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ある日神の寄越し給ひし異形の獣に撥ねられて失せにければ異世界へ転生仕りき、されど能力の鉄の牛車召喚も黒き神境(?)とやらも使いよう皆無なり!  作者: イグアナ
旅路再開編

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異界の街にて雅求めしこと

 北方の街にて迎へし朝。


 窓の外には白き雪積もり、道行く人々は厚き衣纏ひながら商いへ向かひたり。


 寒き土地なれど。


 市場より聞こゆる声。


 鍛冶場より響く金属音。


 料理屋より漂ふ香り。


 そこには確かなる活気ありけり。


 一行。


 久方ぶりに戦い無き朝を迎へたり。


 魔物の声も無し。


 剣を握り急ぐ必要も無し。


 ただ。


 旅人として過ごす一日なり。


 宿屋の一室。


 佐藤。


 目覚めたり。


 そして。


 しばらく天井を見る。


「……」


「何も起きてない」


 感動。


 それほどまでに最近の出来事。


 異常なりけり。


 魔王。


 神界。


 海。


 巨大虫。


 空戦。


 地下戦争。


 普通の人間なら一生分以上の事件なり。


 その時。


 横より声聞こえたり。


「おはようございます」


 ポテ彦なり。


「……」


 佐藤。


 見る。


「やっぱ朝一番に喋るジャガイモを見る生活は普通じゃないな」


「慣れたのでは?」


「慣れた自分が怖い」


 もっともなり。


 その頃。


 別室。


 貴光。


 昨日買ひし紙を広げておりたり。


 筆。


 香。


 小物。


 そこに並ぶもの。


 武器では無し。


 旅道具でも無し。


 雅なる品々なり。


 貴光。


 満足げに頷きたり。


「良き買ひ物なり」


 そこへ佐藤入りたり。


「何してるんだ?」


「準備なり」


「何の?」


「雅なる時間の準備なり」


 佐藤。


 沈黙。


 そして。


 思ひ出す。


 この男。


 最近はナガンを撃ち。


 巨大虫と戦ひ。


 異世界を歩き回っていたが。


 本来。


 平安貴族なり。


「そういや貴族だったな」


「忘れすぎなり」


 当然な反応なり。


 貴光。


 紙を持ち。


 窓より外を見る。


 白き街。


 降る雪。


 遠き山。


 そして。


 一句。


 詠まんとしたり。


 静寂。


 風情。


 まさしく雅。


 されど。


 その瞬間。


 扉開きたり。


「佐藤様」


 ポテ子なり。


「軽虎様のお掃除をして参りました」


 沈黙。


 雅。


 消えたり。


 佐藤。


 顔を押さへたり。


「タイミング」


 貴光。


 少し悲しげなり。


「歌が逃げたり」


「そんな表現あるんだ」


 平安貴族らしき発言なり。


 その後。


 一行は再び街へ向かひたり。


 目的。


 観光。


 そして。


 買ひ物なり。


 まず。


 貴光。


 向かひし場所。


 広場。


 そこでは子供たちが遊んでおりたり。


 丸き球。


 蹴り合ひ。


 落とさぬよう遊ぶものなり。


 貴光。


 足止めたり。


「……」


「どうした?」


 佐藤問ふ。


「鞠なり」


「ああ、ボールか」


 すると。


 貴光。


 珍しく目を輝かせたり。


「蹴鞠に似たり」


 その言葉。


 佐藤。


 少し驚きたり。


 貴光が食べ物以外に強く反応する。


 珍しきことなり。


 子供たち。


 興味深そうに見る。


「お兄さんもやる?」


 貴光。


 頷く。


「やるなり」


 そして。


 始まりたり。


 蹴鞠。


 佐藤。


 正直。


 少し甘く見ていた。


 ただ蹴るだけ。


 そう思ひたり。


 されど。


 違ひたり。


 貴光。


 落とさぬ。


 一回。


 二回。


 三回。


 優雅に。


 静かに。


 鞠を操る。


「……」


 佐藤。


 驚きたり。


「普通に上手い」


 当然なり。


 貴族として身につけしもの。


 戦いでは無し。


 されど。


 技術なり。


 周囲。


 子供たち。


 拍手。


「すごい!」


 貴光。


 満足げなり。


「雅な遊びなり」


 その姿。


 久方ぶりに。


 本当に貴族らしくありけり。


 ただし。


 腰にはナガンM1895。


 佐藤。


 それを見る。


「情報量が多すぎるんだよな」


 平安貴族。


 蹴鞠。


 拳銃。


 異世界。


 混ざるはず無きもの。


 全て混ざっておりたり。


 一方。


 別の場所。


 アレクセイとヴィクトル。


 市場を歩きたり。


 珍しき異世界の食べ物。


 道具。


 それらを見る。


 そして。


 酒屋。


 発見。


 ヴィクトル。


 止まる。


「……」


 佐藤。


 察したり。


「あ」


 ウォッカ召喚能力者。


 当然。


 酒には反応する。


 店主。


 北方の酒を出したり。


 ヴィクトル。


 飲む。


 少し考へる。


「悪くない」


 貴光訳す。


 店主。


 喜ぶ。


 その後。


 ヴィクトル。


 自らウォッカ召喚。


 店主。


 飲む。


 固まる。


「何だこれは」


 異世界酒文化。


 衝撃受けたり。


 夕方。


 宿。


 一行戻りたり。


 久方ぶりなる穏やかな一日。


 戦果。


 無し。


 倒した敵。


 無し。


 得たもの。


 紙。


 筆。


 鞠。


 酒。


 食べ物。


 それだけなり。


 されど。


 佐藤。


 椅子に座り。


 笑ひたり。


「こういう旅でいいんだよ」


 貴光。


 頷く。


「雅あり、食あり、景色あり」


「良き日なり」


 珍しく。


 全員同意したり。


 剣も。


 魔法も。


 鉄の鳥も。


 今日は必要無し。


 ただ。


 奇妙なる一行が。


 普通に街を楽しみし一日。


 それもまた。


 大切なる旅の一部なりけり。

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