしこと
華国皇宮。
庭園にて開かれし詩会。
そこに集まりし者達は、しばらく言葉を失っていた。
西より来たりし異国の旅人。
玲華皇女が連れてきた謎多き者達。
多くの宮廷貴族は、最初そう見ていた。
もちろん無礼に扱う者はいない。
皇女の客人である以上、表面上は歓迎する。
されど心の奥では。
西の地より来た者達に、華国の深き文化が理解できるはずなし。
そう考える者も少なくなかった。
だが。
御池貴光。
その男は違った。
服装こそ異国。
言葉も異国。
しかし。
詩を詠み、季節を感じ、変わりゆく景色に心を向ける。
その考え方は、華国の文人達に近きものであった。
「……驚いた」
一人の老いた文官が呟く。
「西にも、あのような雅を知る者がおるとは」
その言葉。
周囲の者達も否定できなかった。
一方。
本人。
貴光。
いつも通り茶を飲んでいた。
「良き茶なり」
完全に平常。
佐藤健一。
その横で不思議そうな顔。
「……」
「どうしたなり」
貴光が尋ねる。
「いや」
佐藤。
少し考える。
「まだ慣れない」
「何がなり」
「貴光さんが褒められてる状況」
即答。
貴光。
少し眉を寄せる。
「失礼なり」
「いやだってさ」
佐藤は指折り数え始めた。
「異世界来て早々軽トラの鍵捨てる」
「牛に引かせる」
「勝手に神獣扱いされる」
「宗教できる」
「世界規模になる」
「……」
少し間。
「普通、文化人って印象残らないだろ」
正論であった。
エレノア・シルヴァリア。
横で苦笑する。
「まあ、佐藤の気持ちも分かるわ」
「でしょ?」
「でも貴光って元々貴族なのよね」
「そうなんだよなぁ……」
佐藤。
改めて見る。
目の前の男。
平安貴族。
確かに。
本来なら教養階級。
問題は。
軽虎の印象が強すぎることだけ。
そんな中。
玲華。
静かに近づく。
「貴光様」
「む?」
「父上がお呼びです」
その言葉。
一同。
少し緊張する。
「皇帝が?」
レンが尋ねる。
「はい」
玲華は頷く。
「今回の詩会で、正式にお話したいと思われたようです」
佐藤。
小声。
「すごいな」
「何が?」
「いや」
「軽トラ牛で引いてる人が皇帝から呼ばれてる」
やはり違和感。
しばらく後。
一行は皇帝のいる庭園へ案内された。
大広間ではない。
政治の場でもない。
静かなる庭。
池の横。
そこに皇帝はいた。
豪華なる衣を纏いつつも、今は一人の老人のように茶を飲んでいた。
「来たか」
皇帝は穏やかに言う。
「楽にせよ」
貴光達。
席へ座る。
皇帝。
まず貴光を見る。
「そなた」
「不思議な男だな」
「む?」
「玲華より聞いた」
「遠き地より来たりし旅人」
「数々の戦いを越えし者」
「されど」
皇帝。
少し笑う。
「戦より花を見る方が似合う」
その言葉。
貴光。
静かに頷く。
「争いは好まぬものなり」
「ほう」
「されど必要ならば避けられぬ時もあり」
「……」
皇帝。
目を細める。
「戦を知る者の言葉だな」
貴光。
何も言わず茶を見る。
魔王。
巨大虫。
数多くの出来事。
彼自身が剣を振るった訳ではない。
されど。
旅の中で多くを見た。
「平和なる庭を愛でるには」
「荒れし野を知る必要もあると思ふなり」
皇帝。
しばらく黙る。
そして。
笑った。
「面白い」
「実に面白い」
一方。
佐藤。
小声。
「今日の貴光さん、本当に別人じゃない?」
レン。
「いや」
「多分これも本来の姿なんだろ」
「……」
佐藤。
考える。
「普段どこ行ってんだよ、この姿」
答え。
軽虎のせい。
その後。
皇帝は他の者とも話した。
レンには勇者としての経験。
エレノアには西の魔法。
フィアには文化の違い。
佐藤には。
「そなたは?」
突然問われる。
「え?」
「他の者達は、それぞれ優れた力や知識を持つ」
「そなたは何を持つ?」
佐藤。
止まる。
考える。
レンの剣。
エレノアの魔法。
フィアの力。
貴光の教養。
自分は。
「……」
ポテチ。
とは言えない。
絶対言えない。
皇帝相手に。
無限ポテチ生成能力です。
そんなこと言えるはずがない。
「えーっと」
困る。
すると。
貴光。
静かに言った。
「佐藤は」
「人を見る目を持つ者なり」
「え?」
佐藤。
驚く。
貴光は続ける。
「我らの中で最も普通なり」
「されど」
「普通だからこそ、異常に気付ける」
「皆が進みすぎる時、止められる者なり」
沈黙。
珍しく。
まともな評価。
佐藤。
少し照れる。
「……」
「急に褒めるなよ」
皇帝。
笑う。
「なるほど」
「確かに重要な役目だ」
佐藤。
少しだけ。
胸を張った。
しかし。
その頃。
宮廷の別の場所。
数人の貴族達が集まっていた。
「皇帝陛下が西の者を気に入ったらしい」
「玲華皇女の影響力が増すな」
「面白くない」
静かな声。
「だが焦る必要はない」
「異国人など、宮廷の流れを知らぬ」
「少し揺らせば崩れる」
華やかなる宮廷。
美しき文化。
されど。
その裏には。
静かなる争いが存在する。
そして。
貴光達はまだ知らない。
剣も魔法も通じぬ戦いが。
少しずつ近づいていることを。




