海渡る船探し、されど鉄の牛車問題起こりしこと
大陸の果て。
港町。
そこは、これまで巡りし街とはまるで違ふ場所であった。
潮の香り。
空を舞ふ海鳥。
木箱いっぱいに詰められし魚。
大声で値を叫ぶ商人達。
遠き国より来たりし品々。
様々なる文化交じり合ひし地なり。
そして。
「おお……」
御池貴光。
市場を見渡し、静かに声漏らしける。
「魚多きなり」
「そこ!?」
佐藤健一、即座に振り向いた。
「初めて海来たんだろ!?」
「もっとこう、広いとか綺麗とかあるだろ!」
貴光。
首傾げる。
「魚も海の恵みなり」
「いや間違ってないけどさ!」
佐藤、頭抱えたり。
目の前には果てなき大海。
輝く波。
巨大なる帆船。
旅人ならば心奪われる景色。
しかし。
平安貴族。
魚。
「まあ……貴光らしいわね」
エレノア・シルヴァリア、苦笑する。
「ある意味安心した」
レンも肩をすくめたり。
世界を救おうが。
魔王を倒そうが。
巨大虫と戦おうが。
御池貴光。
変わらず。
⸻
さて。
一行の目的。
船探し。
新たなる大陸へ渡るためには、当然船が必要なり。
だが。
問題はすぐ発覚した。
「無理だな」
船長。
即答。
「早っ」
佐藤、思わず声出す。
目の前。
港に停泊せし大型船。
その主たる船長は腕組みしながら首を振った。
「人なら乗せられる」
「荷物もまあ何とかなる」
「じゃあ――」
佐藤が言ひかけた瞬間。
船長。
指差す。
鉄の牛車。
「あれは何だ」
「……」
「……」
沈黙。
佐藤。
ゆっくり振り返る。
「まあ、そうなるよな」
今まで忘れていた。
慣れすぎていた。
だが。
冷静に考えれば。
牛二頭。
そして。
謎の鉄箱。
「何で俺らこれ普通に受け入れてたんだろ」
佐藤、小さく呟く。
船長。
再び尋ねる。
「で」
「あれは何なんだ?」
佐藤。
説明しようとする。
しかし。
先に。
貴光。
「鉄の牛車なり」
しん。
船長。
軽虎を見る。
牛を見る。
再び軽虎を見る。
「……まあ」
「牛が牽いてるしな」
「そこで納得すんな!!」
佐藤、全力で叫んだ。
「おかしいだろ!」
「鉄だぞ!?」
「どう見ても牛車じゃないだろ!」
船長。
「でも牛が牽いてるぞ」
「そこだけ見るな!!」
貴光。
何故か少し誇らしげ。
「理解ある者なり」
「違う!」
「理解じゃなくて諦め!」
⸻
その後。
船探しは難航した。
二件目。
「無理だ」
三件目。
「沈む」
四件目。
「何だこれ」
結果。
全滅。
夕刻。
港。
佐藤、木箱に腰掛けたり。
「まさかここで軽トラ問題再発するとは……」
レン。
苦笑。
「今まで普通に旅できてたからな」
「普通じゃないんだよ」
佐藤、即答。
「忘れるなよ」
「あれ最初からずっと意味分からんからな」
その時。
フィア。
少し迷ひながら口開く。
「軽虎を……置いていくことは……」
その瞬間。
空気。
止まった。
貴光。
静かに軽虎を見る。
「それは出来ぬ」
短き言葉。
されど。
迷い無し。
佐藤も何も言わず。
ただ軽虎を見る。
最初。
訳の分からぬ存在だった。
鍵は川へ投げ捨てられ。
牛に牽かれ。
神扱いされ。
宗教まで出来た。
面倒事の中心。
だが。
同時に。
ずっと旅を共にしてきたもの。
「……まあ」
佐藤。
小さく笑ふ。
「あんだけ振り回されたけどさ」
「今さら置いてくとか無理だろ」
黒牛。
「もぉー」
「お前らもな」
佐藤、黒牛を撫でたり。
⸻
夜。
宿。
一行、作戦会議。
「大きい船を探すしかないわね」
エレノアが言ふ。
「でも海越えできる船なんて、そう簡単には……」
その時。
近くに座っていた老人。
静かに言った。
「あるぞ」
一同。
振り返る。
「本当に?」
レンが問ふ。
老人、頷く。
「港の外れに変わり者がおる」
「造船師だ」
「変わり者……」
佐藤。
嫌な予感。
「どんな人?」
老人。
「天才」
「お」
「そして変人」
「あー」
佐藤。
妙に納得した。
「何で毎回そういう人に当たるんだろ」
⸻
翌朝。
一行は港外れへ向かった。
古びた造船所。
波打つ海辺。
そこに。
巨大なる船あり。
普通の商船ではない。
未知の海へ挑むため作られし船。
その前。
一人の男が立っていた。
「客か」
男。
振り返る。
レンが前へ出る。
「海の向こうへ行きたい」
男。
一瞬。
黙る。
そして。
笑った。
「ようやく来たか」
「海を恐れぬ馬鹿共が」
佐藤。
小声。
「これ歓迎されてる?」
エレノア。
「多分違うわね」
こうして。
未知なる海へ至る道。
静かに開き始めたり。




