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ある日神の寄越し給ひし異形の獣に撥ねられて失せにければ異世界へ転生仕りき、されど能力の鉄の牛車召喚も黒き神境(?)とやらも使いよう皆無なり!  作者: イグアナ
旅路再開編

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新しき大陸へ至り、華なる国を見しこと

 朝霧。


 それは海を白く包み込み、遠き景色を隠していた。


 グラン・オルフェの船は、ゆっくりと波を越え進みたり。


 数日前まで果てなく続いていた海。


 どこを見ても同じ青き世界。


 されど今。


 空気が違っていた。


 潮の香りの奥に、微かに混じる草木の匂い。


 飛び交う鳥。


 流れてくる木の葉。


 それら全てが示していた。


 陸が近いことを。


「……」


 佐藤健一は甲板の端に立ち、霧の先を見つめていた。


「本当にあったんだな」


 小さく呟く。


 頭では理解していた。


 玲華という華国の少女と出会った。


 船も見た。


 存在することは分かっている。


 それでも。


 実際に見るまでは、どこか夢のようであった。


 海の向こう。


 知らぬ大陸。


 新しき世界。


 そんなものが本当に目の前にある。


「不思議?」


 隣に来たエレノア・シルヴァリアが尋ねる。


「まあな」


 佐藤は頷く。


「考えてみれば、異世界に来た時点で十分おかしいんだけどさ」


「今さら?」


「いや本当に今さら」


 佐藤は苦笑した。


 軽トラに轢かれた平安貴族。


 ポテチを出す能力。


 神界。


 魔王。


 巨大虫。


 散々意味不明なものを見てきた。


 だが。


 この瞬間の感覚は、それらとは違った。


 未知なるものを見る。


 純粋な旅の感覚。


「なんか」


「やっと冒険してる気がする」


 その言葉に。


 エレノアは少し笑った。


「今までも十分冒険だったと思うけど?」


「いや」


 佐藤。


 即答。


「あれは事件」


「……否定できないわね」


 二人。


 少し笑ひたり。


 


 その時。


 前方より声。


「見えたぞ!!」


 船員の叫び。


 全員。


 甲板へ集まりたり。


 そして。


 風が吹く。


 白き霧。


 少しずつ。


 晴れていく。


 最初に見えたもの。


 山。


 高く。


 雲へ届かんばかりの山々。


 その山肌には緑広がり、霧が流れ、まるで絵の中の世界のようであった。


 次に見えしもの。


 建物。


 西大陸とは違う。


 反り返った屋根。


 赤き柱。


 美しき装飾。


 港に並ぶ船も、人々の服装も、何もかもが違っていた。


「……」


 レン。


 言葉を失う。


「すごいな」


 勇者として様々な場所を旅した。


 多くの国を見た。


 されど。


 これは初めてであった。


 完全に違う文明。


 違う歴史。


 違う世界。


 フィアも静かに見つめる。


「綺麗……」


 その言葉。


 誰も否定せず。


 ただ。


 同じ景色を見たり。


 


 そして。


 御池貴光。


 彼もまた。


 珍しく黙っていた。


「……」


 佐藤。


 それに気付く。


「貴光さん?」


「大丈夫?」


「魚の話しないけど」


「何故そこで魚なり」


「いや昨日まで魚魚言ってたから」


 貴光。


 少し不満げ。


 されど。


 すぐ再び景色を見る。


「……」


「美しき地なり」


 静かなる言葉。


「山」


「建物」


「人の営み」


「どれも雅なり」


 佐藤。


 少し驚いた。


 いつもの変な意味ではない。


 本当に。


 心より美しいと思っている声。


 そして。


 玲華。


 その横に立つ。


「気に入りましたか?」


 貴光。


 頷く。


「うむ」


「良き国なり」


 玲華。


 少し嬉しそうに笑った。


 


 やがて。


 船は港へ入る。


 華国の港。


 そこは活気に満ちていた。


 市場では様々なる品が売られ、商人達が声を上げる。


 香辛料。


 茶。


 絹。


 陶器。


 見たこともない果物。


 西大陸には存在しない文化が、そこには広がっていた。


「うわ……」


 佐藤。


 周囲を見る。


「本当に違うな」


 エレノアも頷く。


「同じ人間なのに、ここまで変わるのね」


 そんな中。


 港の者達も。


 当然。


 彼らを見る。


 西より来たりし者。


 珍しき服装。


 見知らぬ船。


 そして。


 最後。


 船から降ろされる。


 それ。


 軽虎。


「……」


「……」


 華国の民。


 静まりたり。


 佐藤。


 額を押さえる。


「あー」


「来た」


「絶対来た」


 久々の。


 軽虎説明時間。


 しかし。


 一人の老人商人。


 近付き。


 じっと見る。


 牛。


 車。


 鉄。


 そして。


 言った。


「珍しき牛車だ」


「また受け入れた!?」


 佐藤、叫ぶ。


「何で!?」


「何でこっちの大陸こんな適応早いの!?」


 老人。


 不思議そうな顔。


「牛が牽く車であろう?」


「その理論!!」


 佐藤。


 頭抱える。


 一方。


 貴光。


 明らかに満足げ。


「やはり文化ある地なり」


「違うと思う」


 即答であった。


 


 その後。


 一行は玲華の案内で都へ向かうこととなった。


 港より続く道。


 石畳。


 並ぶ木々。


 遠くに見える巨大なる城壁。


 その向こう。


 華国の中心。


 皇都。


 長き歴史を持つ都。


 玲華はそれを見つめる。


 その表情。


 少しだけ。


 変わった。


 懐かしさ。


 安心。


 そして。


 何か別の感情。


 佐藤はそれに気付く。


「玲華?」


「どうした?」


 玲華。


 少し間を置き。


 微笑む。


「いえ」


「久しぶりに戻っただけです」


 そう答えた。


 しかし。


 その目は。


 ただ帰郷した者の目ではなかった。


 


 その夜。


 一行は華国の宿へ泊まることとなる。


 西とは違う建物。


 違う料理。


 違う音楽。


 全てが新鮮であった。


 貴光は茶を飲み。


 静かに頷く。


「良き茶なり」


「そこは分かるんだ」


 佐藤が言う。


「茶は重要なり」


 その言葉。


 玲華は少し驚いた顔をした。


「あなたの国にも茶の文化が?」


「あり」


「詩も」


「音も」


「花も」


「季節を愛でる心も」


 玲華。


 静かに貴光を見る。


 今までの者達とは違う反応。


 この異国の男。


 ただ奇妙なる旅人ではない。


 そう感じ始めていた。


 


 翌朝。


 一行は皇都へ向かう。


 巨大なる門。


 その先。


 広がる華国最大の都。


 そして。


 そこで待つもの。


 宮廷。


 皇族。


 権力。


 陰謀。


 今までのように剣だけでは解決できぬ戦い。


 


 されど。


 まだ彼らは知らぬ。


 この地において。


 最も力を発揮するのは。


 勇者の剣でも。


 魔法でも。


 不壊の軽虎でもなく。


 長き間変人扱いされ続けた。


 一人の平安貴族の教養であることを。


 


 こうして。


 御池貴光一行。


 新大陸。


 華国へ至りたり。


 


 新しき物語が。


 静かに幕を開ける。

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