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ある日神の寄越し給ひし異形の獣に撥ねられて失せにければ異世界へ転生仕りき、されど能力の鉄の牛車召喚も黒き神境(?)とやらも使いよう皆無なり!  作者: イグアナ
旅路再開編

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297/313

果てなき海へ漕ぎ出し、鉄の牛車も船に乗りしこと

 朝。


 港町。


 普段ならば魚売り達の声響き、商人達の行き交ふ賑やかなる場所。


 されど。


 この日。


 人々の視線は、一隻の船へ集まりたり。


 


 グラン・オルフェの造りし船。


 


 誰も越えたことなき東の海。


 その先を見るためだけに造られし船。


 


 多くの者は笑ひたり。


 


 「海の向こうなど何も無い」


 「夢物語だ」


 「命を捨てる気か」


 


 そう言はれ続けた船。


 


 されど今。


 その船は。


 初めて本当に海へ出ようとしていた。


 



 


「よし」


 


 グラン。


 船員達へ指示を出す。


 


「荷物確認!」


「水、食料、予備帆、全部積め!」


 


 船員達。


 慌ただしく動き回る。


 


 一方。


 


 港の端。


 


 問題の物。


 


 軽虎。


 


 


「……」


 


 船員達。


 見る。


 


 鉄の箱。


 


 見る。


 


 牛。


 


 見る。


 


 また鉄の箱。


 


 


 一人。


 静かに呟く。


 


「……本当に積むのか?」


 


 佐藤健一。


 頷く。


 


「分かる」


 


「俺も最初からそう思ってる」


 


 


 別の船員。


 


「馬車なら分かるんだが……」


 


「馬車じゃない」


 


 佐藤即答。


 


 


 その瞬間。


 


 後ろより声。


 


 


「牛車なり」


 


 


「違う!!」


 


 


 もはや条件反射であった。


 


 


 御池貴光。


 不思議そうに首を傾げる。


 


「牛が牽くゆゑ牛車なり」


 


「その理論だと何でも牛車になるんだよ」


 


 


「ならば何なり」


 


 


「……」


 


 佐藤。


 軽虎を見る。


 


 


 軽トラ。


 


 しかし。


 エンジン使えず。


 牛牽引。


 不壊。


 異世界。


 


 


「……」


 


 


「何なんだろうな」


 


 


 ついに本人も分からなくなりたり。


 



 


 数時間後。


 


 どうにか積載完了。


 


 軽虎は船内下層へ固定された。


 


 そして。


 


 黒牛二頭。


 


 船へ乗る。


 


 


「もぉー……」


 


 


 明らかに不満げ。


 


 


 エレノア・シルヴァリア。


 苦笑する。


 


「牛って船酔いするのかしら」


 


 


「知らん」


 


 佐藤、即答。


 


「そもそも牛を海越えの旅に連れてくこと普通ないだろ」


 


 


 しかし。


 


 貴光。


 黒牛の頭を撫でたり。


 


 


「案ずるな」


 


「新しき景色見に行くのみなり」


 


 


 黒牛。


 


 少し落ち着く。


 


 


「……」


 


 佐藤。


 それを見る。


 


 


「そういう所だけ妙に上手いよな」


 


 


 人間相手には意味不明。


 


 されど。


 


 牛とは通じる。


 


 不思議なる男であった。


 



 


 昼。


 


 ついに。


 


 出航。


 


 


 帆。


 大きく広がる。


 


 風受け。


 


 船動き出す。


 


 


 港。


 少しずつ遠ざかる。


 


 


 大陸。


 


 彼らが旅した場所。


 


 出会ひ。


 戦ひ。


 笑ひ。


 


 多くの出来事があった場所。


 


 


 それが。


 


 少しずつ。


 


 小さくなる。


 


 


「……」


 


 佐藤。


 甲板より眺めたり。


 


 


「変な感じだな」


 


 


 レン。


 横へ来る。


 


「何がだ?」


 


 


「いや」


 


「今までさ」


 


「どれだけ遠く行っても、同じ大陸だったじゃん」


 


 


「……」


 


 


「今回は本当に知らない場所なんだなって」


 


 


 レン。


 少し笑ふ。


 


 


「怖いか?」


 


 


 佐藤。


 少し考える。


 


 


「まあ」


 


「ちょっとな」


 


 


 そして。


 


 


「でも楽しみでもある」


 


 


 レン。


 頷く。


 


 


「俺もだ」


 



 


 夕方。


 


 船。


 既に周囲は海のみ。


 


 


 右を見ても。


 


 左を見ても。


 


 青。


 


 


 フィア。


 静かに海を眺めていた。


 


 


「すごいですね……」


 


 


 エレノア。


 隣に立つ。


 


 


「世界って広いわね」


 


 


 魔王との戦い。


 


 それが世界の全てだと思っていた。


 


 


 だが。


 


 違った。


 


 


 知らぬ土地。


 知らぬ人々。


 知らぬ文化。


 


 


 世界にはまだ。


 


 見ていないものが多すぎる。


 



 


 夜。


 


 甲板。


 


 貴光。


 一人。


 月を見る。


 


 


 そこへ。


 


 佐藤。


 


 


「何してんの?」


 


 


「月見なり」


 


 


「あー」


 


「それは平安っぽい」


 


 


 珍しく納得。


 


 


 貴光。


 静かに言ふ。


 


 


「同じ月なり」


 


 


「え?」


 


 


「場所変われど」


 


「海越えようとも」


 


「空にあるものは変わらぬ」


 


 


 佐藤。


 黙る。


 


 


 また。


 


 たまに出る。


 


 普通に良い言葉。


 


 


「……」


 


 


「やっぱ貴光さんって、たまにちゃんと貴族だよな」


 


 


「常になり」


 


 


「それは違う」


 


 


 即答。


 


 


 貴光。


 少し不満げ。


 


 



 


 その頃。


 


 船の下。


 


 


 軽虎。


 


 静かに揺れる。


 


 


 黒牛。


 


 眠る。


 


 


 鉄の牛車。


 


 ついに。


 


 陸を離れたり。


 


 


 行き先。


 


 誰も知らぬ海の先。


 


 


 新たなる大陸。


 


 


 そこで待つものを。


 


 この時の彼らは。


 


 まだ知らなかった。

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