華国宮廷へ招かれ、鉄の牛車主ついに貴族扱いされしこと
華国皇都。
その中心。
皇宮。
遠くより見えていた巨大なる建物は、近づくほどに存在感を増していった。
高き城壁。
朱色に染められし門。
龍を模した飾り。
石畳の道。
そして門を守る兵達。
西大陸の城とは明らかに違う。
敵を防ぐためだけのものではない。
国の歴史。
皇帝の威厳。
積み重ねし文化。
それらを示すための場所であった。
「……でっか」
佐藤健一は思わず声を漏らした。
「王城とか色々見てきたけど、また違うな」
隣のレンも静かに頷く。
「ああ」
「強さを見せる城じゃなくて、歴史を見せる城って感じだな」
「勇者っぽい感想」
「どういう意味だ」
「いや、たまにちゃんとしてるなって」
「普段どう思ってるんだよ」
二人がそんな会話をしている間にも、周囲の華国兵達は興味深そうに一行を見ていた。
西より来た旅人。
皇女を救った者達。
そして。
何より。
「……」
「……」
視線の先。
鉄の牛車。
黒牛二頭。
堂々と皇宮前へ到着。
あまりにも異質なる光景であった。
「また始まるぞ」
佐藤。
小声。
「絶対説明求められるぞ」
しかし。
華国の役人。
しばらく見た後。
「珍しき造りの牛車ですね」
終了。
「何でだよ!!」
佐藤、ついに叫んだ。
役人達。
驚く。
「何か問題が?」
「いや問題しかないだろ!」
「鉄だぞ!?」
「牛が引いてるんだぞ!?」
役人。
少し考える。
「丈夫で良きことでは?」
「そうじゃない!」
佐藤、頭を抱えた。
この国。
おかしい。
いや。
今までがおかしかったのか。
分からなくなり始める。
一方。
御池貴光。
満足げ。
「理解深き国なり」
「違う」
即答であった。
やがて。
一行は宮廷内部へ案内された。
長き廊下。
美しき庭。
池。
泳ぐ魚。
風に揺れる木々。
どこを見ても、ただ豪華なだけではない。
静けさがあった。
華やかでありながら、落ち着いている。
フィアは周囲を見渡す。
「綺麗ですね……」
エレノアも頷く。
「そうね」
「派手なのに、嫌な派手さじゃない」
その時。
玲華。
静かに説明する。
「華国では、建物も庭も心を映すものとされています」
「ただ高価なものを置けばよい、という考えではありません」
その言葉。
貴光。
静かに頷いた。
「良き考えなり」
「自然と人は争うものにあらず」
「共に在るものなり」
玲華。
微笑む。
「やはり、貴光様の故郷の考えは我が国と近いですね」
「……」
佐藤。
その光景を見る。
まただ。
普通に会話している。
しかも。
かなり高い次元で。
「違和感すごい」
ぽつり。
レンが聞く。
「何が?」
「貴光さんが文化人扱いされてる」
「いや実際そうなんじゃないのか?」
「……」
佐藤。
考える。
確かに。
平安貴族。
普通に考えれば教養階級。
文字。
歌。
礼儀。
政治。
それらを学ぶ存在。
ただ。
問題。
「今までの行動が全部邪魔してるんだよな」
軽トラ。
牛。
鍵投棄。
宗教化。
印象が強すぎた。
しばらく進み。
一行は大広間へ通された。
そこには多くの官僚達がいた。
華国の政治を動かす者達。
そして。
中央。
一人の老人。
白き髭。
鋭き目。
豪華な衣。
だが、威圧よりも落ち着きを感じさせる人物。
玲華。
深く礼をする。
「父上」
その一言。
一同理解する。
華国皇帝。
巨大なる国を治める者。
「戻ったか、玲華」
皇帝は静かに言った。
「無事で何よりだ」
父としての声。
されど。
次の瞬間。
皇帝としての目になる。
「そして」
「そなた達が娘を救いし西の客人か」
レン。
エレノア。
フィア。
それぞれ礼をする。
佐藤も慌てて合わせる。
そして。
貴光。
自然に礼をした。
その所作。
華国のものではない。
されど。
誰が見ても分かった。
相手への敬意。
身分ある者としての振る舞い。
広間。
少し静まる。
皇帝。
目を細めた。
「ほう」
「面白い」
貴光を見る。
「そなた、ただの旅人ではないな」
佐藤。
心の中で思う。
いや。
ある意味ただの旅人です。
軽トラを牛に引かせてます。
でも言えない。
空気が違いすぎる。
貴光。
静かに答える。
「我は御池貴光」
「遠き地より来たりし者なり」
「今は旅を楽しむ身に過ぎませぬ」
珍しく。
普通。
完全に貴族。
佐藤。
小さく震える。
「誰だ……?」
エレノア。
横から小声。
「本人よ」
「知ってる」
「でも違和感が」
その時。
皇帝。
小さく笑った。
「玲華よ」
「良き客を連れてきたな」
玲華。
嬉しそうに頭を下げる。
しかし。
全員が歓迎していた訳ではなかった。
広間の端。
数人の貴族。
静かに見ていた。
西から来た得体の知れぬ者達。
皇女が連れてきた客人。
それを快く思わぬ者。
当然。
存在する。
その夜。
一行には宮廷内の客室が用意された。
豪華な部屋。
美しい庭。
静かな夜。
佐藤は窓の外を見る。
「なんか」
「今までと違うな」
レンが答える。
「ああ」
「敵がいるとしても、剣で倒す相手じゃなさそうだ」
「だよな」
二人。
何となく感じていた。
ここから始まる旅は。
今までとは違う。
力ではなく。
言葉。
知恵。
人との関係。
それが重要になる場所。
そして。
同じ頃。
宮廷の奥。
ある貴族が静かに言った。
「玲華皇女が戻られたか」
「しかも西の者を連れて」
暗き部屋。
灯る火。
「面白くないな」
静かな一言。
華やかなる宮廷。
その裏側。
見えぬ戦いが。
少しずつ動き始めていた。




