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ある日神の寄越し給ひし異形の獣に撥ねられて失せにければ異世界へ転生仕りき、されど能力の鉄の牛車召喚も黒き神境(?)とやらも使いよう皆無なり!  作者: イグアナ
旅路再開編

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海越えの船造りし男、夢を追ひ続けしこと

 港外れ。


 古き造船所。


 そこは、人々の賑わう港とは少し離れし場所にありたり。


 波の音のみ響き。


 潮風に晒されし木材。


 積まれた工具。


 描き直され続けた大量の設計図。


 そして。


 中央。


 巨大なる船。


 


 佐藤健一。


 それを見上げ、思わず呟く。


「でっか……」


 


 今まで港で見た商船よりも明らかに大きい。


 幅広き船体。


 高き帆。


 荒波を越えるための厚き外板。


 


 ただ物を運ぶためではない。


 


 海へ挑むための船。


 


 そんな印象を受けたり。


 


 


「これ」


 エレノア・シルヴァリアも見上げる。


「本当に一人で?」


 


 目の前の男。


 造船師。


 腕を組み答ふ。


 


「設計は俺だ」


「組み立ては職人にも手伝わせたがな」


 


 男。


 名を。


 


 グラン・オルフェ。


 


 この港では有名なる変わり者であった。


 



 


「で」


 グラン。


 一行を見る。


 


「お前ら本気で海の向こうへ行く気か」


 


 レン。


 頷く。


 


「ああ」


 


「理由は?」


 


「見てみたいから」


 


 その答え。


 


 グラン。


 一瞬黙る。


 


 そして。


 


 笑った。


 


「いいな」


 


「え?」


 


「そういう馬鹿は嫌いじゃない」


 


 


 佐藤。


 小声。


 


「褒め方独特すぎだろ」


 


 


 グラン。


 船を見上げる。


 


「俺も同じだ」


 


「昔から言われた」


 


「海の先なんぞ何もない」


「行くだけ無駄」


「帰って来られない」


 


 


 手。


 船体へ触れる。


 


 


「だが」


 


「誰も行ってないなら」


 


「無いとは言えねぇだろ」


 


 


 その言葉。


 


 一行。


 静かに聞きたり。


 


 


 佐藤。


 少し笑う。


 


「意外とまともな理由だった」


 


「何だと思ってた」


 


「いや、今まで会った変人達がさ……」


 


 軽虎。


 歩く家。


 空飛ぶ家。


 その他多数。


 


 思い返す。


 


「……」


 


「まあ色々」


 


 説明を諦めた。


 



 


 その後。


 


 問題の確認。


 


 軽虎。


 


 グラン。


 初めて見たり。


 


「……」


 


「……」


 


 無言。


 


 軽虎。


 


 牛。


 


 軽虎。


 


 


「何だこれ」


 


「だよな!」


 


 佐藤、なぜか嬉しそうに反応。


 


「その反応久々に聞いた!」


 


 


 グラン。


 近づく。


 


 鉄の車体を叩く。


 


 こんこん。


 


「金属?」


 


「でも錆びてない」


 


「構造も見たことねぇ」


 


 


 職人の目。


 


 


「誰が作った」


 


 


 その瞬間。


 


 全員。


 沈黙。


 


 


 そして。


 


 空。


 


 見上げる。


 


 


「……何で空見るんだ」


 


 グラン困惑。


 


 


 佐藤。


 


「説明すると長い」


 


 



 


 数十分後。


 


 グラン。


 話を聞き終える。


 


 


「異世界?」


「神?」


「壊れない?」


「鉄の牛車?」


 


 


「……」


 


 


 そして。


 


 


「なるほどな」


 


 


「納得した!?」


 


 佐藤、叫ぶ。


 


「早くない!?」


 


 


 グラン。


 当然のように答える。


 


「世の中には分からねぇものがある」


 


 


「いや限度あるだろ!」


 


 


 しかし。


 職人というもの。


 


 時として。


 


 異常への適応が早い。


 


 


「まあいい」


 


 グラン。


 船を見る。


 


「積める」


 


 


「本当か!?」


 


 レンが驚く。


 


 


「ああ」


 


「元々未知の大陸へ行く船だ」


 


「食料、資材、動物」


「何でも積めるようにしてある」


 


 


 そして。


 


 軽虎を見る。


 


 


「鉄の箱くらい増えても変わらん」


 


 


「鉄の箱扱い」


 


 佐藤、呟く。


 


 だが。


 少し安心した。


 


 



 


 夕暮れ。


 


 造船所。


 


 出航準備始まりたり。


 


 食料。


 水。


 道具。


 


 未知なる海へ向かう準備。


 


 


 貴光。


 船を見る。


 


 


「大きき船なり」


 


「ですね」


 


 佐藤、横へ立つ。


 


 


「海の向こう」


「何あるんだろうな」


 


 


 貴光。


 静かに答ふ。


 


 


「分からぬ」


 


 


 そして。


 


 


「されど」


 


「分からぬゆゑ、行く価値あり」


 


 


 佐藤。


 少し笑う。


 


 


「また珍しく良いこと言った」


 


 


 すると。


 


 貴光。


 


 


「あと珍しき魚食ひたいなり」


 


 


「やっぱそこかよ」


 


 


 いつもの二人であった。


 


 


 こうして。


 


 海を越える手段。


 


 手に入りたり。


 


 未知なる大陸。


 


 新たなる文化。


 


 新たなる出会い。


 


 


 その扉は。


 


 少しずつ。


 


 開かれ始めていた。

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