北の地を離れ、果てなき海の噂聞きしこと
北方の街にて過ごせし日々も、終わり近づきたり。
巨大なる虫との戦。
空飛ぶ鉄の鳥。
異国より来たりし兵士。
そして軽虎十二傑などという、本人達すら認めぬ謎の集まり。
思へば短き間に、あまりにも多くのこと起こりたり。
されど。
旅とは止まらぬもの。
御池貴光一行。
再び道へ出ることとなりける。
⸻
朝。
宿屋。
佐藤健一、荷物を整理していたり。
「……」
袋の中を見る。
服。
保存食。
道具。
そして。
大量のジャガイモ。
「……増えてない?」
佐藤、目細めたり。
その瞬間。
袋の中より声。
「気のせいです」
「喋るな」
ポテ彦である。
さらに横。
「旅には備えが必要なのです!」
ポテ子も当然の如く入り込んでいた。
「いやお前ら食料枠じゃないからな」
「では何枠ですか?」
「俺が知りたい」
佐藤、ため息をつく。
昔。
自分の能力はポテチ召喚だった。
それが今。
喋る馬鈴薯二体。
人生とは分からぬものである。
⸻
外。
軽虎。
いつもの如く黒牛二頭に繋がれたり。
白き雪原。
黒き牛。
鉄の牛車。
あまりにも奇妙なる光景。
されど。
今となっては誰も驚かず。
「慣れって怖いわね」
エレノア・シルヴァリア、呟く。
佐藤。
深く頷く。
「本当に」
「最初見た時は頭おかしいと思ったのに」
「今でも頭おかしいとは思ってる」
一方。
御池貴光。
荷台に座り、昨日作者より貰ひし鞠を眺めていた。
「良き品なり」
「蹴鞠する気満々ですね」
「当然なり」
戦。
魔王。
巨大虫。
世界危機。
色々経験した男。
求めるもの。
蹴鞠。
平安貴族であった。
⸻
昼。
一行は北方街道を南東へ進みたり。
雪は少しずつ減り。
白き世界は、草原へ変はり始める。
そんな中。
道沿いの小さな宿場へ寄ることとなりたり。
そこには。
多くの旅人。
商人。
冒険者。
様々な者集まりていた。
「海?」
佐藤、商人の言葉に反応した。
「ああ」
年老いた商人、茶を飲みながら頷く。
「ここより遥か東」
「大陸の果てには大海あり」
「大海……」
貴光、興味深げに呟く。
「雅なる響きなり」
「海って雅判定なんだ」
佐藤が返す。
商人は続けたり。
「昔より言い伝えあり」
「海の向こうには、別の大地ありとな」
その言葉。
一同。
少し静かになりたり。
「別の大陸?」
レンが問ふ。
商人。
肩をすくめる。
「噂だ」
「行った者は少ない」
「海は荒れ、魔物も多い」
「帰らぬ船も数知れぬ」
⸻
その時。
アレクセイが何か呟いた。
貴光、訳す。
「海を越えた先にも人は住むかもしれぬ、と言ひたり」
ヴィクトルも頷く。
彼らからすれば当然。
世界とは一つの大陸のみではない。
しかし。
この世界の多くの者には未知。
海の向こう。
未踏の地。
そう呼ばれる場所なり。
⸻
夜。
焚火。
一行。
今後について話し合っていた。
「どうする?」
佐藤が聞く。
「海って簡単じゃないぞ」
「船必要だし」
「危険もある」
エレノアも頷く。
「でも気になるわね」
「魔王の件が終わってから、世界をちゃんと見てなかったし」
レン。
空を見る。
「新しい大陸か」
「勇者としては興味あるな」
その横。
フィアも小さく頷いた。
「知らない場所……見てみたいです」
そして。
全員。
最後に一人を見る。
御池貴光。
彼は少し考え。
茶を飲み。
そして答へたり。
「行くなり」
「理由は?」
佐藤が聞く。
貴光。
当然のように言ふ。
「見たこと無き景色」
「知らぬ文化」
「それを見るは楽しきことなり」
珍しく。
まとも。
旅人らしき答へ。
佐藤。
少し笑ふ。
「たまには良いこと言いますね」
しかし。
直後。
「あと珍しき菓子食ひたいなり」
「最後で台無し」
いつも通りであった。
⸻
翌朝。
鉄の牛車。
再び進み始める。
目指すは東。
大陸の果て。
まだ誰も知らぬ海。
その先に何があるか。
誰にも分からず。
神すら。
今回は黙っていた。
何故なら。
これは誰かに与へられた物語ではなく。
彼ら自身が選びし旅だからである。
黒牛。
ゆっくり歩む。
鉄の車輪。
道を進む。
速度。
変わらず時速四キロ。
されど。
確実に。
世界の果てへ近づいていた。




