大陸の果てへ向かひ、海を見ること
北の雪原を離れし御池貴光一行。
目指すは東。
大陸の果て。
そして、まだ見ぬ大海なり。
されど。
旅路は急ぐものに非ず。
何故ならば。
彼らの移動手段。
鉄の牛車。
速度。
時速四キロであったゆゑ。
「……」
佐藤健一。
荷台より流れる景色を眺めていた。
「なぁ」
「む?」
御池貴光、茶を飲みながら振り向く。
「普通さ」
「海目指すぞーってなったら、もうちょっとこう……」
「馬とか」
「馬車とか」
「速い移動手段使わない?」
貴光。
不思議そうな顔をした。
「何故なり」
「何故って」
「遅いから」
即答。
しかし。
貴光は静かに首を振る。
「旅とは道中を楽しむもの」
「速さのみ求むるは惜しきことなり」
「……」
佐藤。
一瞬。
感心した。
確かに。
良いことを言っている。
旅の本質。
景色。
出会い。
それを楽しむ。
珍しくまともなる発言。
だが。
次の瞬間。
「それに牛車より速き乗り物など落ち着かぬ」
「そこ平安基準かよ」
結局いつも通りであった。
⸻
数日後。
一行が辿り着きし場所。
そこは今までとは少し違ふ土地であった。
雪は消え。
暖かな風。
広き草原。
そして街道には、見慣れぬ服装の商人達。
「雰囲気変わったわね」
エレノア・シルヴァリア、周囲を眺めながら言ひたり。
「北とは全然違う」
フィアも頷く。
「暖かいです」
道沿い。
商人達が荷車を引く。
遠方より香辛料の香り。
見知らぬ文字。
見知らぬ品々。
世界は広い。
魔王との戦いだけが、この世界ではなかった。
「なんか」
佐藤、呟く。
「本当に旅してる感じするな」
今までは。
何か起きる。
巻き込まれる。
解決する。
また巻き込まれる。
その繰り返し。
しかし今。
ただ世界を見る旅。
それも悪くなかった。
⸻
夕刻。
一行。
小さな港町手前の宿場へ着きたり。
そこでは多くの船乗り達が酒を飲み、話していた。
「海の向こう?」
酒場の男。
その言葉に笑う。
「やめとけやめとけ」
「何で?」
レンが尋ねる。
男は杯を置き、答へたり。
「東海は荒れる」
「普通の船じゃ越えられねぇ」
「魔物か?」
「それもある」
男。
少し真面目な顔になる。
「だが一番怖ぇのは、何があるか分からねぇってことだ」
「……」
「海の先に何があるか」
「本当に大地があるのか」
「そこに人がいるのか」
「誰も知らねぇ」
その言葉。
一同の中に残る。
未知。
それは恐怖。
されど。
同時に。
憧れでもある。
⸻
夜。
宿。
貴光。
窓より月を見る。
佐藤。
その横へ来たり。
「怖くないんですか?」
「何がなり」
「海ですよ」
「知らない場所ですよ」
貴光。
少し考える。
「佐藤」
「はい」
「我は既に」
「一度知らぬ世界へ来たり」
「……」
「されど」
「そこで友と出会ひ」
「様々なるものを見たり」
静かな言葉。
「ならば」
「また知らぬ場所へ行くこと」
「悪きことではあるまい」
佐藤。
少し笑う。
「珍しく主人公みたいですね」
「?」
「いや、何でもないです」
だが。
佐藤は思った。
この人は。
根本だけは最初から変わっていない。
軽トラ。
魔王。
神。
戦争。
どれだけ大きなことに巻き込まれても。
ただ。
知らないものを見る。
それだけを楽しんでいる。
⸻
翌朝。
一行。
ついに大陸東端へ辿り着く。
丘を越え。
その先。
広がるもの。
青。
どこまでも続く。
青き世界。
「……」
エレノア。
目を奪われる。
フィア。
言葉を失う。
レン。
静かに笑う。
そして佐藤。
「海だ」
ただ、それだけ呟いた。
波の音。
潮の香り。
果てなき水平線。
貴光。
ゆっくり歩み出る。
風。
衣を揺らす。
「大きき水なり」
「感想それ!?」
佐藤。
即座に突っ込む。
しかし。
少し安心した。
どこへ行こうと。
この人は。
このままだ。
こうして。
御池貴光一行。
大陸の果てへ至りたり。
次なる道。
海。
その向こう。
まだ誰も知らぬ新たなる大地。
物語は。
静かに。
次なる章へ向かひ始めていた。




