荒れ狂ふ海越え、鉄の牛車揺られしこと
海の上。
見渡す限りの青き世界。
大陸を離れてより、数日経ちたり。
最初こそ珍しき景色に心躍らせし一行なれど。
海というもの。
毎日見れば。
「……」
「……」
「……」
青。
以上。
「暇だ」
佐藤健一、甲板に座り呟いた。
「すごいよな」
「何が?」
レンが横を見る。
「最初はあんなに感動してたのに」
「三日経ったら海しかないって感想になる」
レン。
苦笑する。
「まあ平和ってことだろ」
「それはそう」
魔王。
巨大虫。
神。
転生者。
思い返せば。
平和な時間など珍しかった。
ただ海を進むだけ。
それだけの日々。
悪くない。
その時。
後方。
「もぉぉ……」
低き声。
佐藤。
振り向く。
黒牛。
完全に船生活に飽きていた。
「お前らも暇か」
黒牛。
「もぉ」
「分かる」
会話成立しているようでしていない。
そんな横。
御池貴光。
優雅に茶を飲む。
「静かなる時間も良きものなり」
「まあ今回は同意」
佐藤。
珍しく頷いた。
しかし。
その平和は。
長く続かなかった。
⸻
夕刻。
風。
変わり始めたり。
最初に気付いたのは。
船長グランであった。
「……」
空を見る。
黒き雲。
遠方。
波。
「帆を調整しろ」
船員達。
即座に動く。
佐藤。
「どうした?」
グラン。
短く答える。
「嵐だ」
⸻
夜。
海は姿を変えたり。
穏やかだった水面。
今は。
巨大なる壁。
波。
船を叩く。
風。
帆を揺らす。
船員達。
必死に動く。
「綱押さえろ!」
「帆を守れ!」
グランの声響く。
佐藤達も手伝う。
「これ大丈夫なのか!?」
「大丈夫にするんだよ!」
グラン叫ぶ。
「海はそういう場所だ!」
その時。
船。
大きく傾く。
「うおっ!?」
佐藤。
転びかける。
しかし。
横より手。
エレノア。
「しっかりしなさい!」
「助かった!」
一方。
レン。
船員達と共に動いていた。
勇者。
魔物相手ではなく。
自然相手。
剣では切れぬ敵。
⸻
船内。
フィア。
黒牛達を落ち着かせていた。
「大丈夫です」
「怖くないですよ」
黒牛。
不安げ。
だが。
その横。
貴光。
静かに立つ。
「案ずること無し」
黒牛。
顔を上げる。
「荒き道も」
「ゆっくり進めば越えられるものなり」
牛達。
落ち着く。
フィア。
少し驚く。
「貴光さんって……牛には本当に優しいですよね」
「牛は尊きものなり」
「……」
褒めたのか違うのか。
分からなくなった。
⸻
その時。
外。
どぉん。
違う音。
波ではない。
「何だ!?」
船員が叫ぶ。
海面。
巨大なる影。
現れしもの。
巨大な海魔。
蛇にも似たり。
龍にも似たり。
大海の主。
船員達。
顔色変える。
「こんな時に……!」
レン。
剣へ手を伸ばす。
しかし。
グラン。
「待て」
「え?」
「刺激するな」
グラン。
海魔を見る。
「あいつも嵐から逃げてるだけだ」
「……」
敵ではない。
ただ。
同じ嵐の中にいる生命。
レン。
ゆっくり剣から手を離す。
「そうか」
「倒すだけが正解じゃないんだな」
⸻
嵐。
一晩続いた。
誰も眠れず。
誰も諦めず。
そして。
朝。
雲。
切れる。
光。
海へ差す。
船。
生きていた。
「……」
佐藤。
甲板へ座り込む。
「疲れた……」
エレノアも隣に座る。
「でも」
「越えたわね」
遠く。
海魔。
静かに泳ぎ去っていく。
貴光。
それを見る。
「美しき生き物なり」
佐藤。
頷く。
「まあ」
「今回は同意」
戦わず。
勝たず。
ただ乗り越える。
そんな旅も。
悪くない。
そして。
誰も知らぬこと。
この嵐を越えた先。
彼らは。
ついに。
新しき世界との最初の出会いを迎えるのであった。




